ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は7/7更新予定


第七十九話

 A-RISEがμ’sが、そしてその他歴代のトップスクールアイドルが煌びやかな舞台でパフォーマンスを披露している姿がUTXのモニターに映し出されている。そして今年のラブライブ決勝大会がアキバドームで開催されることが告知された。

 四万人規模の広さを誇るそこは普段はプロ野球の試合をやることが多い。その他にも都市対抗野球、有名なアーティストのライブ会場、スキー・スノボの大会など多岐に渡るが、いずれにせよかなり大規模な催し物だ。

 そんな会場でスクールアイドルの大会が開催されるのはそれだけ現在ではスクールアイドルという存在が世間に浸透し、また人気であるからこそだ。

 例えばサッカーの人気が無ければ全国大会で国立競技場は借りられないだろう。野球の人気が無ければ甲子園球場は借りられないだろう。

 勿論、最初はアキバドームでの開催など夢物語だった。そんなマイナーなスクールアイドルとあうコンテンツをA-RISEがカリスマ性でメジャーなコンテンツに押し上げ、μ’sが大衆に浸透させた。だからこそアキバドームで毎年の様にラブライブが開催される現在があるのだ。だからこそ、この二組のスクールアイドルは未だに特別なのだ。

 無理だと言われるようなことを実現させる実行力。その原動力はどこにあったのか、画面越しには分からない。ただし、μ’sについてなら一つ共通項がある。それは学校が廃校の危機にあるということだ。それが切っ掛けとなってμ’sは始まったという。

 そう言えば浦の星の統廃合問題は実際どうなのだろうか?暫定でも入学希望者がいるのだろうか?その当たりの運営的なところは鞠莉さんに任せきりでまったく触れてこなかった。これは後で確認しよう。

 

「なんか、信じられないね」

 

 私達はUTX前の歩道橋広場からモニターを眺めている。みんな一様に呆然とアキバドームでのラブライブ開催の告知を眺めていた。

 高飛び込みで全国レベルを知る曜先輩が呆然と信じられない、という発言をしたことが印象的だった。

 私はスクールアイドルでは無いけれど曜先輩の呟いた言葉には同意だった。

 あのアキバドームが満員になり、一面を色とりどりのサイリウムが煌めくのだ。その中心に果たして自分が居ることをどうして想像できよう。私や穹がしていた活動を卑下する訳では無いが、私達の活動では精々が学校の体育館を三分の一を埋める程度だったのだから。

 

「それでも私達の活動の先にあるんだよね」

 

「でも行くのでしょう?」

 

「勿論」

 

「最果ての約束の地ね」

 

「それは私達のーーーー」

 

「未来ずらー」

 

 未だ答えはない。けれど道は繫がっている。そう思うと不思議と力が湧くのか、みんなは前向きだった。

 

「無謀な夢の果て、か」

 

 μ’sのファイナルシングルと題されて公開された“MOMENT RING”という曲がある。

 それは彼女達の活動の総決算となる曲の内の一つだ。

 廃校の危機から学校を救い、スクールアイドルの認知度を広めラブライブ決勝大会をアキバドームで開催できるよう導いた。小さな活動だったそれが様々なものと関わり、絆を紡ぎ、物語となって奇跡を起こした。

 そして彼女達の手から離れた今、青春はこのように続いている。そう思うと、胸に込み上げるものがある。

 

「ねぇみんな。音ノ木坂、行ってみない?」

 

 そんなμ’sの始まりの場所に行けば何かが分かるかも知れない。そんな風に思ったのか梨子先輩が提案した。

 

「いいの?」

 

 けれど、その提案は梨子先輩からすれば一つの区切りの筈だ。なぜなら彼女は音ノ木坂にいた頃に不調に陥り学校を去っているのだ。トラウマと言わないまでも複雑な感情を抱いていた筈だ。

 

「うん。今は楽しくピアノを弾けるから。コンクールも上手くいったしね。それに行ってみたいの。今、行ってどう思うのか、それが知りたいの」

 

 そう言う梨子先輩には気負いは無かった。

 陳腐な表現かも知れないけれど、梨子先輩は凄いと思う。

 藻掻き、苦しんで沼津に来て、そして今東京の舞台に舞い戻り成功を収めたのだ。

 もちろん、一人で何もかも成し遂げた訳では無い。けれど、みんなの助けがあったとしても、やはり壁を越えるのは自分なのだ。

 

「星ちゃんもいい?」

 

 梨子先輩は改めて私にも確認を取ってくれる。

 もともとそう言う予定だったとはいえ、やはり言葉にすることにも意味は生まれるのだ。だからこそ梨子先輩はみんなの前で口にしたのだ。

 

「はい。行きましょう、音ノ木坂に」

 

 未だ穹から返信はない。もしかしたら練習中なのかもしれないし、そうではないかもしれない。けれど、もしかしたら会えるかもしれない。なら会いに行く以外に選択肢などない。いや、選ばない。もう私も腹を括ったのだから。

 

「でも、一ついいですか?」

 

「何?」

 

「私は学校の中に入って穹がいるか確認しようと思ってますが、それは私一人でやろうと思うんです」

 

 それは穹に対するケジメだ。彼女と向き合うときは1対1で。そうでなければ本音をぶつけられないだろうし、彼女からも本音を引き出せないと思う。

 きっとぼろくそに言われるだろう。そう思うと恐怖を感じるが、それから目を背けてはいけないのだ。

 

「大丈夫なの?」

 

 千歌先輩が確認するように言うが、その顔には特別心配する様子はなかった。あくまでも一応の確認だとでもいうように。

 

「はい」

 

 それは私ならば大丈夫だと、そう無言で背中を押されたような感じでなんだかむず痒い感じがしたけれど、素直に嬉しかった。

 

「じゃあみんな行こうか、音ノ木坂に」

 

 おー、とみんなで掛け声を出して私達は音ノ木坂に向かった。

 ちょうどその時、モニターにはμ’sが“Happy Maker”を歌っていた。ひたすらに前向きなその曲がまるで私のことを応援しているようで、幾分私の足が軽くなった。

 


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