ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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セカンドシーズンのスタートです


第九十三話

 諸行無常と言いたくなるほどあっという間に夏休みは終わり、今日と言う運命の日を迎えた。言うまでも無く始業式の日、二学期の幕開けだ。

 とは言え、夏休みの宿題もそれなりにやった感を醸し出せる程度には終わっている私に新学期を迎えるにあたり、学校から出されたノルマについて不安要素はなかった。

 日に焼けたり、焼けていなかったり、夏バテしていたりするクラスメートと挨拶もそこそこに朝のホームルーム後に体育館に移動する。

 どの学校でもそうだが、えてして体育館とは極地だ。夏は暑く冬は寒い。ある窓は全て開放し通気性を確保しても尚、体育館はその例に漏れず暑かった。これで人口が密集すると更に湿気がプラスされてサウナと化するが、幸いと言うべきか判断に迷うがこの学校は生徒数が少なく体操隊形に開けるくらい人との間隔を確保できるため湿気については多少はマシだ。

 

「セカンドシーズンのスタートでーす!」

 

 体育館での始業式に出席した矢先に聞こえたのは、そんな暑さなど吹き飛ばすような景気の良い鞠莉さんの声だ。

 壇上に上がって学園長の挨拶代わりだとばかりに彼方を指差すポーズを決めて一言放った鞠莉さんは大変満足そうだ。他に何か言うことはないのだろうかと思っていれば、囁き女将のごとくダイヤさんが舞台袖から小言を言っている。

 

「理事長挨拶と言いましたわよね?そこは浦の星生徒らしい節度を持ってですね」

 

「雪像?」

 

「節度ッ!!」

 

 それを盛大に捉え間違える鞠莉さんの前にダイヤさんの我慢というダムが決壊。。ついでに言えば私の腹筋は崩壊だ。口から堪えようもなく漏れる空気を誰が責めようか。

 そんな空気に当てられて緊張感を保てる生徒はここ浦の星女学院には居ない。

 

「それにしても千歌ちゃん遅いね」

 

 ふと聞き慣れた声は曜先輩だ。その呟きにおや、と思い100人にも満たない全校生徒の顔を改めて確認していくが確かに千歌先輩が居ない。不登校をしていた善子ちゃんや休学という名の不登校をしていた果南さんが居るにも関わらずだ。

 いつの間にか生徒Aから学校の顔となった千歌先輩の存在感は私が思っていた以上に大きいようで、千歌先輩が居ないと思うも先の鞠莉さんの開幕宣言がどこか実感が湧かない。

 

「惜しかったね。あともう少しで全国だったんだって」

 

 すこし弛緩した空気の中、聞こえたその言葉は私の胸にチクリと刺さった。

 ラブライブ地区予選敗退。それは変えようのない事実としてAqoursに、そして浦の星女学院の皆に突き付けられた。

 けれど、明るい話題もあった。敗退という結果は変わらないけれど、予選を通過したグループにAqoursは僅差まで追い詰めたという。それは東京のイベントで評価されなかった時に比べ大きな躍進だ。

 投稿した楽曲の人気があっても一票という限られた票ともなると話は別物となる。それでもなお票が入ると言うことは間違いなく評価されているというのとだ。

 その上、東海地区予選の舞台となったのは名古屋。近年はSKE48やチームしゃちほこといったプロのアイドルが活動の本拠地としているため、名古屋は多くのアイドルファンを排出し、そのファンの目も肥えている。そしてアイドルファンには結構居るのだ。ラブライブに関心を持つ人が。

 そんなファンが多く参加する条件が重なる東海地区は全国でも評価を得るのが比較的厳しい部類に入るという。

 そんな中にあって評価を得たということは少なくともラブライブは遊びじゃない、と怒られない程度には本気であると認められたのだ。

 スクールアイドルAqours結成という幼年期を終え、名実共にスクールアイドルとなったAqoursは鞠莉さんの言うようにセカンドシーズンを迎えたのだ。

 更に、だ。思わぬ副産物もあった。それは入学希望者が増えたことだ。どんな因果かラブライブ予選のパフォーマンスの後、その日のうちに0だった入学希望者が1になったのだ。

 最初はみんな我が目を疑い、二度見、三度見したもので、ようやく現実感が湧いた頃には狂喜が場を支配した。

 千歌先輩は「奇跡だよ!!」と連発し、ルビィちゃんは「ピギィイイ」で、善子ちゃんと曜先輩は「地元愛」で、鞠莉さんは「アンビリーバボー!!」でダイヤさんは何を思ったのか屋上から下界に向けて「ダイヤッホー」。一周回って花丸ちゃんはおやすみなさんと居眠りしだした。勢い余ってタイトルしか決まっていない新曲のPVを撮ろうと翌日の予定を入れる始末だ。もっともそれはジャケ写候補となる写真撮影に終わってしまったが。

 その時の出来事を思い出し、憂鬱になりそうになったため思考を元に戻した。

 とにかく入学希望者は0から1になったのだ。

 

「でも0が1になり、今では入学希望者も1が10になった!」

 

 生徒の声を聴いたのか、結局壇上で指揮することとなったダイヤさんが高らかに前向きな結果を語る。

 しかし去年受験生だったからこそ私は思うのだ。その結果は実に淡い希望でしかないのではないかと。

 何故なら10人では学校は間違いなく存続出来ない。

 そして夏休みは受験生にとってターニングポイントなのだ。

 私立高校受験する多くの受験生は夏休みに内定を貰う。だから夏休み以後は学力がまだ足りていない人がラストスパートを掛け、既に目標に定めている志望校に受かるよう必死な訳だ。

 だから現時点では入学希望者を集っても第2、第3希望になってしまうのだ。

 Aqoursが最終目標と掲げる廃校阻止という目標を達成するのはかなり現実的でない。寧ろあの予選大会からここまで入学希望者が増えたことこそが尋常じゃ無い事態で、千歌先輩ではないけれど本当に奇跡なのだ。

 

「そして今日、次のラブライブ開催が発表になりました。決勝大会は前回と同じ秋葉ドゥーム」

 

 その発表に歓喜の響めきが起こり、そして主役は遅れてやってくると言わんばかりにドタドタと息を切らして千歌先輩が体育館に漸く姿を現した。

 

「どうする?」

 

「聴くまでも無いと思うけど」

 

 その全校生徒の意志を代弁したその問い掛けに千歌先輩は正面から応える。

 

「出よう。ラブライブ。そして、1を10にして、10を100にして、学校を救って、そしたら、私達だけの輝きが見つかると思う。きっと輝ける!」

 

 その答えは完全にそうと信じて疑わない人のそれだ。そして、それを千歌先輩だけでなく他の生徒もまたそうと信じている。

 私は自分と周りの温度差に心がまたざわついた。本当に学校が救えるのだろうかと。

 そんな私を余所に、この学校の生徒は微笑ましくも始業式そっちのけでLove Liveと人文字を作ったのだった。

 

 


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