ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第八十九話

 今年の夏休みは忙しい。いや、正確には今年の夏休み“も”だ。

 去年の夏休みは穹と一緒に練習したり出かけたり、遊んだり、遊んだりと悩みを抱える傍ら、それを誤魔化すかのようにひたすら暇をないように過ごしていた。

 今年の夏休みは殆どをAqoursのみんなと過ごしている。

 自分が参加していない音楽活動にこれほど入れ込むなんて我ながら絆されてしまったとも思うけれど、みんなと関わりを持ってから得たものは掛け替えのないものだと思うし、失った繋がりに蜘蛛の糸ほどの繋がりを作る切っ掛けになった。だから一緒に居るのが素直に楽しいし、わくわくするのだ。

 けれど、今日は珍しく何も予定のない空白の日となった。

 穹からの連絡は相変わらずない。合宿免許という、ある種陸の孤島に行っている今、連絡しても身動きが取れないからなのか、黙って消えた私に意趣返しをしようとワザとなのか分からない。けれど、私は連絡は来るものだと勝手に確信している。穹が、あの行動力の塊が私からの連絡に文句の一つも言わないなんてあり得ないのだ。

 我ながら穹のことを分かった風なことを考えている気がしないでも無い。けれど穹はそういう奴なのだ。何と言っても私と音楽をすることにした翌日には楽器を抱えていたくらいなのだから。

 

「さて、私もやることやらないと」

 

 宅配で届いた大きな段ボールを玄関から部屋に運び込むと、中に入っていたペンライト約百本を一本ずつ取り出して点灯確認をする。言うまでも無いが浦の星女学院全校生徒分のペンライトだ。

 ラブライブ予選にはどうやら本当の本当に全校生徒が応援に駆け付けるらしい。今のところ変更の連絡はないため、こうして初期不良がないか確かめているのだ。

 白、ピンク、黄、桜、みかん、青、緑、赤、紫、と色の変化も問題が無いことを確認する。

 近年のサイリウムは機能性が高く、一本で何色もの色の変化させることができる。また、微妙な色彩を調整できたりする高機能なものも存在する。

 今回私が取り寄せたのはラブライブ公認グッズのラブライブレードで九色の色が既に設定されているものだ。公式品であるため、光量のレギュレーションに引っ掛かる心配も無いためラブライブ観覧の必需品とも言える。時々居るのだ。改造サイリウムでやたらと明るい光を出して悪目立ちしようとする輩やサイリウムを連結させて周囲の観客に当たりそうになる輩が。

 

「よし、全部OK」

 

 当日は私がコレを現地に持って行く手筈となっている。

 さて、と私は窓から外を覗くと天候は生憎の雨。特別外に用事がある訳でも無いけれど、私は敢えて外に出ることにした。本当にただの気紛れ。それ以上でもそれ以下でもない。

 私は傘を片手に気の向くままに歩みを進める。

住宅街を抜け、海沿いを行く。

 天候のせいもあり波が若干高めだが、船が航行不能になる程でも無いのだろう。急ぎ足で帰ってくる船などは見当たらない。

 こんな天気に日に態々歩き回る物好きな人は私くらいなものだろう。人影が無く、車も通らず、船も見当たらず、今この時、私は世界に一人だけなのだという感覚に心が高揚した。

 いつもと違う状況が本来ならば気が滅入るような状況を楽しいと感じさせたのだ。

 私はミュージカル女優のように傘を持ちながらくるくると回ったり水たまりでステップを踏んだりと雨の中を、一人の世界を楽しんだ。

 私は穹と活動をするまでダンスなどしたことは無かったけれど、タップダンスの成り立ちに惹かれ独学でダンスを学んだ。だから誰も居ない舗装された田舎道などでステップを刻んだりをよくしたものだ。懐かしい感覚に身を委ね、パシャパシャと飛沫を起てながら私は雨の中を行く。気温自体は高いため段々と汗が噴き出してきたため傘を閉じて雨を全身に浴びた。気にすることはない、私は今は一人、ここには手拍子でリズムを取ってくれる穹もいなければAqoursのみんなもいないのだから。このパフォーマンスは私の、私のためだけのものなのだ。

 ステップを刻みながらふと思う。Aqoursのパフォーマンスは今の私とはきっと対極にあるのだろうと。みんなのためのパフォーマンスなのだろうと。

 ラブライブ予選ではどんなパフォーマンスをするのたろう?

 私は憑きものが落ちるよう気分が現実的な思考を始める。驚いたのは、私が何時も何やら学校の前まで来ていたことだ。どんなに一人の熱中が快感に感じても、心の奥底では誰かの存在を求めていたのかもしれない。

 特に用も無いが私はそのまま学校に入る。

 

「ーーーーーー」

 

 誰も居ない閑散とした停まった時間。けれど、どこからか聞こえるのはもはや聞き慣れた声。

 

「ーーーー私達の学校のことです」

 

 Aqoursのみんなの声だ。

 私はその声に導かれるまま体育館に顔を出すと、ステージ上にはみんながいた。

 私は彼女達のこれまでと全く違う取り組みを見て安心すると共に納得した。これでもう後は本番を迎えるだけであると。

 一言付け加えるならぼ、歌って躍るだけがスクールアイドルではないのだと。


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