ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は8/18更新予定


第九十話

 ラブライブ予備予選、言い換えれば県大会を突破したAqoursは予選大会、つまり地方大会へと出場することとなる。

 東海地区の予選大会は愛知県が名古屋にある日本ガイシホールで行われる。

 沼津からは約三時間弱の道のりとなり、気が向いたから行こう、とか気安く来れる環境ではない。だから学校の生徒全員が集まるなんて、心のどこかで不安であった。けれど、その認識は改めなければならないようだ。

 

「みんな同じ電車なんて修学旅行みたい」

 

 駅前にAqoursのみんなが集合するのに私は便乗したのだが、よくよく移動距離を考えたら乗る電車の選択肢なんて殆ど無いのだ。ばったりと駅のホームで見覚えのある制服姿の団体様と遭遇すると、私達は驚きの余り苦笑いをするしかなかった。

 私はみんなにサイリウムを配り、簡単に使い方をレクチャーする。馴れないうちは結構扱いが難しいのだ。特に色替えを曲の途中でやろうと思うと中々上手くいかない。あと曲に熱中し過ぎるとサイリウムの存在を忘れたりするのだ。まあ、色を固定し思い思いにリズムに合わせて振っていれば間違いは無い。

 私達は一車両をほぼ独占して名古屋まで電車で乗り継いで行ったのだが、女三人寄れば姦しい。ならば百人弱が集まればどうなる?決まっているお祭りだ。

 ガールズトークにトランプならば可愛いもの。弁当を食べたり、スマホから曲を流してカラオケしたりととどまることを知らない。学校にクレームが来るのでは無いかと内心ヒヤヒヤしたが、何とかトラブルもなく名古屋まで着いた。そこから笠寺駅まで数駅移動し、駅から繫がる歩道橋を渡るとその丸い形状の会場が目に付いた。

 私や千歌先輩、鞠莉さんは二度目だが、他の面々は初めてのようで目を輝かせていた。

 

「私、こういう場所でライブ見るの初めて」

 

「私も」

 

 生徒の中から聞こえるその声に私は初めてライブに行った時のことを思い出した。

 私が初めて行ったのはアニメと連動して活動していた女性声優グループのライブだ。意外に思うかも知れないけれど私も結構なミーハーでオタクな側面も持ち合わせている。

 そのグループのライブ会場に入った時、まだ始まる前だというのに私は会場の雰囲気に感動した。会場に贈られた祝花がところ狭しと並べられ、会場に入った瞬間に微かに花の香りを感じた事に驚いた。また客席には所狭しと人が詰めかけ、サイリウムが思い思いの推しメンのテーマカラーに彩られ、波打っているのがとても綺麗だった。同じ想いを持った人がこんなにも沢山集まっているのだと思うと込み上げるものがあった。

 まあ、その時はヤフオクで落とした別名義のチケットで入場したのがバレ、あえなく退場となったオチがつくのだが。今となっては良い思い出だ。

 

「出場者はまた別の入り口みたいですね」

 

「うん。みんなとは一端ここでお別れだね」

 

「はい。先輩達はステージから、私達は客席から、また会いましょう」

 

 頼もしい九人の背中を見送り、私はみんなを先導して会場内へと入った。

 思えばAqoursが沼津から出てパフォーマンスを披露するのはこれが二度目だ。前回は東京のイベントで苦い思い出となった。だが、今回は前回との彼女達とは違う。その変化は目に見える形では小さく、目に見えない部分では大きな変化だ。

 歌やダンスといったパフォーマンス面では上達はしているがそんなジャンプアップするようなものではない。けれど、彼女達は見付けたのだ。自分達がどのように進んで行くのかを。だから大きく変わったのは心の在り方だ。

 開き直りかもしれないけれど、どんな結果だろうと彼女達はもう大丈夫。そんな変な安心感があった。

 会場の空気に当てられたのか、私は衝動的に穹に連絡したくなった。私は今、学校の凄い人達の晴れ舞台に来ていると、とても素敵なステージが目の前に広がっていると、そう自慢したかった。そして、いつか一緒にその舞台に立ちたいね、と夢のようなことを思ってしまった。けれど、私はぐっとその気持ちを抑えた。ライブが始まったからだ。

 Aqoursの出番は運良く大トリ。こういう合同のライブ形式だと順番も印象を左右するため、大トリはこれ以上無いほどいい順番だ。

 順々に登場する他のスクールアイドルのパフォーマンスは東海地区の県の代表の一角だけあり流石の一言だ。

 彼女達はアイドルではあるがプロではない。だからこそ彼女達にはしがらみがない、自由なのだ。

 彼女達の持つ感性が作り上げた曲は新鮮な構成であるし、ダンスは今彼女達ができる最上級のものであるという全力さが伝わってくる。全力で、心の底から楽しんでいるのが伝わってくる。

 見ているとまた穹と話したい想いが胸の中で疼いたが、ここでスマホを弄るのは、いや、目を逸らすのは全力でパフォーマンスをする彼女達に失礼だと思い直し、堪えることができた。

 私は一曲一曲に心を揺さぶられながらもライブを楽しむこと二時間半、スクールアイドル達の饗宴は進み、そしてAqoursの出番がやってきた。

 


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