リボーン短編集   作:ウンバボ族の強襲

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ボックスって変換で出ないから妥協




La scatolone

 

 

 

 このカスが笑ってやがるのが悪りぃ。

 

 

 

 

 

 

 

 ボンゴレ本部から「ヴァリアー全員ボックス兵器を所持すること」との命令が下った。

 

 どうやら新興勢力『ミルフィオーレ』との闘いに備えておけ…と言外に告げているのだろう。

 

 急な戦力の増強、その裏側を知ってか知らずか持ち込まれたボックス兵器を前に幹部はそれぞれ純粋な力への期待と渇望の入り混じった眼差しをむけていた。

 

 

「私のボックスはどんなのかしら~~? できれば派手でパーッとした奴だといいわ~~!!」

「王子のボックスが地味とか有り得ないし」

「自己顕示欲激強先輩たち黙ってくださーーい。多分ケッバイのが出るでしょーーねーー……ミーはこんなんが暗殺組織とか一体世の中どうなってんだとか思いますーー」

「消すぞクソガエル」

「フッ……箱の中身が何であろうとボスの役にさえ立てればそれで俺はj……」

「ゔぉおおおおい!! うるせぇ!! テメェらベチャベチャくっちゃべってんじゃねぇ!!!!」

「まだ俺がしゃべって」

「るせぇってんだろぉ!!!!」

 

 

 ……純粋な力への期待と渇望の混じった目で見つめていた。

 

 XANXUSは並んだ箱兵器をピジョンブラッドの目で見下ろす。

 

 

 

 ……どうも嫌な予感がした。

 

 

 

 

「おい、カス」

「何だぁ? なぁボス、開けていいかぁ? 開けていいかぁ?」

 

 振り返った男は神が与えただろう端正な容貌を全くの台無しにしていた。

 透き通るような銀色が曲線の軌跡を描いて揺れる。

 そのレリーフのように整った顔には、まるでプレゼントを前にした子供のような喜色が浮かんでいた。

 淡い色の目がキラキラと輝いている。

 

 

 冷たくも見える硬質な美貌に浮かぶ、子供のような無邪気な表情。

 

 そのギャップが何かを刺激し、煽ってくる。

 

 一瞬そいつを可愛い、と思ったXANXUSは近くにあった手頃な花瓶をスクアーロ目がけて投げた。

 

 

 花は入っていなかったが、水は差してあったのだろう。

 

 欧州の名門ブランドの花瓶が、スクアーロの頭に直撃。

 木っ端みじんに粉砕。

 更には中の水まで漏れて、銀の髪を濡らす。

 

 

 最早日常茶飯事になっているヴァリアーDV。

 

 周囲のメンバーも、スクアーロも、特に動じた様子は一切なかった。

 

 

「何しやがる!!!!」

 

「おいカス……テメェは開けんじゃねぇ」

 

「ハァ!? 何でだぁ!!??」

 

「るせぇ」

 

 

 銀の燭台も投げた。

 

 当たった。

 

 いい音がした。

 

 

 

 

 

「なっ……な、納得できねぇぞぉ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 認めたくないがあの日から鮫が苦手だった。

 

 

 あの日だ。

 

 

 ボンゴレX代目の座を賭け、指輪を奪い合ったあの時代。

 『雨の守護者』として雨の指輪を賭けて戦ったスクアーロが負けた時。

 

 

 

 あの時自分は笑っていた。

 

 

 散々偉そうなこと抜かしやがったカスが負けやがった、と笑っていた。

 これで過去がひとつ清算できると思っていた。

 確かに目に焼き付けたハズだった。

 スクアーロが鮫に喰われるところまで。

 痛い位に、自分のことを信じてやがった大馬鹿が一匹かっ消えた。

 

 その程度のことだ――――そのハズだった。

 

 

 

 

 結局、XANXUSはX代目にはなれなかった。

 

 

 

 今では養父も死に、かつて競い合った沢田綱吉がドン・ボンゴレの地位にある。

 

 あの時舐めた屈辱も、

 灼けるような怒りも、

 焦げ付くような憎悪ですら、気がつけば時が風に帰していた。

 

 憤怒の炎が消えることはない。

 

 ただ、それは即発的なものではなく――ゆっくり静かに高温で燃え盛るようになっただけだ。

 

 

 

 

 

 だが、敗北を過去として捉えられるようになった今だからこそ見えるものがある。

 

 

 

 

 

 抜けるように白く、極上の絹のように滑らかだったカスの肌。

 そこに這う、いくつかの無残な傷痕。

 

 残してしまった、と思ったのだ。

 

 残ってしまった、と、柄にもなく本気で後悔したのだ。

 

 無論態度にも口にも絶対に出さなかったが。

 

 本当に――――本当に、後悔したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以来、鮫は苦手だった。

 なるべく見ないように遠ざけていたハズだった。

 

 だが、恐らくあのボックス兵器――雨に適合したスクアーロのボックス兵器。

 

 あの中身は、鮫だろう、と直感した。

 

 

 

 

 『兵器』であるはずのものに感情を動かされるなどカスの極みだ。

 だが、もし(多分確実に)あの中身が鮫だったらと思うと――とXANXUSは思考する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は――冷静でいられるのか?

 

 

 カスは――――平気でいられるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 答えのない問いだけが、空中に霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゔぉおおおおおおおい!! ボス! 見ろぉ! すげぇ!! 鮫だぁああああ!!」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 ノックもなしに、突然XANXUSの執務室の扉が蹴破られた。

 

 そこにはうっとおしい程長い髪のカス、スクアーロが居た。

 両手には自分のボックス兵器だろう――勝手に開けやがったのだろう――青く燃え盛る雨の炎をまとった小型の鮫がビチビチビチと抱えられていた。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

「すげぇだろぉ。今はまだ子供だけどなぁ……コイツはでっかくなるぜぇ! 俺が喰われた奴ぐれぇになるぜぇ!!」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

「見てろぉ! コイツで俺はアンタの為に――」

 

 

 

 

 

 

 

 それは、獲物を取ってきた猫が飼い主に自慢しにくる様にも似ていた。

 

 それはそれは得意そうに。

 

 誉めてくれ、とでも言うかの様に。

 

 

 

 

 

 

 

 とても無邪気に、純粋に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、XANXUSは。

 

 

 

 

 

 棚に常備してあった酒瓶を。

 

 

 

 力の限りに、投げるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カス野郎がぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心配なんぞした俺が馬鹿だった。

 

 

 

 

 

 やっぱコイツはどこまでもカスだ。

 

 

 

 

 人の気なんざ知らねぇで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このカスが笑ってやがるのが悪りぃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















「ボ、ボス……悪かったぁ! す、すまねぇ!!」





 あぁ、やっぱボスさん怒ってんだぁ。

 



 俺が我慢できねぇで、ボックス開けちまったから怒ってんだよなぁ。





 
 だから殴られても仕方ねぇか。


























「スク……あぁ、駄目ね……あの子……何も分かってないわぁ……」



「やっぱ馬鹿じゃねーかな……つか何? やっぱドMなの? なんかもう王子逆に笑えるんだけど」



「本っっっ当にすれ違い凄まじいですねーー。アホのロン毛隊長は自殺志願の気でもあるんでしょーかねーー?」


「……俺の雷エイも誉めてくれボス……」


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