ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
執筆の調子が良ければそれより前に更新するかもしれません。
Aqoursの渾身の一曲はあっという間に終わった。楽しい時間が早く進むのはアインシュタインも証明している。
Aqoursとしての初パフォーマンスの反応は上々。観客も歓声をあげているし、Aqours自身やりきった笑顔があった。
だが、そこにただ一人、難しい顔をしているのは生徒会長だ。
彼女はそうすることが私の使命だとでもいうように堂々とした佇まいで壇上の前まで来ると、衆人環視の中臆することなくAqoursに警告した。
「これは今までのスクールアイドルの努力と町の人達の善意があっての成功ですわ。勘違いしないように」
生徒会長の言うことは間違いない。ファーストライブでこんなに人が集まる事などメジャーデビューしたてのアイドルでもそうはない。ショッピングモールなどに知らないアイドルがミニライブをしていても観客がまばらだったりすることなんてざらにあることだ。
そもそも彼女達の実力はここに来るまで未知数なのだ。評価されて集まった訳ではない。それを勘違いしないように釘を刺したのだ。
何故生徒会長はそんなことを口にするのだろう?彼女だって本当はスクールアイドルが好きなはずなのに。このライブを通して彼女達の熱を感じて、何故敢えて今それを口にするのだろう?
疑問は尽きないが、私はあることに気がついた。
生徒会長のスカートの裾にほんの少し油汚れが付いていることに。
もしかしたら生徒会長が発電機を回したのか?だとしたらなんて
「ツンデレ」
ステレオタイプな例えだが、彼女の行いを称するにそれ程相応しい例えを私は知らない。
そして、私は暖かな気持ちになった。
だとすれば生徒会長はきっとAqoursの壁として彼女達を支える方針なのだろう。
本当に生徒会長もライブの手伝いをした生徒達も来てくれた近隣の人達もみんな人が良すぎる。だから生徒会長の言葉は厳しく響いても悪意を感じないのだ。
それは高海先輩もそう感じたのだろう。高海先輩は不快な顔をすることなく答えた。
「分かってます。でも、ただ見てるだけじゃ始まらない。今しかない瞬間だから、輝きたい」
それこそ生徒会長が言う、これまで歩んできたスクールアイドルのようにーーーーーμ’sのように。
答えなどはじめからあったのだ。だからAqoursは生徒会長の言葉に揺るがない。その輝きは陰らない。
会場は彼女の言葉を聞いて拍手に沸いた。
生徒会長は難しい表情をしながらも一応の納得したのか体育館を後にする。
それが合図になったのか今日のライブは終わりを迎えた。
たった一曲だが、されど一曲。観客達はライブの講評をしながら体育館を後にする。
私はと言えば壁際に寄りかかり、あの瞬間吹くことをしなかったハーモニカを吹き始めた。
曲は蛍の光。帰宅の時間にこれ以上のものはない。流石に帰宅のBGMまでは用意していないようだからこれくらいは良いだろう。
途中、帰宅者から今日はありがとう、と声を掛けられた。演奏中だったから目礼で返したが、その言葉は後でそっくりそのままAqoursに伝えようと思う。
ライブの空気に当てられたからか体が熱い。今はただただ演奏がしたい。そんな気分だ。
私は私の世界に没頭する。
目を閉じればその存在を隣に感じる。かつて私と共に歩んだ彼女の姿が思い浮かぶ。彼女の歌が聞こえてくる。
ああ、それ以上は思い出してはいけない。私にその思い出に浸る資格はないのだから。
曲が終わり私は目を開けると驚いた。いつの間にか私の周りに少なからずギャラリーが出来ていた。立ち止まってくれた人達は私にも暖かな拍手送ってくれた。
「あはは、またのお越しお待ちしてます」
私はきっと不細工極まりなかったであろう笑顔を顔に張り付けて感謝の言葉を告げると、その場を切り上げて駆け足で体育館から出た。
私はなんてことをしていたのだろうか。他人様のライブに来た客を掻っ攫うような行為をするとは。
私は罪悪感で体育館にはいられなかった。
私は夢中で走る。人目を避けて、誰も寄り付かない所へ。
気付いた時には私は屋上に居た。
ライブ中まで土砂降りだった雨はいつの間にか止み、嫌味にも雲間から光が差し込んでいたんでいた。
だが私の心は雨模様。大舞台や、ましてや人前なんて私にそんな資格は無い。私にはここで気ままにハーモニカを吹いているくらいが丁度いい。それが私の身の丈に合った生き方だ。