ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第七十六話

 電車の車窓から見える景色はここ半年で約6回目にしている。

 まずは浦の星への入試。次いで引っ越し、そしてこないだあった東京でのスクールアイドルイベントへの参加だ。それらの往復で計6回だ。

 初めて沼津へと赴いた時はまだ冬で、車窓から見える景色も常緑樹以外の大半の木々は寒々と枯れ、田畑も休作しているところが多かった。それが今では生命力が有り余らんばかりに木々は青々と茂り、畑も栽培か始まっていた。そんな景色を見ると少なからず月日が経過しているのだなと改めて実感させられる。

 

「星ちゃんの番だよ」

 

「あ、すみません」

 

 私は正面からの催促に苦笑いをして返し、目の前に広げられた裏向きの3枚のトランプカードを見た。

 そう。この東京行きは本来は一人で行く予定だったのだが、彼女達Aqoursもまた自らの方向性やμ’sといったトップスクールアイドルとの違いを探しに東京に行くとのことで、私達は揃って電車に乗ることとなった。そして今はこうしてババ抜きに勤しんでいる。

 

「善子ちゃん相手なら選ぶまでもないね」

 

「はぅっ」

 

 特別駆け引きするでもなくカードを選ぶと果たしてそれはジョーカーではなかった。

 運の要素が絡む勝負事は善子ちゃんが大の苦手とする分野だ。これは本人の意図とは別のところで自動的としか思えない不運が運ばれてくるのだから善子ちゃんもさぞかしこれまで苦労してきただろう。

 だが、その不運が私にまで波及していないだろうかと少し不安着感じている。と言うのも、東京行きに決めてから私は思いきって穹にメールをしたのだが、一向に返事がないのだ。

 果たして穹から無視されているのか、彼女もまた悩んで返事をしかねているのか私には判断がつかない。

 

「不安ずら?親友に会うのが」

 

 そんな一抹の不安を抱える私に目敏く花丸ちゃんが気付いた。

 

「そうだね。もしかしたら会えないかもしれないし」

 

「そしたらどうするの?」

 

「諦めないよ。もう私は簡単に投げ出したりしない」

 

 そんな大切なことを教えてくれたのは花丸ちゃん、君もその一人なんだよと私は心の中で感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京駅に着くとまずは梨子先輩と合流することとなった。

 今後の予定としてはAqoursのみんなは誰かと会うことになっているらしい。私はその後に梨子先輩をみんなからお借りし、音ノ木坂に行く予定だ。そこに穹が居ないなら埼玉の穹の自宅まで行く。

 

「ここで待ち合わせであってるよね?」

 

 私達は今、東京駅の丸の内北口エントランスにいる。

 近年改装され、西洋建築の影響を受けた円形の高い天井をしたそこは今日もまた人の往来が引っ切りなしだった。天下の往来とは今やお天童様の見える屋外の道路よりも、こうした屋内の駅の通路こそを指す方が正しいかもしれない。

 

「あってますよ。梨子先輩ももう着いたって連絡が来てたので、もう間もなく合流できるかと」

 

「呼んだかしら?」

 

 そうこうしている間に、なんら問題なく梨子先輩と合流ができた。時間ピッタリなところは流石元東京人だ。

 

「お帰り、梨子ちゃん」

 

「ーーーーーただいま」

 

 最初に声を掛けたのは果たして曜先輩だった。

 なんの曇りもない笑顔で軽く握った拳を差し出す。梨子先輩もまた笑顔でその拳に拳をぶつけた。お互いの健闘を労うように。

 印象的だったのは曜先輩の手首には梨子先輩から贈られたシュシュが付けられていたことだ。

 ボーイッシュな曜先輩のファッションとは少し噛み合わないが、彼女は今日ずっとそれを外すことはなかった。そこに特別な想いがあるのを感じざるを得ない。

 

「ありがとう、みんな。私、弾けたよ」

 

 改めて梨子先輩が頭を下げて結果を報告した。ただ、結果としてコンクールで優勝したことよりも梨子先輩がみんなの前で楽しくピアノを弾くことが出来たという事実が嬉しかった。

 

「よーし。Aqours全員集合したし、行こう!」

 

「どこに行くの?」

 

「秋葉原。話しを聴きたいって言ったら、会ってくれることになったの。誰かかは秘密だよ」

 

 今日の予定はほぼ千歌先輩が組んだため誰と会うのかは千歌先輩のみぞ知る。ただ、スクールアイドルのことを聴くに打って付けの人物とのことだが、秋葉原というとどうしてもある二つのグループが思い浮かんでしまう。

 ラブライブ初代王者のA-RISE、そして二代目王者のμ’sだ。正直スクールアイドルのことを聴くにこれ以上の相手は居ないが、流石にそれはないだろうと思う。

 

「スクールアイドル、秋葉原、まさか」

 

「お姉さん!」

 

「ルビィ、色紙とサインペンの準備を」

 

 流石にそれはないだろうな、と私は思っているが黒澤姉妹は何を思ったのか盛り上がっている。それについてはみんな何の指摘もしないので、そっと見守ることにした。

 ドタバタとコンビニに駆け出す黒澤姉妹がはぐれそうになったり、ちゃんとプリペイドをチャージしているのに善子ちゃんが自動改札機で弾かれたり、完全にSFの世界に迷い込んだ気分になっているテンションの異様に高い花丸ちゃんがどこかにふらふらしないよう誘導したりと四苦八苦しながら山手線に乗り、秋葉原へと赴いた。

 もしも私が音ノ木坂に通うこととなったらきっと池袋当たりから山手線に乗り換えていたのかなと思いながら私は道中を楽しんだ。

 乗り込んだのは偶々だが、配備されて一年も経っていない新型車両だった。

 今は通勤・通学時間じゃないからそれ程ではないが、きっと通学していたらパンパンの電車の中を潰されたヒキガエルのような気分で穹と共に乗っていたのだろう。そう思うと思わず笑い出してしまった。

 

「楽しそうだね、星」

 

「そうですね。花丸ちゃんじゃないですけど、私もテンション上がってるみたいです」

 

 私の様子に小首を傾げる果南さんに苦笑いしながら返答した。

 あったかもしれない、もしもの光景を幻視する程度には今回の私には余裕があった。それは前回の時とは違い、能動的に覚悟をして行動しているからだろう。

 

「会えるといいね、穹って子に」

 

「はい。本当に」

 

 ポケットからスマホを取り出すが、未だ着信はない。ジェミニのアカリのページも確認したが、何のアクションもなかった。

 穹はこの電車に乗り、一人で音ノ木坂に通い、どんな一学期を過ごしたのだろうか?それを思うと一抹の不安を覚えた。

 私はみんなと出会えた。けれど穹にはそんな存在と出会うことができたのだろうかと?


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