ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
翌日から千歌先輩と曜先輩の動きが見るからに変わった。梨子先輩の動きを再現していた曜先輩からは窮屈そうなところが無くなり、活き活きとした曜先輩らしい躍動感が戻った。
それに呼応して千歌先輩もまた動きが変わった。梨子先輩とセンターをしていた時よりも上達したということはないがマイナーチェンジというべき変化があり、曜先輩と並び立つ“らしさ”を感じるものとなった。
そう言えば私が穹と組んでから暫くは一緒に同じ曲を奏でてもイマイチ一体感がなかった。ひたすら練習して考えをお互いに話して、突き詰めていくことで次第にお互いの音楽が一致するようになった。具体的にどれくらいの期間掛かったのか覚えていないが、少なくとも昨日の今日でということはなかった。
私はみんなの練習を眺めながら梨子先輩に一言メッセージを送った。もう大丈夫、と。そしたらすぐさま梨子先輩から電話が掛かってきた。
「今大丈夫?」
「はい。丁度みんな目の前で練習してますよ」
「曜ちゃん、千歌ちゃんと上手くいったんだ」
「そうみたいです。どんなことを話したんです?こんな劇的に変わるなんて」
「もともと二人の仲は良かったし、気持ちも一緒だったから。変わったというよりも元の鞘に収まったっていうところかな」
「軌道修正したってことですか?」
「そんな上から目線じゃないわ。でも、曜ちゃんが心配しなくていいことを心配してたから、それが杞憂だってことを」
「それだけですか?」
「それだけよ」
「ははっ、今の様子を梨子先輩にも見せたいですよ」
今屋上で躍る彼女達には今や何の憂いもない。梨子先輩がいないからこそ失敗出来ないとか、予備予選に負けられない、とかそんな後ろ向きな気持ちではなく、今この時を良いものにしたい、楽しみたい。そんな前向きさが彼女達に輝きを生み出していた。
「そうだ。もしコンクールで上手くいったらね、音ノ木坂に顔を出そうと思ってるんだけど、その時に星ちゃんの親友の穹さんのこと聴けたらなって思うんだけど、どうかな?」
それはなんとも心強い申し出だ。けれど、この件については私が主体となっていたい。
「予備予選を見たら私も東京に行きます。だから、その、一緒に行ってもいいですか?」
一人では勇気が足りないかもしれない。でも、背中を押してくれる仲間がいればきっと今度は逃げない。
「分かった。私も良い結果を伝えられるよう頑張るわ。だから」
「はい。みんなに梨子先輩が頑張れって言ってたと伝えときます」
「そ・れ・もあるけど、星ちゃんも頑張ってね。みんなのことばかりに気を遣って、自分のこと後回しにしないでね」
またね、と梨子先輩は電話を切った。
「今の梨子ちゃん?」
「ひゃいっ!?」
思いのほか長電話していたのか、気付けば曜先輩が私の隣に座り、私の首筋に冷えたペットボトルを押し付けてきた。
「梨子ちゃん何だって?」
「頑張れ、ですって。みんなと私に」
「そっか。ねえ、星ちゃんは自分の気持ちが自分だけじゃ整理できない感覚をずっと感じていたの?」
それは私の嘘が始まってからのことを聴いているのだろう。かつての私なら踏み込むなと激昂するかもしれない一線だが、今の私はそうは思わない。みんななら私を曝け出せる。踏み込まれてもいいと思えるようになったからだ。
「はい」
「あの感覚をずっとか。自分で蒔いた種だからこんなこと言われる様な立場じゃないと星ちゃんは思うかもしれないけど、辛かったね」
「ーーーーーーはい。辛かったです」
それ以上の返答を私は出来なかった。もし返答しようものなら、辛いと感じていた時期の想いをぶちまけてしまうだろうから。
隠す訳では無く、これは私なりのケジメだ。
こうして共感を得られただけでも私には贅沢なこと。千歌先輩なら奇跡だよ、とでもいうべきことだ。
「よし。素直でよろしい」
「ちょっ、髪の毛ぐしゃぐしゃになります」
曜先輩は私の頭をガシガシと乱雑に撫でると気持ちいいくらいに口をニカっと開いて笑った。
「そうだ、一曲お願いしてもいいかな?休憩中のリフレッシュってことで」
「お安い御用です」
「やった。みんなー、星ちゃんが一曲吹いてくれるってさー」
各々水分補給や汗ふきをしているところに曜先輩が呼び掛けると、みんな嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。
ああ、私の演奏をこうして楽しんでくれる人がいるなんて、なんて贅沢なことだろうか。こんなこと穹に会った時に話しても信じて貰えるだろうか?なんて思うと苦笑いが込み上げてくる。きっとそれは難しいことだ。でもみんながいればそんな困難にも立ち向かうことができる。自然とそう思えるようになっいてた。
「じゃあ、たむらぱんの“ラフ”を」
この曲は世界不思議発見で一時期タイアップしていた不思議な印象の曲だ。
自分の頭の中で巡らせたことで感情が変遷し、素の自分がいいも思えるような、気の抜けたテーマの曲だ。
非常に耳に残る歌詞回しで一時期はラジオなんかでもよく流れていた。
この楽曲の歌詞のように私も、曜先輩も、梨子先輩も、気持ちが決まってからは気楽になったのだろう。正に今の私達にはびったりの曲だ。