ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
秋葉原駅を降り電気街口を抜けて行く。大型の電機屋さんの前を通過し、裏路地を進むと見えてきたのは壁かと見紛う急勾配の階段。神田明神が袖入り口となる男坂だ。
本来ならば正門から入るべきなのだろうが、かのμ’sが基礎練の一環としてこの階段をダッシュしていたという由来からスクールアイドルにとってはこここそが神田明神の正門となっている。
階段を息を切らしながら登りきり、本殿の前に行くとそこには見覚えのある二人が居た。どうやら彼女らが待ち合わせ相手だったようた。
「お久しぶりです。Aqoursのみなさん。それにジェミニのアカリの星さん」
「今日はありがとう。Saint Snowさん」
「北海道予備予選突破おめでとうございます」
紫を基調とした制服に身を包む二人組、姉妹ユニットであるSaint Snowの鹿角聖良さんと鹿角理亞さんだ。
沼津に先だって行われた北海道予備予選でSaintSnowはトップで通過する快挙を成し遂げている。それ故なのか幾分前回のスクールアイドルイベントで会った時に比べ印象が柔らかい。
「ありがとうございます。お参りはまだですよね?それを済ませたら場所を変えてゆっくり話しましょう」
律儀にも私達を待っていたのか、Saint Snowの二人はそう言って回れ右をすると、本殿まで歩み寄り、賽銭の入れると手を合わせた。私達もそれに倣いお参りをした。
「さて、ゆっくり話すには打って付けの場所を予約しているんですよ。ついてきて下さい」
心なしかSaint Snowの姉の方、鹿角聖良さんは気分が浮ついているようだった。それを見て妹の鹿角理亞さんは些か呆れた様子だ。
「スクールアイドルなら秋葉原は最早聖地と言っても過言ではありません。前回のスクールアイドルイベントの時は時間の都合上それ程見て回ることは出来ませんでしたが、今日はその分見ていこうと思っているんですよ。ただ、これから行くところは私と理亞だけでは借りるのは気が引けた場所なので、皆さんからの申し出は正直有り難かったんですよ」
「大人数じゃないと予約出来ないんですか?」
「そう言う訳でではありませんが、二人だけだと気が引けるってだけです」
道中、聖良さんは陽気に聖地巡礼の予定を話してくれた。尚、神田明神に来る前に既に音ノ木坂に立ち寄っていたらしい。
神田明神から電気街に戻り、オフィスビルの方へと歩くと、スクールアイドルにとって秋葉原にある二大高校、ラブライブ初代王者A-RISEの母校であるUTX学園へと辿り着いた。
「ここのカフェスペースは予約さえすれば一般の方でも利用できるんですよ。さ、入りましょう」
高層ビル丸ごと学校となっている偉容に小心者の私はビビりまくってしまったが、聖良さんは目を輝かせて私達に早くしろと催促した。
クールな印象の聖良さんだが、こう接してみると可愛らしいところがあるのがよく分かる。
UTX学園の事務室に足を運び、入館証を借り受けると私達は駅の改札口のような入り口を通過し、高層階にあるカフェラウンジに入った。
カフェラウンジは白を基調とした空間でミーティングなどでも使えるようのテーブルを挟んでゆったりとした赤いソファーがあり、更に壁面には大型モニターまで完備されている。事務的でありながら高級クラブの一室のような雰囲気も兼ね備えた仕上がりとなっている。
「ここはかのA-RISEも愛用していたカフェラウンジなんですよ。一回来てみたかったんです」
「お姉様、些かミーハーに過ぎるのでは?」
「予備予選突破したんだから、自分へのご褒美よ。理亞だって昨日は楽しみで眠れないとか言ってたじゃない」
「な、それは言葉の綾です」
ツンケンとした態度の理亞さんは顔を赤くして否定するが、十中八九聖良さんの言うとおりなのだろう。
私達は姉妹喧嘩というかコントを余所にソファーに腰を下ろした。
私とルビィちゃんは全員分の紅茶を入れてから座った。
ここのラウンジの飲料はセルフだが無料でクオリティが高い。なんて入れる容器が紙コップではなく、しっかりとしたティーカップなのだ。
「紅茶ありがとう。うん、例えインスタントだとしてもこうやって飲むと雰囲気あるわ」
「ご満悦ですね」
「勿論。さて、付き合わせてばかりも何だし、早速本題に入りましょうか」
柔和な表情だった聖良さんは一転して表情を引き締めた。
本題とは、スクールアイドルとして自分達はどうあるべきか?トップスクールアイドルと自分達の違いとはなんなのか、だ。
その命題は井戸端会議で軽い気持ちで話す内容でもないし、相手のことを認めていなければする話しでもない。そういった面を考えると、Saint Snowの二人はAqoursのことをそれなりに認めているのだろう。
以前、スクールアイドルイベントでは散々な結果を見せる形となったが、その頃から成長したと評価したのだろう。少なくとも話しをする程度には価値がある相手だと。
それを感じたのだろう、Aqoursのみんなもまた背筋を正して表情を引き締め気持ちを切り替えていた。
「私達はA-RISEを見て、憧れてスクールアイドルをやろうと思ったんです」
先に口を開いたのはSaint Snowだった。ありがたいことに、彼女達は素直に自分達のことを話してくれた。