ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は3/23更新予定


第九十八話

 0だった可能性は行動を起こすことで0ではなくなる。もちろん、それが妥当な行動であればの話だけれど、私達はその妥当な行動とは何か知っている。

 

「交渉する」

 

 そう、浦の星女学院の経営者である鞠莉さんのお父さんと話を付けなければならない。もちろん、廃校にしないでください、なんてのは交渉にはならない。するのは統廃合の見切りを付けるギリギリの期限をはっきりさせること、そして改めてその期限まで統廃合の決断を待って貰うことだ。

 幾ら鞠莉さんが遅延交渉をしていたとはいえ、期限にはまだ多少の余裕は残していると推測される。そのあたりは大人の打算が働いているはずだからだ。

 こちらから提示できる交渉材料はやはりラブライブ予選後の短期間で増えた入学希望者の数しかない。ここで重要なのが、短期間で増えたという部分だ。その増え方は結果的に見ればAqoursの活動とリンクしているのだから、これからの活動次第ではもっと増える可能性を秘めていると捉えることもできる。そして幸いと言うべきかラブライブ後期大会が開催されることが決定し、予備予選が近々行われる。学校説明会と合わせてそこでAqoursが活躍出来ればと思わせられれば統廃合決定の期間を遅延させることは夢ではない。勝算は十分ある。

 

「鞠莉さん。貴方のお父さんは何故こんな片田舎でホテル経営をしているのか?何故学校を経営しているのか?私はきっと鞠莉さんのお父さんもこの地域が好きだからなんだってそう思ってる」

 

「好きなものが一緒ならきっと可能性を信じてくれる」

 

 具体的な期間や、今後の展望を出すこと。それである程度は交渉できるとは思うけれど、最終的にはやはり人の情だ。

 そう言って鞠莉さんに電話を掛けて貰い早十分が経過してた。

 

「何気なく待っているけど、これで駄目って言われたらもう打つ手はないんだよね?」

 

「うん。あーなんか落ち着かない。曜、ちょっと走らない?」

 

「それよりプールで泳ぐ方がいいかな」

 

「水着持ってきてないけど・・・ま、脱げばいっか」

 

「良くないです果南さん!?」

 

「こういう時は本を読むに限るずら」

 

「とか言って丸ちゃん。さっきから本を読まずにパンを食べてばっかだけど」

 

「ルビィちゃんも食べるずら?」

 

「うん」

 

「くっくっく、本当に良いの?こんな場所で間食なんて今に天罰が下るわよ?」

 

「天罰?」

 

「ルビィ、お行儀が悪いですわよ」

 

「ピギィ!?お、お姉ちゃん」

 

 なんて落ち着かない気持ちをみんなで共有し、アンニュイ時間を過ごしている。

 

「ねえ、星ちゃんはどうして信じようって思ったの?」

 

「合理的じゃないって、私も思いますよ。けど、何でかって言われたらきっと信じたかったからなんじゃないかな」

 

「でも良いの?穹ちゃんから課題出されてるんでしょ?」

 

 あの日、穹とはあまり長くは話していない。何から話していいか分からなかったからだ。

 そして穹も語ることを望まなかった。彼女は私にこう言ったのだ。「星の伝えたいこと、それを音楽にして私に教えてくれればいい」とずぶ濡れになった私に向かって。

 千歌先輩の言う課題とはそれのことだ。

 

「こういうことを含めて私の音楽にしろって、穹は言ってるんですよ」

 

 難しい事を吹っ掛けてきたなと思った。

 ひた隠しにしてきたこと、引っ越してからのこと、浦の星女学院のこと、沢山沢山話したいことはある。それを音楽にしろというのだから。

 男子ならば拳で語るとか言うのだろうけど、私と穹にとってこれは拳で語る事に等しい。お互いに本気で取り組んできたそれを見せろというのだから。案外穹も曲を作って待っているかもしれない。

 

「困ったことがあったら言ってね」

 

「千歌先輩がそれ言います?」

 

「えー、私はいつもみんなに助けられてるけど」

 

 私達は顔を見合わせて笑った。意地っ張りなのはここにいるみんなの共通点だ。意地っ張りで、諦め悪い。

 

「鞠莉さん」

 

「どうだった?」

 

 学園長室から鞠莉さんがようやく出てきた。鞠莉さんはオープンな様でいて奥深い性格をしている。その二面性が表情を取り繕う術を生み出しているため鞠莉さんの表情から何かを感じ取るのは難しい。

 

「残念だけど、どんなに反対意見があっても生徒が居ないんじゃって」

 

「やっぱりそうよね」

 

「だから何人居れば良いかって聴いたの」

 

「それって何人?」

 

「100人。少なくとも今年の終わりまでに100人集めれば来年度の募集をするって」

 

 期限と人数がこれで明確となった。これで目標にも具体性が出てよりやる気が出るーーーー

 

「なわけねえだろ」

 

「星ちゃん、落ち着いて。兎に角可能性は繫がったんだよ!」

 

「あう、ごめん。取り乱した」

 

 無理はそれこそ百も承知していた筈だ。期限を延ばすことが第1目標だったのだ。それ以外の条件まで望むなど高望みしすぎた。

 それにしても期限については予想以上に頑張ってくれていると思う。けれど、その分人数については相当厳しい。かぐや姫の求婚者に出された条件のようだ。しかし、赤字経営を立て直すにはそれくらいでなければいけないということなのだろう。

 

「なら次は予備予選と学校説明会だね」

 

 実質最後のチャンスと思わなければならないだろう。年末が期限とは言えどんな悠長な受験生でも11月中旬には流石に志望を決めている。だから次の予備予選と学校説明会で広く注目を集め、地区予選で最後の駄目押し。そういう流れとなるだろう。

 

「準備、間に合います?」

 

「間に合わせる!」

 

「それじゃあ、予備予選と学校説明会に向かって、全速前進ーーーー」

 

「「「「ヨーソロー!!」」」」

 

 可能性とは獣、とはよく言ったもので0が1に成った瞬間に未来が広がった。広がった瞬間にやれるなんて気になってしまうのだから。

 けれど、その可能性を0にしないように見えた光を見失わないようにしなければならない。それこそ暗中模索の航海に旅立つように。

 

 


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