ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は6/23更新予定


第七十五話

 音ノ木坂の入試を受け、その結果が発表される時、私と穹は寒空の下、おでん片手にコンビニの前でスマホと睨めっこしていた。

 

「もしもどっちかしか受かってなかったらどうする?」

 

「取り合えず肉まん奢りで」

 

「でも、音ノ木坂って実はそんなに偏差値高くなかったじゃん」

 

「とは言ってもお互いそんなに頭良くないでしょうが」

 

「それは言わないお約束」

 

 この頃には私の引っ越しはほぼ確定していた。だけど諦めたくない気持ちだけで私は沼津行きを拒んでいた。だけど、心の底ではその拒絶は現実的ではないとも思っていた。だから二人とも不合格ならば、とも考えたことがあった。でも結果を目前にすると、諦めたくない気持ちが増すのを感じていた。

 

「もしも二人揃って不合格なだったらどうする?」

 

「ーーーーーー!」

 

 ずばり穹に問われた時、咄嗟に言葉は出てこなかった。それを一瞬とは言え望んだこともあったのに、そうはなりたくないという気持ちがそれを上回っていた。

 

「私はそれでも星と音楽を続けるよ。きっと予定してたスクールアイドルって括りでは活動できないけど、音楽に国境はないしね」

 

 悪戯っぽく言う穹をこの時の私はどれほど信じただろう。多分穹の言葉に嘘はない。それは感じていたけれど、現実の距離は気持ちだけでは覆せないとも思っていた。だから彼女の気持ちに正面から向き合えなかった。

 

「そんな心配はどうやら無用みたい」

 

 私はスマホに映し出された合格者の受験番号を穹に見せた。

 

「二人とも合格。やったね」

 

 私達は静かに拳同士をぶつけて健闘を讃え合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今、その頃とは打って変わり炎天下のコンビニ前で私はチューペットの類似品を片手に みんなと一緒にスマホと睨めっこしていた。どうでもいい話しだが、チューペットは今製造中止されているらしく、市場には出回っていないらしい。

 何故私達がこうしているかと言われると、ラブライブ予備予選の結果発表の日だからだ。

 沼津市民文化センターで行われた予備予選。そこで披露された“想いよひとつになれ”のパフォーマンスはミスもなく、一人少ないことを感じさせない力強さがあった。だから予備予選を通過出来ないことなど私は微塵も感じていない。ただ、未来に絶対はないから結果が出るまでのスッキリしない時間をみんなとこうして共有しているのだ。あの時ように。

 

「うー、なんだかどきどきしてお腹が空くずら」

 

「花丸ちゃん。さっきからのっぽパン食べすぎ。肥るよ」

 

「縦に行くから大丈夫」

 

「なんでそんなに自信満々?あまりこれまで実績はないみたいだけど」

 

 実は花丸ちゃんはAqoursメンバーの中で一番身長が小さいのだ。普段ルビィちゃんが影を薄くしようとしているため勘違いされがちな事実だ。

 

「勝負はこれからずら」

 

「あー、まぁ高校から伸びる人もいるし、ファイトだね」

 

「もう、二人とも緊張感なさすぎ」

 

「だって、もう結果に影響与えられないし」

 

 とは言え緊張していないかと言われれば実は私も緊張はしているのだ。ただ、その緊張感を含めて今を楽しんでいる。だって、多分通過してるし、という楽観があるから。

 

「あ、結果出たよ」

 

「Aqoursですわよ、“あ”ですわよ」

 

「上から、えーと、イーズーエクスプレス」

 

「・・・・・・」

 

 あれ?という沈黙が一同に流れた。始まったと思ったら終わった出落ち感がする。

 

「あ、エントリー№順だった」

 

「あるじゃん、Aqoursやったね」

 

 横から果南さんが曜先輩のスマホを掻っ攫い、読み上げるとあっさりとAqoursの名が見つかったようで、安堵の溜息をしていた。

 

「これも全て堕天使のお導きよ」

 

「黙ルフォイ」

 

「それじゃ嫌がらせする魔法使いの同級生じゃない!」

 

「さて、それじゃあ梨子先輩にも連絡しないとですね」

 

 こらー、と騒ぐ善子ちゃんを余所に千歌先輩に話を振ると千歌先輩も同じ事を思っていたのか自分のスマホを取り出していた。

 

「今、向こうから掛かってきたみたい。スピーカーにするね」

 

 もしもし、と通話を始めると梨子先輩の聞き慣れれ応答があった。

 

「予備予選突破おめでとう」

 

「うん。梨子ちゃんはコンクールどうだった?」

 

「うん。ちゃんと弾けたよ」

 

 スランプに陥っていた梨子先輩は一時期楽しくピアノを弾くことが出来なかった。それがこうして人前で、それもスランプの切っ掛けとなったコンクールで弾けた。そのことが何よりの成果だ。

 

「次はラブライブ予選大会で一緒に歌おう!」

 

「ーーーーーうんっ」

 

 今回の予備予選に向けて、千歌先輩に染み付いていた梨子先輩との動きと曜先輩は対峙していた。だから、今回、苦労することとなったし思うことがあった筈だ。だが、それを乗り越えて曜先輩はまた共にステージに立とうと言葉を掛けた。そこに特別な意味を感じたのか、梨子先輩もまた万感の想いで返事をしていたように感じた。詳しいことは当人同士しか分からないが、私でも言葉にならない想いが感じ取れた。

 

「梨子先輩。お疲れ様です」

 

「ありがとう、星ちゃん。乗り越えられたよ」

 

「はい。私も、すぐに追い付きますから」

 

 梨子先輩が、そして曜先輩が壁を乗り越えた。もちろん、私にとってのそれとは違う種類の壁だが、そこに苦悩するのは同じだ。そこに答えを出して、行動して、そして乗り越えたのが二人で、私はまだどうすべきか答えを出しても行動に移せていない。そこが明確な違いだ。

 

「この機会にみんなにも聴いて貰おうと思うのですが、私は穹に会いに行こうと思います」

 

「星ちゃんっ!?」

 

「ようやく、決心がつきました」

 

「行くの、東京に」

 

「はい」

 

 そっか、と千歌先輩は嬉しそうに笑った。私も気負うこと無く笑顔になれた。

 チャレンジすること、立ち向かうこと、本音をぶつけること、諦めないこと、大切なことの多くをみんなから教えて貰った。頭でっかちな私に気付かせてくれた。勇気をくれたのだ。

 だから、離ればなれになった私の片割れ、双子の欠片を探しに私は東京に行く。そう決めたのだ。

 そんな私にみんなは、大丈夫?とは聴かなかった。その信頼が嬉しかった。


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