東方信頼譚   作:サファール

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 ほい、今回は戦闘です。
 書き溜めの内容を編集で確認しているのですが、現時点との作風の若干の違いが気になってしまい、なんだか恥ずかしくなりますw

 あ、会話などのかっこについて説明しておきます。

 普通の会話や台詞には「」を使います。
 回想内の会話や強調したい語句には『』を。
 『』程ではなくても注目して欲しい部分があったら””や・・・を使います。
 コソコソ話や筆談などの会話には「()」を。
 技名には【】を。
 台詞で、五人以上がハモる場合は「「「「「」」」」」となります。


 他にも何か特殊なものがあるかもしれませんが、それは作中の雰囲気で察してください。


 そんではどうぞどうぞ。
 


10話.初めての死闘と増幅する闇

「私の名前は地代(ちしろ)(らん)。二つ名は『地這いの妖怪』で、ここら一帯の妖怪を統括している大将だよ!」

 

「僕は白城修司。二つ名は無いけど、都市で軍の部隊長をしてるよ。よろしくね」

 

 握手をした二人は、互いに自己紹介をした。

 

「修司も何か二つ名考えた方がいいって!」

「僕は二つ名なんていらないよ。既に部隊長っていう肩書きがあるしね」

 

 本当は、僕はあまり表舞台に立ちたくない人種だ。これまで自信満々に隊員達を引っ張っていたが、あれは仮面を被っていたから出来ただけで、本物の僕はあんな大それたことは出来ない。

 

「むー修司は欲がないなぁ。もっとガツガツいかなくちゃ、人生損だよ?」

 

権力を欲に任せて欲しがっていると、人間という生き物は必ず失敗する。そういうのはもう自然の理として確立しているほどにはっきりした事実だ。

 

「行き過ぎた欲は人を狂わせるからね。身の丈に合った分だけで丁度いいのさ。そういう地代だって、妖怪を束ねるの、大変じゃないの?」

 

地代はそう言った僕に首を振って、肩を竦めた。

 

「全然全然。あいつらは力でねじ伏せればいいから寧ろ簡単だよ。妖怪に倫理なんて無いしね。……というか、友達なんだから、ちゃんと名前で呼んで」

「え?それは…」

 

 また永琳のパターンだ。

 

「いいでしょ?」

「……拒否権は?」

「無いよ☆」

「…はぁ、しょうがないか」

 

 最早抵抗することを諦めた修司であった。

 

「……こういう所が、他の妖怪には無いんだよ…」

 

 それは僕達非捕食者がよく分かっている。妖怪は非常に自己中心的で、先ほどまで友達だった妖怪を裏切ってまで目の前の物を手に入れるほど単純な生き物だ。まぁ、中には頭のある奴もいるが。

 余程孤独だったのだろう。蘭の瞳にはこれまでの苦悩が映っていた。

 

「妖怪の業界は弱肉強食だから。私は異端だったから最初はここに一人で住んでいたけど、能力で力を手に入れてからは、みんな手の平を返すように私に媚びてくるようになった。修司が殺してくれたあの妖怪達はその中でも特に酷い連中ばかりだったから、修司には感謝してるよ」

「僕の方こそ。互いに利のある事だったから、僕からも礼を言うよ」

「どういう…あぁ、そういう事か」

 

 やはり、蘭は相当できるヤツだ。妖怪なのに、永琳のように先を見て色々なことを予測することが出来る。

 

「ふふっ。なら、これからも送ってあげようか?」

「止めてくれ。こっちにとっては死活問題なんだ」

「まぁ、これからは君がいるしね」

 

 言うと、蘭はとある茂みに向かい、その中で何やらゴソゴソとし始めた。その雰囲気から妖怪の気質を見て取り、僕は隣にある短槍を持って立ち上がる。

 

「お、やっぱり分かるんだね」

「これでも都市最強の看板を持ってるんだ。そちらの看板にも負けない逸品さ」

「やはり君を選んで正解だったよ。最高の友達だ」

 

 短槍を持った僕は木陰から出て、湖畔の草原に降り立つ。

 茂みから自分の得物を持ってきた蘭は適当な距離を取りながらそれに正対するように立つ。

 

「君は短槍を使うのかい?私が居た時は双剣だったけど…」

「基本なんでも使えるんだよ。それが僕の強みであり、弱みかな」

「そうかい。これ、見てよ。私が能力で作ったんだよ」

 

 蘭が自慢げに突き出したのは、何の変哲もない脇差だった。刃も30センチ程で平均的、(つば)は無く、柄にはなんの装飾も無かった。

 

「ほう、脇差か…。見たところ普通だね。僕達が使っている物との違いと言えば、それ全体が金属みたいなので出来ている事かな?」

 

 一瞬で相手の得物の特徴を見抜いた修司。だが、これに蘭はフルフルと首を振った。

 

「惜しいね。これは確かに全部金属で出来ているけど、ちょっと特殊なんだ」

 

 真っ黒な柄、そして白銀色に輝く美しい刀身。それはそれは神々しい光を放つ刀だ。

 

「…不思議な金属…か」

「そういう事」

「という事は、能力はきっと大地に関係するものだね」

「お?推理してみる?」

「いや、現状で判断するのは危険かな。まだ判断材料が少な過ぎる」

 

 きっと大地関係の能力なのは確かだろう。それか、物質系か、創造系か、今の会話だけでもかなり絞られる。それに加え、自己を強化することが出来る。しかも、それはどうやら永続的な効果らしい。これらから想像するに、恐らく…

 

(かなり危険な能力だな…)

 

 準備運動をし始めた蘭を睨み、こいつが都市を襲撃した時を想像する。…うん、ここで殺してしまった方がいい。

 

「それじゃあ、やろうか────!!」

 

 蘭がそう言ったのが合図となり、これまでにない闘いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 脇差を持って嬉嬉として突撃してくる蘭を見ながら、修司は取り敢えず霊力を使わずに振るわれた刀を弾いた。

 

ガキィン!

「っ!」

 

 だが、怪力の修司でも弾くのは難しく、かと言って上手くいなすのも難しかった。しかも、相手は小手調べのようで、妖力を纏っていなかった。つまり、何も無しの力比べではこちらがちょっと不利だという事だ。

 

「そらっ!」

 

 蘭が更に踏み込んで脇差を振るってくる。取り回しのいい脇差は連続攻撃やトリッキーな攻撃が主で、速さと手数、それと意外性がある武器だ。それをただ安直に当てに来ている時点で、彼女の技量は判明した。

 

「ふっ」

 

 刺突を放ってきた蘭の刀を脇のスペースに通し、その瞬間に相手の腹に膝蹴りを打つ。そのまま接近してくるとは思わなかった蘭はこれをもろに食らい、腹に来た威力を殺せずに吹っ飛んだ。

 

「妖力は使わなくていいのかい?」

「あいてて…。まだそっちは霊力を使ってないじゃないか。先に使わせたいんだよ」

「そんな意地を張っていると、すぐにやられるよ?」

 

 相手を挑発してみたが、どうやらこちらが霊力を使わない内は妖力を使わないらしい。パワーでは劣っているので霊力を使いたいところだが、相手の馬鹿みたいな量の妖力に対抗できる気がしないので、このままで闘う。

 技量ではこちらが上なのだ。それに、正確に読み取れば、いなせない攻撃ではない。…いける。

 

「はっ!」

 

 リーチの長さを活かして突きを放つ。それを蘭は紙一重で避けた。だが、そんな事は分かっている。修司は突きを完全に出し切った瞬間に穂先で斬り上げをし、蘭の首を刎ねようとした。

 しかしこれにも蘭は反応し、首だけをよじって穂先の軌跡から身を引いた。

 

ピッ…

 

 完全に(かわ)されたかと思ったが、彼女の頬から滴る血液が、それを否定していた。

 

「危ない危ない。あと少しだったよ」

「今のを躱すのか…」

「妖怪の反射神経嘗めちゃいけない…よっ!」

 

 槍を戻している間に蘭が接近し、短槍と脇差がものすごい速さで交差する。その度に金属同士がかち合う音が辺りに響き、火花が空気を焦がす。

 修司は攻め(あぐ)ねていた。力は少しあちらに有利だが、その分を得意の物理技術と脳の性能でカバーしている。的確に刃を逸らしていなすのだが、反撃する間もなくまた次の刃が迫ってくる。短槍は曲がりなりにも槍だ。レンジは普通の刀より長く、それでいて機動性に定評がある。しかし、槍の間合いの内側に入られると、槍はそれだけで使いづらくなる。脇差はかなり間合いの短い武器だ。接近されてしまうとかなり危険になる。

 それを防ぐために、全ての攻撃を弾いて懐に入られないようにするのだが、如何せん相手は妖怪。体力は無尽蔵にあり、瞬発力は人間とは比べ物にならない。

 

 修司の槍よりも蘭の脇差の方が手数が多く、修司は徐々に後ろに後退させられていった。器用に石突きの部分も使ったりして手数を同数にしているのだが、蘭が踏み込む度にこちらはその分だけ退らないといけないので、結果的に修司が押されている形が出来上がった。

 

「うりゃぁ!」

 

 闇雲に攻撃しているのに飽きたのか、蘭は一瞬溜めて袈裟斬りに仕掛けてきた。今までとは威力が違う一撃だ。

 これだ。これを待っていたんだ。しびれを切らして疎かになるこの一撃を。

 

「よっ!」

 

水平に持っていた短槍を空中に投げて浮かせ、その隙に迫る刀の刃を真剣白刃取りする。そして合掌したその両手を捻って、脇差を握っている蘭の重心を浮かせ、修司は前に躍り出た蘭の腹を蹴り上げる。

 浮いて回避不能な状態にしてから、空中に留まっている短槍を引っ掴み、思いっきり横に薙いだ。

 

「ぐぁぁっ!」

 

 だが、咄嗟に腕をクロスさせて両腕を犠牲にした蘭は、何とかその無防備な首筋を斬られる事を凌いだ。

 これで終わると思っていた修司だったが、追い討ちとして、勢いを利用して短槍を反転させ、両手で握って踏み込み、負傷した腕を掻い潜って鳩尾に石突きを叩き込んだ。

 蘭は腕が使えないので距離をとるために大袈裟に転がり、タイミング良く地面に衝撃を放って立った。腕は三分の二程切断されており、正に千切れかけだった。

 

「くっ…。私にダメージを負わせるなんて、流石だね」

「その割にはあんまり悔しそうな顔をしていないね。寧ろ嬉しそうだ」

「当たり前でしょ。こんなに楽しいのは久しぶりなんだからさ…」

 

 蘭が切断面をくっ付けて力むと、すぐに腕は元通りになった。握ったままになっていた刀をクルクルと手首で回して、治った感触を確かめている。

 

「妖怪とはいえ、その回復力は異常だな…何か使ったね?」

「当たり。じゃあ何でしょうか〜」

「能力でしょ?それ以外有り得ないよ」

「大正解〜」

 

 膝蹴りと腕の半壊、そして追い討ちとして石突きで一突きしたというのに、全く疲労している素振りがない。寧ろ楽しんでいるというから驚きだ。今は治りたての腕をブンブン振り回して修司との問答を楽しんでいる。

 

「じゃあ、次行ってみよ〜!」

 

 そう言って蘭は先程とは比べ物にならないスピードで突っ込んでくる。そうして放たれた刺突をギリギリ躱すと、さっき修司がやったように伸ばしたまま斬り上げてきた。

 短槍と一緒に避けたから間に柄があり、それに阻まれて攻撃は食らわなかったが、短槍が無かったら修司は既に昇天していただろう。

 

「ていやっ!」

「ぐっ…!」

 

だがそれだけでは終わらず、蘭は空いている左拳で修司の脇腹を殴りつけた。その外見とはかけ離れた威力に修司の顔が歪み、短槍を突き立てて衝撃を耐え忍ぶ。そして苦し紛れに片脚でハイキックを出すも、蘭はバックステップでそれを楽々回避した。

 

「凄い!普通ならここで吹っ飛ぶのに!」

「我慢強いだけさ。結構きたよ」

 

 脇腹を擦り、キラキラした目をしている蘭に苦笑する。実際、致命傷にはならなかったが、骨にヒビは入っただろう。やはり人間と妖怪にはこれほどの格差があるのだ。

 

「じゃあ霊力使えば?」

「まだ使い時じゃないからね」

「そんな事言ってると、あっという間に殺されちゃうよ?」

 

 能力を使わないとここまで自分の実力は下がるのか。いや、これが僕の真の実力と言ったところか。兎に角攻撃に対する防御とスイッチするタイミングがまだまだお粗末だ。それに、初動の差で若干先手を取られてしまっているのが痛い。

 技術では圧倒的に勝っていると思っていたがそうでもなく、案外小技も使えて意表を突いてくる。

 ここには盾となる木も、足元を掬う地形も無い。端まで移動するのは簡単だが、それだと意図を読まれて逆にピンチになってしまう。

 

「りゃぁ!!」

「ぐぁ!!」

 

 打開策を考えながら蘭の刀を弾いていたら、突然蘭が僕の短槍を脇のスペースに入れて懐に入り、同じように膝蹴りを打ってきた。僕がやったパターンをラーニングしているのか?だとすればこれは相当やばい相手だ。

 素直に吹っ飛ばされ、ついに森の入口まで追いやられてしまった。木の幹に身体をぶつけて肺の空気が吐き出されつつも急いで立ち上がると、目の前には白銀に輝く刃が…

 

 

 

 

「っ!!!」ガキィィン!!

 

 

 

 

 他に防ぐ方法は無く、反射的に修司は霊力で盾を張った。

 

「…使ったね?」

 

 ニヤリと口角を上げる蘭に修司はしまったと(ほぞ)を噛んだ。

 

「よっしゃ!じゃあ私も使っちゃうよー!」

「くそっ!」

 

 蘭から膨大で暴力的なまでの妖力が溢れ出てくる。修司は急いで回り込んで距離を取ろうとしたが、動く前に彼女の刀が修司に向かって振るわれていた。

 妖力が纏われた脇差の唐竹割りは、横にローリングした事で回避出来たが、修司が先程までいた場所のすぐ後ろの木は、綺麗に真っ二つに裂けていた。それに驚く間もなく、霊力を這わせて短槍を振り上げた。小気味よい音がして、蘭の二撃目の横薙ぎが真上に弾かれる。

 そこまでやってから、修司は蘭を視界に収めながらバックステップで湖畔に戻り、距離を取った。

 

「さぁ、こっからが本番だよ!」

 

 蘭はまた妖力を刀に込めると、その場でクロスに斬った。するとそこから妖力の斬撃が飛ばされ、一直線に修司の命を刈り取ろうと距離を詰めた。妖力の余波が周囲の空気を切り刻み、風を生み出す。

 妖力の扱いは霊力とさして変わりはないと永琳から聞いているので、対策は雄也で万全だ。ただ、雄也とは量が違うので、いつも通りに出来るかは分からないが…。

 

 短槍を両手で握り、斜めに飛ぶ斬撃二つ、持ち前の脳の演算機能で測りとり、間合いを見極めて“霊力を使用せずに”振るう。短槍の穂先が一筋の閃光となって、斬撃の“一番脆い部分”に垂直に叩きつけられる。

 

「うっそぉ!?」

 

 馬鹿でかい妖力を内包した斬撃を瞬く間に二発とも斬り落とした修司に蘭は目を丸くして驚き、修司は止めていた息を吐いた。

 

「どうやったの!?」

「ただ斬っただけだよ」

 

簡単な事さ、と修司は右手で短槍を横に払い、舞い上がった土埃をかき消す。

 

 斬撃でも普通の攻撃でも、どんな物にでも、万物には自分の形を崩す『点』がある。先程の斬撃は、斬撃の一番幅がある部分の側面がウィークポイントだった。大きな岩だって、釘をある一点に突き刺すだけで、簡単に二つに割れる箇所が存在する。細胞に核があるのと同じ理由だ。

 形を維持する為に存在するそれを、修司は見極めて、そこ一点に集中して短槍を振るったのだ。

 口で言うのは簡単かもしれないが、普通はそんな事不可能である。だが、修司の神とも渡り合う頭脳は、それを容易にやってのけた。

 隊員達を訓練させている間、修司は一人、全員を見渡せる場所で全員の太刀筋とその次の攻撃、そしてその攻撃の正確な防御の方法を脳内でシミュレートしていた。更に、雄也に協力してもらい、『点』の存在の証明とそれを瞬時に見極める経験を積んだ。

 

 これには相当の集中力を必要とする。まだ僕の頭が僕の理論に付いていけていないだけなのでそれも時間の問題なのだが、それでも今の戦闘には命取りだ。

 

「ほらっ!まだまだ行くよっ!」

「くっ…」

 

 斬撃が看破されたからと言って、それで終わる蘭ではない。ならば接近戦で押すしかないと言わんばかりに、冷や汗が出るほどの妖力を小さい脇差一本に全て収束して修司に振る。まともに防御すれば短槍が破壊されるのは目に見えているので、修司は『点』を常に見極め続けて的確に弾いていく。どうしても地力だけでは対処出来ない攻撃にのみ霊力を使い、ジワジワと相手の妖力を削っていく。

 修司はこれでも人とは一線を画すほどの霊力の持ち主だ。いつもはそれを使わないだけであまり知られていない事実だが、修司が霊力を全開したら、それなりに内包霊力も増加してきた雄也でさえ失神するだろう。

 だが、蘭はそれよりも数倍の量、妖力を保有している。彼女と初めて会った時にそれを感じた修司が、背中に嫌な汗が出るのを禁じ得なかったくらいだ。

 いくら修司に霊力があったとしても、霊力を節約して闘わないと、先に力が枯渇するのは修司の方だった。なので、修司は霊力が解禁された今でも、出来るだけ力を使わずに相手に使わせるように立ち回っている。

 

 

 

 

 修司は体力に任せて、妖怪相手には絶対不利とされる持久戦を仕掛けた。

 相手に好きなだけ攻撃させて、それに全て完璧な対応をして回避する。相手の妖力が尽きるまでこの状態を維持しようと、修司は少し脳の使い過ぎで頭痛がするのも構わずに酷使し続けた。

 

 体力だけは誰にも負けていないと自負していた修司も、流石に朝から夕方までぶっ続けで闘っていたら、自慢の体力も底が見えてくる。

 防御に専念し始めてから約七〜八時間が経過した今でも、修司は立っていた。

 身体の各所に斬り傷を負い、皮膚にはこれでもかと青アザができている。それでも両足で立っていられるのは、(ひとえ)に気合い…それだけだった。気力のみで、今修司は闘っている。

 

「はぁ…はぁ…。凄いね…本当に人間なのか疑いたくなるよ……」

「……それは…色んな…人に、言われたよ…」

 

 満身創痍。残りの霊力も僅か。体力は既に限界で、骨も何本か逝っている。

 対する蘭は目立った傷こそ無けれど、体力はもう立っていられないくらいに削られているようだ。それに、途方もない量があった妖力も、今では現在の修司と互角だった。

 ここまで彼女を削った修司だが、既に脳には無視出来ないほど激しい頭痛が起こっていた。段々と『点』を視る作業もお粗末になり、攻撃を喰らう回数が増えてきた。

 短槍を握る両手の握力が無くなってきて、最早振るうことすらままならない。両足は踏み込むだけの力を残しておらず、上がった息は肩を酷く上下させた。

 

 蘭と同様の状態だったが、修司には、彼女に無いものを持っていた。

 

(…負けない……)

 

 蘭との勝負に…ではない。この闘いに負ければ死ぬ。しかし、修司は“そんな事”よりも、もっと別の、大義にも似た、それでいて野蛮で低俗な目的の事を考えていた。

 

「………生きる…」

 

 記憶が無いことがむず痒いが、僕は過去に、“復讐したい相手”がいた事を、なんとなくだが分かっていた。その為には、生きて、生きて、生きなければ。

 

「…次で、最後にしようか」

「……そうだね」

 

 僕の申し出に蘭は応じ、霊力と妖力を同時に開放した。残り僅かと言えど、二人の全力は大気を揺らし、生き物を震撼させた。

 

 それを全て得物に送り込み、渾身の一撃を放つために両者は駆ける。一方は禍々しくも綺麗で野生の妖力、一方は静かで優しくも刺を含んでいる霊力。

 

 

 

 

「「はあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

 

 

 両者の体が交差し、通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間の隊長と妖怪の大将は、二人仲良く湖畔の草原で寝転びながら、力無く笑い合っていた。

 

「いやぁ!久々に負けたね!」

「僕も倒れたから引き分けだよ」

「いやいや、先に気絶して倒れた私を介抱してくれたのに、これが引き分けなわけないでしょ!」

「その後にそのまま僕も倒れたから同じだよ」

 

 二人は今、湖畔で仰向けに横たわりながら、先程までの闘いを振り返っていた。

 僕は気絶した蘭を仰向けに寝させて、介抱しようとした。だが、その前にそこで僕の力が尽き、一緒にそこに倒れてしまったのだ。

 僕は彼女に腕枕をしてあげている。彼女が腕枕をしたいと言ってきたからだ。別に断る理由は無いのでされるがままに腕を好き勝手されているのだが、腕枕とは腕を枕にして寝るというものであり、僕の体に抱き着いて頭を腕に乗せるというものではない。

 

「蘭、腕枕の意味、分かってる?」

「分かってるよ。こうして密着するんでしょ?」

「激しく違うよ。どうして頭いいのにそういう事は間違った知識を覚えているのかな…」

「まぁいいじゃないか。私がこうしたいからこうしてるだけだよ」

「自由奔放は妖怪の性と言うけど、本当にそうだよね…」

「私のモットーは、したい事はして、したくない事はしないだよ!」

 

 顔を横にすると蘭の顔が近過ぎるので、僕はひたすらに真っ赤に焼けている空を見つめる。

 結局、勝負は僕の勝ちとなり、僕は死を免れた。彼女はやっとできた友達と楽しそうに会話をし、その温もりを確かめるように肌に触れてくる。まるで逐一そこに僕がいる事を確認するかのように。そして、その儚さを認識するように。

 

「…ねぇ」

「どうした?蘭」

 

 さっきまで愉快に談笑していた雰囲気とは一転、怪訝そうな顔をして蘭は問いかけた。

 

「なんで私を殺さなかったの?」

 

 何故気絶している間に殺さなかったのか。倒れるまで時間に余裕はあった筈だ。それを蘭の介抱に当て、結果的にぶっ倒れてしまった。今だってそうだ。今の蘭ならば、寝たままの僕の攻撃でも殺されてしまうだろう。そこまで弱っている。だが僕はそれをせず、腕枕(?)をしてあげている。人間が妖怪を殺さずに一緒に寝転ぶなんて話、聴いたことがない。

 

 では何故か。自分の心の中を探って理由を見つけようとする。しかしそれらしい理由は見つからず、回答は「何となく」だった。

 だがそれで素直に引き下がる蘭ではない。知りたい事は知りたがる性分なので、結構しつこいのだ。何か、このモヤモヤした気持ちを一番表現できている言葉は無いか……うん、無いや。

 

「…強いていうなら、最初、釣りの時に殺さないでくれたでしょ?あれの借りを返したかったから…かな」

「え?あれは私が君をあんな簡単に殺したくなかったからで…」

「それでも、助けてくれた事に変わりはないよ。僕が勝手に借りだと思っているだけさ。これで貸し借りゼロ。次からは本当に殺すよ」

「え〜。そんな勝手に貸し借り思われても面倒だよ〜。……あ、そうだ!」

 

 空を見ているので蘭の顔は分からないが、きっとキラキラとした目をしているのだろう。挙動は完全に天真爛漫な女性だからな。

 

「それなら、今私を助けてくれたのは私にとって借り。次に私が勝ったら、見逃してあげるよ」

「いや、そんな事言ったら貸し借り無くならない…」

「いいの!私が勝手に思っているだけだから!」

 

頬をふくらませているのだろう、蘭の声が少しくぐもった。

 

「…律儀だね」

「他とは違うからね」

 

言葉の端々に自身に向けた皮肉を織り交ぜていく。彼女の言動から、今までの色々な感情が流れ出ていくようで、心に関して知識豊富な僕はすぐにそれを読み取ることが出来た。

 

「…辛いのかい?」

 

僕がそう言うと蘭は肩に顔を埋め、胴に回した腕に力を込めた。

 

「………何も言わないさ」

 

 自由に動かせる左手で、右半身にいる彼女の頭をそっと撫でる。孤独でいることの辛さは誰よりも分かっている。永琳とはまた違った孤独だが、それでも僕は彼女の気持ちが痛いほど分かった。

 真っ黒な“檻”が共鳴している。孤独の蜜に震えて歓喜の声を上げている。これまで僕の心を縛っている闇について研究してきたが、消滅法は解らず、解ったのはこの闇の本質のみだった。

 闇は、「孤独」「不信」「裏切り」と言った感情から発生したものだった。僕の心に入り切らずに溢れ出てしまったと推測するのが妥当だろう。そうして溢れ出た闇は形を造り、本質の赴くままに周囲を騙していった。

 そして厄介な事に、闇は他者の負の感情を感じ取ると、それを取り込んで自分のものとして蓄えるのだ。蘭の気持ちが痛いほど分かったというのには、そういった理由がある。

 

 

 

「────あーすっきりした!」

 

 そのまま少しすると、蘭はそう言って立ち上がった。目尻に赤い跡があるが、そこは気付かないふりをしておく。

 

「もう帰ったら?結構遅いよ?」

 

 確かに、先程までは赤かった空も、今では紫色に変色している。もうすぐ夜になってしまうだろう。

 夜の森ほど危険なものはない。妖怪達は活発になり、視界は狭まる。人間にとって夜に行動する事は命取りであり、また妖怪にとっては獲物を狩る絶好の時間帯だ。

 

「そうだね、じゃあ帰るよ」

 

 数時間寝そべっていたのである程度体力は回復した。ここから都市まで帰るのには問題無いだろう。

 

 短槍を背中に背負い、来た道を思い出してそちらの方向を向く。

 

「じゃあ、次に来た時は僕の家の釣竿を持ってくるよ」

「それまでに釣りの腕を上げておかなくちゃね」

 

背中にかかる声と短く別れの会話をし、二人同時に口を開いた。

 

 

 

 

「「それじゃあ、またね」」

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 ガサガサと茂みを揺らす音がする。それに気付いた第三十一番特別任務部隊、略して特隊の隊員こと蔵木雄也は、サッと周りに指示を出してその部分を警戒した。

 他の隊が倒れるような訓練の中、この特隊だけは一人も欠けずに将軍の課した試練を乗り越えたので、周りからは畏怖と尊敬の念を込めてこの部隊には『不死隊』の二つ名が贈呈された。それが、部隊が設立されてから半年が経つ今日から一週間前の事だ。

 将軍達はこれで、特隊の部隊長である修司の無能さを示そうとしたらしく、訓練場にツクヨミ様まで招いて雄也達を貶めようとしたが、それは失敗に終わった。昨日はそれも含めての宴会だった。

 昨日の事はよく覚えていない。今日の朝修司に訊いたところによると、修司以外の全員が酒でぶっ倒れてしまったらしい。『不死隊』は酒が弱点か……何とも笑える弱点だ。

 

「(右翼は中心を軸に回り込むように展開。左翼も同様だ)」

「「(了解)」」

 

 小型通信機から右翼と左翼の伝令の返事が聞こえる。

 

 

 

 

 今日、俺達はいつも通り門外で訓練をしていた。半年が経ったからと言って訓練が終了するわけではない。それは隊長が宴会の時にも言っていた事だ。

 隊長はあの時の妖怪を狩りに行くと言って朝から山に向かって出発した。なので今は俺が臨時で皆に指示を出している。

 

 いつも通りの訓練、いつも通りの一日。周りから見ればやっている事は正気の沙汰ではないだろうが、馬鹿みたいに鬼畜な訓練も、半年もすれば日常の中に溶けて消えていく。慣れって怖いよな。

 

 訓練が一通り終わって、午後の夕方頃だった。皆が休憩していると、急に門が開いたんだ。

 何事かと思って俺が門に行ったら、そこには赤青の服を着た女性が立っていた。

 

『どうしましたか?』

 

 勝手に門を開閉出来る人はまず俺より権力が上な筈なので、取り敢えず敬語で対応する。すると彼女は俺の存在に気付くと、ツカツカと歩いてきた。

 

『あなた、特隊の隊員?』

『はい、そうですが…』

『丁度良かった、部隊長を呼んできてもらえない?』

 

彼女は、俺達の鬼畜教官、白城修司を呼べと言ってきた。素性が知れないが、今彼が不在な事を教えると、やっぱり…と言って溜息を吐いた。

 

『修司は今どこにいるか分かる?』

『あいつは、まだ山の方にいると思います。今日の朝方出て行ったきり、帰ってきていません』

 

隊員である筈の俺が上司の隊長をあいつと言ったことに眉を顰める女性。言いたい事は分かるが、今はそれどころじゃないらしく、若干焦ったように言った。

 

『夕方までには帰るって言ったのに……』

 

 ボソッと呟かれた一言で、俺はこの人が誰なのかを漸く理解した。実際に姿を見たことが無かったので確信は無いが間違いない、目の前にいる女性は、かの有名な八意永琳様ではないか。

 彼は自己紹介の時に、八意永琳様の従者をしていると言っていた。彼が従者をしているところなんて見た事が無かったからすっかり忘れていたが、本当だったんだな…。

 

『八意永琳様…ですか?』

『えぇそうよ。…あ、敬礼とか、そういうのは要らないわ。今はそれよりもやって欲しい事があるの』

 

不敬罪で処罰されるのを恐れ、慌てて右手を頭にやろうと思ったら、八意様のは頼みたいことがあると言ってきた。

 どうせ断れるわけがないし、それに頼み事の内容も何となく分かったので快諾したら、依頼は案の定「修司の連れ戻し」だった。

 

『出来る?』

『不死隊の名にかけて』

 

 自信満々に放ったその一言に八意様は少し安心したようだ。だが、任務に付いて来ると言われた時は流石に断った。

 

『八意様に何かあっては、都市のこれからに関わります。ですからここでお待ちに……』

『私の実力を甘く見てもらっちゃ困るわ。これでもあなたを倒せるくらいには強いのよ?』

 

どこからか取り出した弓に矢をつがえ、軽く殺気を出してくる。だが、そんなのは修司に比べたらまだまだだ。俺が勝てるかと言われたらそれは無理だと言うが、もし八意様と修司が闘ったら、きっと修司に軍配が挙がるだろう。半年間修司の実力を間近で見てきた俺は、そう思った。

 殺気や脅しに対する耐性はバッチリなので、俺は八意様に言いくるめられる事は無かった。だが、彼女の内面に宿る必死さを見たら断るに断れず、部隊の一番安全な場所で付いて来るという条件で、彼女を部隊に編入した。

 

 

 

 

 それが数時間前。今は修司が目指した山に向かって幅広に陣形を取りながら、森の中を進んでいる。各小隊に分かれて、妖怪を察知したらそれを避けるように進むという方法でゆっくりと山に向かっているのだが、如何せん距離がある。これが小隊五個程度の精鋭のみだったならば、すぐに目的地に着けただろうが、八意様の依頼を皆に教えたところ、全員が行きたいと言ってきた。皆の気持ちは痛いほどに分かるので、俺は全員で山に向かうことにした。

 私情に流されているのは分かっている。敵地で作戦をするにあたって私情は非常に危険だ。

 だが、こちらは防衛軍の約九割の戦力を占める特隊。そう簡単にやられるわけがない。

 

「(八意様、目の前に何かいます…お下がり下さい)」

「(私も闘うわ。大丈夫、援護の弓だけにしておくから)」

 

 俺達が前方の茂みを注視している中、八意様は頑なに戦線を退くことを許さない。頑固そうな人だとは思っていたが、まさかこれほどとは…。

 

「(…仕方ない。八代、片桐、菅谷、野村。お前達は八意様を囲むように位置取れ)」

「「「「(了解)」」」」

 

 中央に位置する俺の小隊は、司令塔として周りの小隊を管理している。数は八意様を入れて六人。俺だけが前に出て他を全て防衛に回している。

 声を抑えて指示を出している内に、揺れる茂みはどんどんこちらに近付いてくる。通信機の音を切り、気付かれないようにする。

 

「(総員、戦闘態勢…)」

 

 俺がそう指示すると、後ろで音も無く得物を構えた五人。八意様も含めて、ここにいるのは精鋭中の精鋭だ。後は言わずとも対応してくれるだろう。

 茂みの揺れが目の前まで来て、俺は木の影に隠れた。そこから相手の出方を窺い、自分の愛用している大剣を構える。

 

 

 

 

ガサ……

 

 

 

 

 出て来たと思う間もなく、俺はソイツに向かって突進する。後衛と距離を近付けてはいけないので、たとえ相手が誰であろうとも前衛は前に出て先手を取らなければいけないのだ。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 思いっきり振り上げた大剣を目の前の人型妖怪に振り下ろす。妖怪は横にローリングすることでこれを躱したが、元々弱っていたのかそのまま起き上がる気配が無い。

 これはチャンスだと俺は思い、そいつの方向を向いてもう一度大剣を振り上げた。

 

ガキィン!

 

 だが、振り上げた幅の広い大剣は、後衛から射られた矢によって弾かれ、地面に突き刺さった。

 

「何をするんですか!八意様!」

 

 いきなり攻撃を中断され、俺は目の前に敵がいるのも構わずに後衛に怒鳴った。

 

「何をじゃないわよ!自分が殺そうとした相手を見てみなさい!」

 

 物凄い形相で怒る八意様の気迫を気圧され、俺は渋々顔を目の前のそいつに戻した。

 

 

 

 

「…………へ?」

 

 

 

 

 そこにいるのは、人型の妖怪ではなく、傷つき、ボロボロの人間だった。そして、背中に背負っている短槍。それは、彼が今朝持っていった────

 

「修司……なのか?」

 

 目の前に力無く横たわる人間が、我が隊長だという事実に固まり、思考が一瞬停止する。だか、次に響いた八意様の声によって我を取り戻した俺は、大剣を取り落として顔を両手で覆った。

 

「お…俺はなんて事を…」

 

 八意様が隊長を抱えて何か言っているが、それは俺の耳には入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

「修司っ!」

 

 私は弓を放り出して、彼に駆け寄った。後ろで特隊の兵士達が目の前の現実に驚いているが、そんなのお構い無しだ。

 

「大丈夫!?」

「…永琳じゃないか……なんでこんな所にいるんだい…?」

 

頭を抱えて、半身を起こしてあげる。薄く開かれた目には、いつもの覇気がまるで感じられなかった。

 

「そんな事はどうでもいいわ!それよりもどうしたのこの怪我!」

「あはは…。どうしたって…妖怪に決まってるじゃないか…」

 

彼はさも当然のように言う。

 正確に言うと、修司は、山から帰る途中、妖怪の大群に待ち伏せされたのだ。行く時に無視していた連中が山の麓で固まり、蘭のところから帰ってくるのを狙っていたらしい。

 最早帰るだけの体力しか残っていなかった修司は、更に酷い傷を負いながらも、何とかその群れを追い払うことが出来た。だが、同時に体力も底を尽き、短槍を丈替わりにしてここまで歩いてきたのだった。

 

「兎に角、急いで都市に戻らないと…!」

「そんな時間なんて無いよ。……それまでに失血死で死んじゃうさ…」

 

 永琳は素早く彼の体を診る。身体の至る所に深い傷を負い、血は既に出し切っているかのように見える。脈は弱く、口を動かすのも辛そうだ。

 

「永琳…」

「何?」

 

今の手持ちでは修司の傷は治せない。それが分かり、私は涙が止まらなかった。

 

「何か……価値のある物…持ってない…?」

「え…?」

 

 こんな状況で何を言っているのだろうか。価値のある物?そんな物今は…

 

「あっ…」

 

 ある。価値のある物。

 私はポケットから宝石を取り出すと、それを修司に見せた。

 これは彼が壁外で訓練をするようになってから、ある日彼が持ってきてくれたものだった。彼曰く、森を歩いていたら見つけ、綺麗だったから私にプレゼントするために持って帰ってきたらしい。

 綺麗で淡い光を放つその石は、彼が私に初めてくれた贈り物だった。それが嬉しくて、私は加工して首飾りなどにせず、それをその形のまま、ポケットに入れて保管していたのだ。彼からの思いの量が減ってしまうような気がしたので…。我ながらなんともちゃちな考えだ。

 

「ほら…これ」

「これは……あの時のあれか…まだ持っててくれたんだね」

 

 じゃあそれを頂戴、と修司が言った。私は無我夢中でそれを彼の手の中に押し込んで握らせると、修司は微笑んだ。

 

「ありがとう…、永琳」

 

 彼は目を閉じて息を吐いた。一瞬死んでしまったのかと思った私だったが、彼の手が光りだしたのを見て、安堵した。

 

 光が消えると同時に修司は目を開き、手の中のものを飲ませて欲しいと言ってきた。

 私が宝石を握らせた手を恐る恐る開かせると、そこにはなんと、液体が入った小瓶があったのだ。

 

「これは…!」

「それを…飲ませて…」

 

 こんな紫色をしているのに大丈夫かと一瞬思ったが、修司の言う事を信じて、私は小瓶を手に取り、その蓋を開けた。そして修司の半身を更に起こすと、口に瓶を当てて中の液体を流し込んだ。喉が鳴ったので、しっかりと飲み込めたのだろう。それを確認すると、修司はゆっくりと目を閉じた……。

 

「修司………修司!」

 

 まさか死んでしまったのか…。

 私は恐怖に駆られながらも、震える手で腕の中の彼の脈を測った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!!」

 

 脈がある…!しかも、その間隔はどんどん狭まっていき、ついに正常値まで回復した。傷を確認してみると、先程まで目を覆ってしまうほど酷く抉られていた患部が、まるで何事も無かったかのように治っていた。顔色も、さっきは白くて能面のような顔だったのが、いつもの健康色まで戻っている。消え入りそうな表情は無くなり今は安堵を浮かべて目を閉じている。

 

「良かった……良かった……」

 

 敵地のど真ん中、女性は男を抱きながら、起こった奇跡に心の限りの感謝を述べた。

 

 





 まさかの一万四千字w

 一話を一万付近にしている作者ですが、こんなことになるとは思いもしませんでした。次回からは自重しますので勘弁してください。

 珍しく修司が瀕死です。それだけ蘭がアホみたいに強いということですね。お蔭で超長期戦しか落としどころが見つかりませんでしたw
 そして影が薄くなってきている(かもしれない)永琳さんが登場です。修司の昇華した能力はバレましたし、雄也は危うくFFをかましそうになっちゃったので、周りがどうなるのかに期待ですね。

 この時代の妖怪は、知性と並外れた力をもつ残忍冷酷な化け物です。倫理なんてものは無く、どこまでも貪欲で自己中な生き物です。
 そういった認識なため、蘭のような存在は非常に異端であることが伺えます。
 ですが単純に実力のある者に付き従うことが多いので、武力を以てすれば集団を形成することができます。内戦や下克上なんてものは日常茶飯事ですがw


 前書き後書きを読んで頂ければ、より一層作品への理解が深まると思います。
 それではまた~。

 

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