ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は3/9に更新予定


第九十四話

 なんとも締まりの無い、けれど意識の高い始業式が終わり各学年が教室に戻ると、簡単な申し送りを受けてその日は終わる。所謂昼ドンと言うやつだ。梨子先輩ならその“ドン”という響きに反応しそうだからどっかのタイミングで振ってみようかと思いつつ、私は諸先輩方やクラスメートに誘われるまま街に繰り出した。とは言っても遊びに行ったのでは無い。市内の駅やバス停、公民館や許可が貰えるなら遊戯施設などに学校説明会のチラシを貼りに行ったのだ。

 印刷代もバカにならないだろう枚数のチラシを作り、もう後には引かない、やれるだけやろうと千歌先輩のクラスメートの四五六トリオが浦女生に呼び掛けた。

 今の浦女は恐らくこれまで浦女の歴史の中でも類を見ない団結力で纏まっている。部活などに所属していない、手の空いている生徒はほぼ参加することとなったのだ。

 この行為でどれ程の効果が見込めるかと相変わらず後ろ向きに考えながらも私はそれに参加した。

 

「どれくらい学校に来てくれるかな?」

 

「10人は最低でも来るんじゃない?」

 

「入学希望してるならもう腹を括っって一々見に来たりしないかもしれないよ?」

 

「いやいや、死ならば諸共って言うでしょ?どうせ入学希望するならこれを機会に他の子も勧誘する筈よ」

 

 道中で皆の会話を聞いていると、少なからず人は来ると、そう信じているのが伝わってくる。

 

「当日はなるべく在校生を集めよう。私達の学校の魅力には私達の存在は欠かせないんだから」

 

「皆が歓迎してるよって、気持ちを伝えられたらきっと入学希望者も増えるよね」

 

 そして、机上の空論では終わらせないと、どうすれば少しでも入学希望者が増えるのかと話し合う姿はとても活き活きとしていた。

 

「時間は幾らでもあるし、星ちゃんどうする?ステージで一曲披露するとか?」

 

「え?ぁあ、なら梨子先輩と校歌をセッションするとかならいいですよ?」

 

「上手くスケジュール組み立てればできるかも」

 

 そんな皆から要請されて断れるほど私は無感動にはなれないらしい。私が学校説明会のステージに立つことで何かが得られるのか分からない。けれど、前向きに取り組む皆と一緒に居ると私も何かやりたい。そんな気にさせるのだ。

 

「後は千歌達に聴かないとね」

 

 それはきっと先陣を切るAqoursという道標があるからだ。

 あのラブライブ予選でAqoursから感じたもの。何かが待ち受ける予感、追い掛けたい衝動、それを皆で共感したこと。それが今に繫がっているのだ。

 そして私もまた動き出さなければならない。その予選の次の日に起きたことこそ私にとっての転機であり、次に繫がることだったのだから。

 

「よし、みんな成果はどう?」

 

「全員チラシを使い切れたよ」

 

「よし!ならみんな。今日はお疲れ様。日が暮れる前に帰んなね」

 

 四五六トリオ先輩は良く皆を纏めていると思う。そして進行もさり気なく上手い。

 沼津はエリアで見れば結構な広さがあるけれど、それを昼から夕方のチャイムが鳴るまでの間に人海戦術で廻りきりその上チラシも無事に貼り終えたのだ。これは彼女達がある程度の計画性と事前の申請が無ければ出来なかっただろう。

 

「それにしてもバス少ないのは何とかして欲しいね」

 

「これからの季節は終バスも早くなるしね」

 

 傾きかけた太陽は山に隠れて早々に姿を隠している。

 高低に立体的な地形をしている伊豆半島は夕焼けが早いのだ。夏休みが終わった今、これからはどんどん夕暮れが早くなり、活動は制限される。

 

「今日も千歌達は屋上で練習してるんだよね。ちゃんと帰れるのかな?」

 

「そこは案外抜け目なくやってますよ。何と言っても生徒会長の黒澤ダイヤさんが居ますからね」

 

「確かに。黒澤家って門限とか厳しそう」

 

 なんて話ながら、これからのみんなの活動が益々やりにくい環境になっていくのだと思うと地方でスクールアイドル活動をすることの困難さが良く分かる。

 交通網のある都市部ならば各々住む場所が離れていても帰宅時間をそれ程気にしなくて済む。けれど、こういった地方では同じ街に住んでいても物理的な距離以上に移動が困難なのだ。

 まあそんなことはみんな百も承知で、今頃は二学期の活動の仕方を相談しているかもしれない。

 

「それじゃあ私はここで」

 

 バイバイ、と今日集まった皆に別れを告げて私は一人、家路につく。そして一人になると最近はいつも同じ事を考えるのだ。内浦に引っ越してからの私の音とはどのようなものかと。

 

「あー、気分転換しよ」

 

 けれど、どうにも全く纏まらない。

 梨子先輩がスランプに陥ってピアノを弾けなかった時はこんな感覚だったのだろうか?なら梨子先輩にアドバイスを貰うのが妥当なのだが、私の場合はハーモニカが吹けなくなった訳でも無い。実際、頭や気持ちをリセットしたいと思った時には吹きたいと思うし、こうして吹きに出掛けたりもするのだ。

 ならきっと私のそれは梨子先輩とは本質的に違うものなのかもしれない。

 私はとぼとぼと夕陽に染まる空と海を眺めながら川辺までやって来た。

 山から続く川と海が交わるそこは、水面の波形がとても複雑で、それ故に綺麗に光を弾く。

 その景色はあまりにも眩しくて、だからこそ作り出す影は濃く映る。

 ここには今、川と陸と海の境界と昼と夜の境界が重なっている。とても浮世離れしているとも言える。

 

「ーーーーーー」

 

 そして思い浮かんだ曲は、“逢いたい気持ち”。GLAYの曲だ。これはドラマ「サトラレ」のタイアップとして使用されていた。

 決して夕陽をテーマにしている訳ではないけれど、メロディーラインの美しさと切なさが今の情景にマッチしている。そしてそのメロディーに載る歌詞が胸を締め付ける。

 タイトルのテーマに沿って歌われたそれは夜、朝、星、月、朝日、夕陽、というワードがちりばめられ、歌詞を追えば追うほどに時の流れを感じ、それ故に過ぎた時の尊さに胸を締められる。

 この曲を選んだのはきっと私自身の心がこの曲に共感しているからなのかもしれない。

 私の知っている音楽は素直に出てくるのに、私の心から探す音は出てこないのは何故なのか、その答えを探して私は音を重ね続けた。

 

 


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