コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第10話 「私の伯父様がこんなに可愛いわけが………あった!」

 黄昏に浮かぶ神殿を無言の父上様と一緒に歩いている。何故こんな事になってしまったのか後悔せずにはいられなかった。

 

 事の発端は数時間前に遡る…。

 

 久しぶりに父上様と朝食をご一緒しているのだが…。一言二言話しただけで会話らしい会話もなく、ただひたすら食事をするだけの空間に正直暇になった。テーブルマナーを守っての食事は時間が掛かる。別に残しても良いらしいのだが勿体無いので却下だ。なので手と口は動かしつつ考え事に耽っている。

 

 コードギアスの特徴と言ったらナイトメアによるロボットアクションや少数で大多数を圧倒するゼロの奇策など、数多くのものがあるがやはり一番はタイトルの一部にもなっているギアスだろう。

 

 考えてみると不思議な能力なんですよね。中には催眠術や読心術みたいのから、物理現象に干渉するものなど種類が多いんだよな。そしてそのひとつひとつが強力で使い方によれば世界さえ動かすことが出来る。

 

 もし…、もしも私がギアスを入手できたとしたら生存率が上がるんだろうか?確かに争いごとに巻き込まれそうだが、使う事を前提に考えるのではなく何かあった時にあれば良いなという感じでいれば、巻き込まれる事もないのではないか?ジェレミアが持っていたギアスキャンセラーなど一番欲しい物である。

 

 そこまで考えたがギアスを貰う為にV.V.やC.C.にどうすれば会えるのかまったく分からない。嚮団の場所はアニメで中華連邦のどこかと言う事で探そうと思えば探せるだろうが、アポ無し訪問や一見さんは不法侵入者で瞬殺されるだろう。考えたところで無駄だと解っていても無い物を強請ってしまう。

 

 「ギアスかぁ…」

 

 今思えばこの一言が今回の原因なのだ。ぼそっと呟いた一言が父上様の耳まで届き、鋭い眼つきで睨まれて「話せ」と命じられたのだ。絶対遵守のギアスでなくて良かったと本気で思った。なぜなら「私がギアスについて知っているのは、この世界がアニメで放送されていた世界から転生憑依して来たからです」なんて発言をする所だったのだから。苦しい話だが父上様に金髪ロングの少年、マリアンヌ様が『ギアス』の事を話している夢を見たと伝えた。聞き終えた父上様は目を瞑って腕を組んで考え始めた。

 

 正直死を覚悟した。せめて記憶改竄でギアス関係の記憶を消す程度でお願いします!!

 

 しかし予想した考えからは外れて、午前の仕事を全てキャンセルして伯父上様に会うことになったのだ。

 

 私もギアスが欲しくて会いたいと思ったがまさか本当に会う事になるとは…しかも父上様同伴と言う最高の形でだ。着いたら殺すなんて事もないだろう。ないですよね?無いって言ってください父上様!!

 

 心の祈りなど聞こえる訳もなく、ギアス嚮団に到着してしまった。

 

 最初に目にしたのは奇妙な場所だった。全体に紫がかった鉄ともコンクリートとも違う材質で出来た床や壁、柱に囲まれた空間。父上様と共に来た神殿のようではなく、コンクリートで出来た簡素的な地下駐車場のように思える。後ろにはギアスの紋章が赤く輝く壁があり、そこまでレッドカーペットが続いている。立っている所から出入り口までの床には段があって、三段に分けられている。出入り口付近が一番低い床で、二段目の床には眼元以外は嚮団の紋章が入ったローブで隠した不審者…もとい、嚮団メンバー八人が並び、私が立っている床には背もたれが丸っこいオレンジ色に座る、ふわふわの金髪ロングの少年の伯父様が居た。

 

 「待ちかねたよシャルル。彼が君達のお気に入りのオデュッセウスだね」

 「ええ、そして夢とは言えギアスを知っている者」

 

 何か父上様と伯父上様が話しているが理解できなかった。自分が知らない言葉などで喋っているとか、手話などのハンドコミュニケーションを使用して意思疎通しているとかではない。ただ耳には届いているが頭まで入ってないだけだった。

 

 透き通るような白い肌に、煌びやかなブロンド。左右に髪留めをつけて、柔らかそうな髪を後ろに垂らしておでこを晒している。幼くも整った顔は怪しい笑みを浮かべて私を見つめる。

 

 この伯父上様めちゃくちゃかわいいんですけど!!撫でたい!髪を梳いてみたい!膝の上に乗せてみたい!!

 

 身動きひとつせずに凝視していたオデュッセウスを不審がったV.V.は顔を顰めつつ見つめ返す。そこで彼が何故凝視しているかを自分なりに考えてみた。すると一番最初に至極当然の答えが出た。まず自分がなにものでなんなのか。そして自己紹介すら行っていない事に気付いた。

 

 「現実でははじめまして。そして夢の中を含めたらお久しぶりとでも言っておこうかな。ぼくの名はV.V.。君の伯父にあたる」

 「はじめまして伯父上様。私はオデュッセウス・ウ・ブリタニア。貴方の甥です」

 

 にこやかに手を差し出すと今度はキョトンとした驚きの表情をした。逆に今度は自分が顔を顰める。自分は何か仕出かしてしまったのだろうか?

 

 当たり前の事だった。見た目十歳前後の少年が二十二歳の青年の伯父と言って誰が信じるのだろうか。それを原作知識があるがゆえに当たり前のように受け取ってしまったのだ。V.V.が不審がるのも納得出来よう。というかするほうが普通だろう。

 

 一時は驚いた表情をしたがすぐに怪しげで楽しげな笑みを浮かべ、手を握って握手を返してきた。

 

 「へぇ…君は僕が伯父と聞いても驚かないんだ」

 「?…ええ、嘘はつかれないと思っていたんですけど…あれ?」

 「本当に面白いね。どこまで見てたのか知りたいよ。君が見た夢とやらを」

 

 あ…これヤバイやつだ。

 

 今更ながら持っていた知識で喋った事を後悔するがすでに伯父様の視線から逃れる術を持ってない事に気付く。後ろには無言の重圧を向けてくる父上様に、前には怪しい笑みを浮かべる伯父上様。完全に逃げ場をなくした現状に頭が真っ白になりそうになる。それどころか気絶しそうなくらいだ。

 

 今までルルーシュが自分の命の危険人物第一位と勝手に思い込んでいたがここにもっと危ないのが居たんだ。冷や汗を掻きそうになるが必死にいつもの笑顔で平静を装いながら手を戻す。別に装う事に何の意味もないのだが。

 

 転生憑依した事やアニメでこの世界の事を知っているなどの真実を伏せて、夢で見たと伯父上様にも説明する。内容は父上様に話したものと一緒だ。正直彼らに嘘をつくのは恐ろしかった。もしマオのように頭の中を覗けるギアスユーザーがいれば嘘がばれて今まで隠していた真実が明らかにされてしまう。明日の訪れない世界…自分に優しい世界になってしまう。

 

 オデュッセウスの危惧を余所にV.V.は興味有りげに聞いていた。疑いの眼差しを向けられない事に安堵していると予想外の言葉をかけられた。

 

 「ふぅん…君もギアスを手にして見る?」

 

 どういう流れでこう言われたかは理解出来なかった。しかし棚から牡丹餅。欲しいと望んでいた物が手に出来る唯一の機会。しかもC.C.ではなくV.V.だから未来のルルーシュにも私がギアスユーザーとばれる恐れはない。そこに考えが至ったときにはゆっくりとだが頷いていた。

 

 「シャルルのお気に入り…どんなギアスが発現するかな」

 

 先の怪しげな笑みではなく愛しむような微笑みを浮かべて手を伸ばしてくる。無意識にそっと手を重ねるとV.V.の額にあるギアスの紋章が輝いたところで意識が遠退いた。

 

 灰色に染まった世界…

 

 神秘的な衣装を纏った少女達…

 

 明るくも暗い宇宙…

 

 何とも表現しがたい空間や景色の中を流れていく。その中にはマリアンヌ様とC.C.、父上様と伯父上様が草原でくつろいでいる物もあった。

 

 かちりと歯車と歯車が噛み合ったような音が体内に響いた。いつの間にか閉じていた瞼を開くと正面に伯父上様の姿はなかった。

 

 「こっちだよ」

 

 辺りを見渡していると後ろから声をかけられて振り向くと伯父上様と父上様、そしてその後ろには白衣を着た老人が取り押さえられていた。どういう状況なのか把握できずに脳内が停止する。

 

 深呼吸をしながら流れを確認する。父上様にギアスと呟き伯父上様と会って何故かギアスを貰って取り押さえられているお爺さんと視線が合った。うん。まったく意味が分からない。

 

 「ギアスを得たところで自分の能力がどんなものか知りたいだろう?」

 「まさか試してみろという事でしょうか?」

 「勿論そのつもりさ」

 

 さも当然かのように告げられた一言に唾を飲み込む。伯父上様からお爺さんに視線を向けると必死に助けを請うてくる。自分としても人殺しなど真っ平である。そもそも殺せなどとは一言も言われてない。もし絶対遵守のような効果なら死なせるような事を言わなければいいわけだ。何度も言い聞かせて相手を落ち着かせるように優しげな笑みを向ける。

 

 「大丈夫ですよ。危険な事は言いませんから」

 

 絶対遵守以外のギアスは己の強化か範囲型で周囲に影響を及ぼす。それら単体で直接死に関わるものはなかった筈だ。

 

 笑みを受け取ったお爺さんは祈るように手を合わせて覚悟を決めた。父上様が距離を置いたところで右目のスイッチを入れる。右目から何かが広がる感覚を得た。どうやらギアスが発動したらしい。しかし…

 

 「何も起こってませんね」

 

 疑問を口にした父上様の通りに実際問題何も起こっていなかった。そのほうが良いのだがギアスを授かったのは事実らしく作動してないと言うのはおかしい。これには伯父上様も首を傾げて悩んでいた。

 

 「うおおおおお!?」

 

 急に大声が響いて何事かと慌てて振り向くとお爺さんが勢い良く立ち上がっていた。足元に杖が置いてある事から立つのにも不便していただろう。

 

 ん?立ってる?

 

 杖を見て判断したのだが今のお爺さんは思いっきり立っていた。杖も使わず己の足のみで立ち上がっていた。驚きつつ見続ける。

 

 「今まで立つのも苦労していた腰痛が治った!!」

 

 興奮気味に叫ぶお爺さんにつられて辺りのギアス教団所属の者達が何処何処が良くなったと呟いている。父上様なんて肩を大きく回して何度も調子を確めていた。

 

 オデュッセウス・ウ・ブリタニア

 発現したギアスは『癒しのギアス』。効果範囲は半径50メートル。直接触る事で効果は集中させる事が出来る。効果は肩こり腰痛などの回復に精神的安らぎを与える。

 

 とりあえず皇族じゃなくなってもマッサージ師やセラピー方面で生きていける事を確認した。

 

 

 

 「宜しかったのですか?」

 

 ギアス教団の者達を下がらせ、オデュッセウスを帰らせた後でシャルル・ジ・ブリタニアは兄であるV.V.とアーカーシャの剣の前で並んでいた。

 

 自分の息子の中でもオデュッセウスは特別な存在だった。幼き頃から見せた才能や学習の早さには驚かされた。書類仕事などを任せたり、軍の指揮をさせても何の問題もなかった。優秀な息子達の中で皇帝の座を誰が受け継ぐのかと問われれば間違いなくその名を告げるだろう。

 

 かなり重宝している存在だ。だからこそ、いや、奴だからこそ警戒もしている。

 

 皇族内のほとんどの者を味方につけ、貴族や軍部にも手を出している。特にアッシュフォード家や若手の新兵には支持を受けているらしい。マリアンヌは貴族内では疎まれ、軍部内では慕う者が多くいると聞く。これは腕は確かなのだが庶民出と言う事が強く関係している。ならばマリアンヌには及ばぬが腕は確かで皇族の血筋の人間ならばどうだろうか?結果は分かりきっていたかのようにマリアンヌを疎ましく思っている連中からの支持も受けて支持者は多い。最近では皇族や軍部だけでは飽き足らずにメディアを通して民衆からの支持も集めだしている。されど何かを行なうなどの気配は一向に見せないから要注意人物で留まっているが。

 

 個人的にはマリアンヌと仲がいいようだから別の意味でも警戒はしているが。

 

 ギアスを知り得たとは思わんが、夢で見たなどという話を信じるのは無理があった。それは兄上も同じ筈だと考えていたが…。

 

 「うん。実に面白いと思ってね」

 「面白い…ですか」

 「契約を行なう時は少なからず相手の事を覗けてしまうんだ」

 「ええ、前に聞いたことがあります」

 「なのに彼だけは何も見えなかった。いや、覗けなかった」

 

 純粋そうな少年の見た目に似合わない獰猛な笑みを浮かべていた。狂喜を纏い、楽しそうに、嬉しそうに微笑んでいる兄を見て困った笑みを浮かべてしまう。

 

 「気に入られたのですか兄さん」

 「結構気に入ったよ。どうにかこちら側に引き込めないかな?」

 「それはどうでしょう。あやつは私でさえ何を考えているか分かりませぬ」

 「ふふふ。それはまた随分…本当に何者なんだろうね」

 「まったくです。まだ『ワイアード』とでも判明したほうが説明がつくでしょうが…」

 「『契約せずに力を行使する者』または『繋がりし者』…。確かにそのほうが納得は出来たね。未だその存在は確認されてないけど」

 「もし…彼奴(あやつ)が我らの前に立ち塞がった場合には」

 「容赦なく叩き潰さなきゃね。辛いかい?」

 「いいえ。我らの願いが叶えばまた問題はありませんから」

 

 そこまで話すとお互いに黙って神殺しの剣『アーカーシャの剣』を見上げる。自分と兄さん、マリアンヌとC.C.の望みを思い浮かべながら。


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