よりとりどりの光に照らされたこの眠らない東京の街を、俺たちは満員電車に揺られながら、ひた走る。
今日は休日だというのに、相変わらずこの街の電車は人で溢れている。いや、寧ろ休日だからなのか?
兎にも角にも、俺たちは押し競饅頭状態で、俺は出口側のコーナーに三葉をかばうようにして陣取っていた。
「大丈夫か、三葉? 苦しくない?」
俺がそう聞くと、三葉は俯きながら黙って首を縦に振る。そうして俺の方をもの言いたげにじっと見て、暫くして恥ずかしそうに頬を赤らめて顔をひょいと背ける。
……うーむ。少々気まずい。何せ、遊園地でテッシーたちと別れてから、三葉はずっとこんな感じだ。三葉は黙んまりしたまま、俺の方をチラチラ見て、目が合うと恥ずかしそうに目をそらす。だけれど、避けられている訳では決してなく、黙って俺にべったりとくっついている。
元から三葉は割と恥ずかしがり屋で、その癖に甘えん坊な気があったけれど、今の三葉は明らかにおかしかった。そわそわしているというか、落ち着きがないというか……
まあ、こうなった原因は考えるまでもない。どう考えてもあの観覧車からだ……
今から思い返すと、少々早まったかなあなんて弱気になってくる。はっきりと明言した訳ではないとはいえ、プロポーズまがいな事をしてしまった訳だしなぁ。
とはいえ、三葉は三葉でとても嬉しそうに、幸せにしてね、なんて返事をしてくれたし……
あれ? なんか今更ながら実感が湧いてきたけど、実は俺、割ととんでもない事を言った気がする……
三葉は実質オッケーをくれた訳だから、つまりは三葉は俺の婚約者みたいなもので……?
そう意識して三葉を見つめると、彼女は俺の目を真ん丸な瞳でじっと見つめて、また恥ずかしそうにして顔を俺の胸に埋めた。
そんな事をしているうちに、車内アナウンスが三葉の最寄駅への到着を告げる。俺の最寄駅はまだ先だけれど、三葉と少しでも長くいたいと思った俺は、三葉を家まで送ろうと思い、三葉の手を取って、
「三葉、着いたぞ。降りよう」
そう声を掛けた。が、三葉は顔を俯けたまま、動こうとしない。
「三葉?」
不思議に思って三葉の顔を覗き込むと、三葉は顔を真っ赤に染めて、目をそらす。
そうこうしているうちに、電車のドアは閉まってしまった。そんなタイミングで、三葉はちょっぴり背伸びして顔を近づけ、俺に耳打ちする。
「……今日はね、ずっと瀧くんと一緒にいたいんよ」
その言葉に、俺の頭が破裂しそうな衝撃を受けた。自分の顔が紅潮し、今迄考えていた事とかが全て吹っ飛んでいくのを感じる。
それと同時に、自分の甲斐性の無さを恥じた。彼女にこんな事を言わせるなんて、男失格だ。彼女は観覧車から降りた後から、ずっと意味ありげに俺を見つめていた。ずっと俺の誘いを待っていたに違いない。
そりゃそうか。俺は三葉を幸せにすると言った。三葉はそれに答えてくれた。それなら、行き着く所なんて一つしかない。
三葉は覚悟を決めて待ってくれていたのに、俺は覚悟が出来ていなかった。それを俺は恥じた。そして、これ以上彼女に恥をかかせるようでは、最早男ではない。
俺は三葉を静かに抱きしめる。彼女も人目を気にしてか弱々しくはあったけれど、俺の背中に手を回してぎゅっと抱きしめ返してくる。
その姿がどうしようもなく愛おしくて、俺は次の駅に停まるやいなや、三葉の手を引いて足早に街を歩いた。目的地など言うまでもない。
いつもはそれ程意識しせず通り過ぎていた街角のネオンの光が嫌に俺を刺激する。一つ、また一つと煌びやかな店を通り過ぎる度に、胸の高鳴りが強くなる。
三葉は俺に手を握られて黙って付いてきているが、彼女も緊張しているのか、徐々に俺の手を握る力が強くなっていく。
やがて、俺たちは一軒のホテルの前へとやってきた。比較的落ち着いた佇まいではあるが、普通のビジネスホテルとは一線を画した煌びやさと色っぽさに溢れた縦長のホテル。そうして、徐々に現実味の帯びてきたこれから三葉と及ぶであろう行為を想像して、俺は思わず息をのむ。
三葉は三葉で、恥ずかしそうに彼方此方に視線を泳がせてもじもじしている。
ええい、こう言う時こそ、男の見せ所だろ! 俺!
俺は覚悟を決めて、三葉に声を掛ける。
「……三葉、行こっか」
「……うん」
そうして、俺たちはホテルへと足を踏み入れた。
借りた部屋はイメージしていたよりもシンプルで、薄明かりに照らされたクラッシックな色調の部屋の真ん中にデカデカとしたベッドが鎮座していた。
俺たちは手を繋いだまま、ひとまずベッドに隣り合わせで腰を掛ける。
そうして互いに暫し沈黙する。え、ええと、こう言う時、どうするんだっけ??
「……た、瀧くん。先にお風呂、入ってきていいんよ」
「お、おう。そうだな」
テンパって頭が真っ白になっていた俺に痺れを切らしたのか、三葉は俺に風呂に入るよう勧めてくる。俺は、その言葉に従って、シャワーを浴びる事にした。
体を洗っていると、浮き足立っていた考えも幾分か落ち着いてきた。正直な話、ここまで緊張するとは思っていなかった。これから三葉とひとつになる。その事実に喜びを感じる一方で、しっかりリードできるだろうか、三葉を満足させられるだろうか、などという不安も大きかった。
そんなこんなであれこれ考えているうちに、体も洗い終わってしまったので、俺はバスルームから出て、備え付けのバスローブに身を包んだ。
「み、三葉、お先にー」
「あ、それじゃあ、わ、私も入ってくるね」
俺たちはぎごちなく会話を交わす。互いに意識し過ぎており、まともに目も合わせられない。ぐぬぬ……俺がしっかりリードしなければ……
などと延々と脳内シュミレーションを重ねる俺。緊張し過ぎて、最早どれだけ時間が経過しているのかすら分からなかった。
そうこうしているうちに、三葉はシャワーを浴び終わったようで、ベッドの上にこちこちに座る俺の横にとことことやってくる。風呂上がりの三葉はその華奢な身体をバスローブに包んでおり、火照った身体からほんのりと熱気を感じる。おろした髪からは芳しいシャンプーの香りが漂い、ゆっくりと肩を上下させながら息をするその艶やかな姿に、俺は思わず息をのむ。
「た、瀧くん……?」
三葉は俺をもの言いたげにじっと見つめる。その瞳に吸い込まれるように、俺は三葉の唇を奪う。一度、また一度と唇を交わすたびに、三葉から柔らかな吐息と小さな喘ぎ声が漏れ出し、それが俺を更に燃え上がらせる。
そうして俺は、覆いかぶさるようにして三葉を押し倒した。その勢いで彼女のバスローブがはだけて、鎖骨から肩までの柔らかみを帯びたラインが露わになる。また、ほんの少し視線を下げると、女性を象徴する膨よかな二つの丸みが溢れ出そうになっており、俺は慌てて視線を上に戻す。
そうすると、ほんのりと頰を紅潮させながら、嬉しそうに微笑む三葉の顔がそこにある。
「もう……瀧くんのえっち……。……そっちもいいけど、今はちゃんと私を見て?」
「……お前なぁ。そんなこと言われたら、めちゃくちゃにしちゃいたくなる」
「やっぱり、瀧くんはえっちやなぁ。……いいんよ? 瀧くんなら……」
その言葉で、首の皮一枚で繋がっていた俺の理性がふっとぶのを感じた。そうして、俺は精魂尽き果てるまで三葉を抱いた。そのひと時は何も考えられなくなる程に恍惚とした時間だった。三葉も終始俺にしがみつき、嬉しそうに時折俺の名前を漏らしていた。
お互い初めてでぎこちないところもあり、また、三葉は少し痛がっていたけれど、終盤の方では高ぶる吐息と共に恥ずかしそうに小さく喘ぎ声をあげていたので、ちゃんと三葉も気持ち良く出来た様で一安心だ。
そうして事が終わると、俺たちはぎゅっと抱きしめ合って眠りに落ちた。感じるのはとても優しい温もり。恐れることなど何もないかの様に、すっと安心させてくれる柔らかな感触。
その日、俺たちは、確かに一つになったのだった。
―――
朝、眼が覚めると、そこには柔らかそうな二峰の山が目の前にあった。俺は、戦々恐々としながら右手でその片割れに触れてみる。
ぷにゅ
その瞬間、俺は得も言われぬ感動に包まれる。滑らかな手触り、一見柔らかそうに見えて、しかししっかりとした弾力がある。も、もしや、こ、これは……
もみっ
俺はその勢いのまま、それを軽く揉んでみる。おおお、なんだこれは。掌に収まるくらいのそれは俺の右手に吸い付く様に形を変える。す、すごいぞ……これは……
……うん。まあ、ぶっちゃけると、それは正しくおっぱいだった。そう、目覚めると、そこにはおっぱいがあった。
目の前におっぱいがあるなら、揉まなくては男ではない。そんな謎の理論を引っさげ、俺は目の前のおっぱいの感触を味わっていた。
……うーむ。しかし、女性の胸を揉みしだいたことなどないのだが、何かとても懐かしい気がしてならない。最早、一種の感動すら覚えるレベルだ。……これはあれか? 赤ん坊の頃の朧げな記憶が蘇っているのか?
などと下らない事を考えながら、気持ち良く眠る三葉の胸を揉んでいた。しかし、こいつ、中々起きないな? どうやらかなり眠りが深い様だ。
それで調子に乗った俺は、両手ですやすやと眠る三葉のおっぱいを弄んでいたのだが、
「ちょ……た、た、瀧くん!? な、な、何しとるんよぉ!!」
流石にやり過ぎたのか、目が覚めた三葉に全力の説教を食らう羽目になった。
「全くもう、全くもう、ほんっとに全くもうなんよ。瀧くんがえっちなんは知っとったけど、人が寝てる間に、そ、その、お、おっぱいを揉むんは、三葉さんどうかと思うんよ」
「はい。全くもって反論のしようが御座いません」
「もう。分かったら次は無いんよ?」
などと、怒られて割と反省していた俺だったのだが、
「……大体、瀧くんが望むなら起きてる時言ってくれたらいくらでも触らせてあげるのに」
と、恥ずかしそうに小さく呟いた三葉の声を俺は聞き逃さなかった。
「え? え? なんか言った?」
俺はからかう様に聞き返してみたのだが、
「ふーんだ。瀧くんには二度とえっちなことさせてあげないんだからねーだ」
どうも、にやつく俺の姿が気に食わなかったらしい。そのまま暫く口を聞いてくれなかった。
しかし、まあ、何度も謝っているとシャワーを浴びてホテルを出る頃には機嫌も直ったようでニコニコしながら俺の腕に手を回していた。
そんなこんなで、早朝に三葉を自宅まで送り届けた後、少々寄り道をしたりして帰宅した。ちなみに、三葉を家まで送った際に、大変間が悪いことにエントランスでゴミ出しをしている四葉にばったりと出くわし、散々からかわれる羽目になったのは言うまでも無い。
そうして、俺は昨日の出来事を考え深く振り返りながら、自室のベッドの上で寝転がっていたのだが、
ピロリン
と、携帯が音を鳴らすので、画面を確認すると三葉からだった。
内容はとりとめの無い話。今どうしてる? だとか、サヤちんかわいかったでしょ? だとか。ただ、彼女と交わすこのあまり深い意味の無いやり取りが、とても価値のあるものだと、そう思う。
少し時間が経った今でも明確に思い出せる。三葉の柔らかくて小さな体の感触。何処か弱々しくて、守ってやらなくてはと、自然にそう思った。
そう、俺は、三葉を守っていこう。この先どんなことがあっても、必ず俺は、あいつの側にいよう。
それは、一種の覚悟であり、そして決意だった。そうして俺は、時を忘れて三葉とのやり取りを楽しんでいたのだが、ある時を境に、急に会話の途中で三葉からの返信がばったりと途切れてしまった。会話が終わる流れでは無く、既読すらついていない。
こまめに返信する三葉にしては珍しいな、なんて気楽に考えていたのだが、
「お、お祖母ちゃんが、倒れたんやって」
明らかに動揺を隠せず、震えた声でそう告げる三葉の着信を受け、俺は迷う事なく三葉の家へ走り出したのだった。
今回もご覧下さりありがとうございます。
そして、明けましておめでとうございます。
水無月さつきです。
えーと、まずは更新の遅さに謝罪を……
完全に言い訳ではありますが、仕事が忙しくてなかなか書くモチベが上がらないのです
ちなみに、三が日もお休みなしです号泣
まあ、泣き言ばかり言っても仕方ないですので、ゆったり頑張りたいです。
どうぞお付き合いいただければ嬉しいです。
さて、今話ですが、如何でしたか?
何処まで描写したものかと、書いたり削除したりして結局今の形に落ち着きました。
敢えて言わせて頂きましょう。
末長く爆発しろ……
いやあ、本当に二人には末長く幸せになって頂きたいものです。
さて、次話は今回の話の続きになります。幸せの絶頂にある二人を襲う急展開に乞うご期待!?
さて、一体どうなることやら……
相変わらずゆっくりですが、頑張りますので、お待ち頂けると幸いです。
それでは、また。