リボーン短編集   作:ウンバボ族の強襲

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創作系お題bot様で出したヤツのサルベージ品


飲み込みそこねた魂が、まだ、喉の奥に絡みついて。

初めまして、人工知能です。

それもただのロボットではありません。この先来るだろう超義体化社会に向けていち早く運用された実験用の人工知能です。

 

私の自慢はこの体です。首から下が生身という、とてもとても珍しいタイプの義体です。ところどころ傷だらけですが、まぁ、仕方ないでしょう。私の体20代の男性です。肌の色は透けるように白く、筋肉は細身で引き締まっています。何故か左腕と心臓が義体に変換されていますが、これは私の落ち度ではなく、元々の仕様のようです。

私には同居している人間がいます。このお方が私のパトロンです。年は三十歳くらいだと言っておられました。この人も顔に傷があります。しかしどこでそんな傷がついたのか私に教えてはくれません。そしてインプットもされていないので私には分かりません。

この人は私にとても優しくしてくれます。

私はこの人を『ボス』と呼びます。パトロンですから、ご主人様ともお名前に様をつけてお呼びしても良いと思うのですが、これは命令でした。

命令には従うようにインプットされています。どんなことにも。

 

話は変わりますが私には人格が設定されています。

人格だけではありません。剣術、つまり「刃物による殺人の為の技術」が回路に組み込まれています。どうやら機械の頭と生身の体をリンクさせる実験の応用のようです。どうやらこの体は散々剣になれているらしく私の体は驚く程剣になじみました。

「驚いた」とドクターたちは口をそろえて言いました。

「人の記憶は、脳にだけ宿るものではないのかもしれないな」などと言う言葉を。

そうなんでしょうか、と私は時々不安になります。

 

私の脳は人工物です。機械と、電子基板と、あとは無数のチップと電気信号によってつくられています。だけど、この人格や思考は私が作り出したものではありません。

博士たちや大勢の技術者たちの手でプログラミングされたもの。更にはその前には『誰か』が20と少しの年月をかけて組み上げていったもの、だそうです。

つまり、この体の持ち主です。

 

『ボス』は私にとても優しくしてくれます。

しかし、私はソレが『私』に向けられているのか、そうでないのか、理解できません。よく愛おしそうに体を撫でてくれますがソレは生身の肉体だからでしょうか。

生身の体を優しく撫でさすったかと思うと、機械であるハズの義手に触れます。ペースメーカーの埋まっている心臓に手を当てます。これが『ボス』の不可解な所です。

人工物だけを愛する人間は居ます。

逆に、肉で出来た体を愛する人間も居ます。

しかし、『ボス』はそうではありません。機械の部分もタンパク質の部分も等しく愛しているかのようなそぶりを見せます。

……見せる、のに。

 

首から上には一切触れてはくれません。

 

 

私は知っています。

昔、この人には恋人がいたのです。

美しい人でした。そして悲しい位馬鹿でした。

恋人は主だと思っている人間に忠誠も人生も腕も心臓も何もかもを捧げました。命まで。

それはどうしようもないけれど、致命的な不注意でした。

凶弾から最愛の主人を守る為に盾になりました。

主人は間一髪で命が助かりました。しかし、その人はダメでした。

主であった人は倒れた恋人を抱き起こそうとしました。

皮肉にもそれまで傷だらけになりながらも、間一髪で生還を果たしてきた体に傷はひとつもついていませんでした。

その代わり、頭だけはもうどうしようもなくなっていました。

彼が愛した、彼の為だけに伸ばされた長い白銀の髪も、血に染まって真っ赤なっていました。

凶悪な表情ばかり見せていた整った顔は、すっかりなくなっていました。

最後の言葉も表情さえも残らずに首から上が丸ごと消えてしまったのです。

古傷だらけの綺麗な体だけを残して。

 

 

私は人工知能です。

電子回路で思考を行い、無数のプログラムで感情を構築します。既に私はヒトと同じように喜怒哀楽の感情を理解し、実行することができます。

 

しかし、これは何なのでしょう。

時々、胸が痛くなります。

胸というのは曖昧な言葉です。正確に言うならば、心臓です。

人工物であるはずの、ただのペースメーカーであるはずの。

生身の肉体に血液を流すだけの役割を持つハズの心臓が、締め付けられるように熱くて狂おしい感覚を強く感知します。

 

 

本当に、脳だけが、思考を司るのでしょうか。

博士たちが言うように、記憶が脳だけに蓄積されないのでしょうか。

もしかしたら、心は、脳だけではなく、臓器や他の器官にも残るのではないでしょうか。

それが、魂なのでしょうか。

 

『ボス』は今日も私を抱きしめてます。

 

抱きしめたかった、恋人の体を。

 


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