ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
切り捨てることの出来ない二択を迫られた時、人はどの様な選択をするのだろう?
梨子先輩はそれに答えを出したが、そのままみんなにそれを聴けない私は例え話としてみんなに個別に聴いてみた。
「自分の宝物とAqoursメンバーのどちらかを選ばなくてはどちらも無くす、ですか。意地悪い質問ですわね」
「それって答えの出せるものなの?」
「正解も不正解もない問題ね」
あまりにも漠然として、それでいて難問なだけにみんないい顔はしなかった。
それでも答えを出さなければならないと私は続けて言うと、
「でもその問題の出し方には抜け道があるずら」
「悪魔の出す二択の裏側には天使が潜んでいるって寸法ね」
「どちからを選ばなければどちらも無くすってことは、どちらかを選んだ場合にはどっちも取れる可能性があることを否定していないよね?」
と私の想定していなかった答えを出すのだ。これは単に私の問い掛けかたの問題かもしれないが、みんなそれぞれ二択を素直に選ぶことも諦めることもなかった。
「片方を選んだ上でもう片方も捨てない、なんてどうかな?」
曜先輩なんかは照れたように言った。その言い方は私ならばそうする、ではなくこんな選択肢もあると提案するかのようだった。まるで答えを求める私に向けて言っているかのように。
私はこの結果を千歌先輩に話した。ただ、みんなから話しを聴いて参考にはなったが、私はまだ自分なりの結論が出ていなかった。
どちらも捨てないなんて選択肢は今回ないのだ。どちらかを選ぶ事なんてできない。
「千歌先輩ならどうします?あれからずっと考えているんですけど答えが出なくて」
「うん。私も分からない。分からないけど、大切なのは選択肢を選んだ結果じゃない気がする」
「何故選んだのかってことですか?」
それならば梨子先輩も言っていた。今の梨子先輩の音楽はみんながいるからこそ成り立つのだと。
千歌先輩は難しい顔で考えながらも少しずつ話してくれた。あれから千歌先輩が考えていたことを。思ったことを。
「それでね、考えたんだ。梨子ちゃんが予備予選に出てくれるって言ってくれて嬉しかったのと同時にピアノコンクールに出て欲しいと思う気持ちが沸いたのは何でだろうって。そしたらね、同じだったんだ」
「みんなの今があるのも梨子先輩が居たからこそってことですか」
「うん。それとね、私が梨子ちゃんをスクールアイドルに誘ったときに言ったことがあったんだ」
「それは?」
「ピアノを諦めるんじゃなくて、スクールアイドル活動を通してピアノをまた楽しく弾けるようになったら弾けばいいって。そうなれるように私も力になりたいって」
千歌先輩は語るに連れて瞳に輝きが戻ってきた。言葉にも力が宿り始めた。千歌先輩の中で整理出来ていなかったことが片付き、迷いが次第に消えていったのだろう。語り終えた頃にはすっかり決心が付いたような顔になっていた。
「梨子先輩はもう楽しくピアノを弾くことができます。大分前ですが一度セッションした私が保証しますよ」
「うん。私話すよ、梨子ちゃんに。ピアノコンクールに出て欲しいって」
交わした想いの上に成り立つ音楽。それを奏でる梨子先輩の姿を想像して、私はいつか穹が言っていたようなことを思った。それはとても素敵なことだと。
「ところで星ちゃんが梨子ちゃんの選択に違和感を感じたのは何でなの?」
「そうですね。私もあまり考えが整理できていないんですけど、多分昔の相方の影響だと思います」
「中学時代にユニットを組んでいた子のことだね」
「はい。あの子ったら欲張りで二択を迫られたら二択とも得ようとするんですよ」
だからだろう、私が梨子先輩の決断に納得できなかったのは。千歌先輩に比べればなんとも自分勝手な動機だ。
「大胆不敵な子なんだね。そう言えば梨子ちゃんも以外と大胆なところがあるんだよ」
そう言って千歌先輩は楽しそうに梨子先輩と出逢った時のことを話してくれた。
海辺で悩ましい顔で黄昏れていた梨子先輩が気になったこと。その梨子先輩が唐突に制服を脱ぐと中に着ていたスクール水着姿で海に飛び込もうとしたから飛びついて止めたこと。止めきれずに二人してずぶ濡れになり、焚き火をして暖を取り、梨子先輩が悩んでいた理由を聞き元気付けたこと。
千歌先輩の語りは正直拙い言い回しだったけれど、ありありとその時の光景が目に浮かんだ。きっと千歌先輩は今でもその時のことを鮮明に覚えているのだろう。それだけ大切な出逢いだったのだろう。
「梨子先輩のこと、お願いします」
「まかせて」
胸を張って頷く千歌先輩に私は一曲送ることとした。
曲はMr.Childrenの箒星。車のCMで使われていた曲だ。
この曲は登っていくようなキーが特徴のアップテンポな応援歌だと私は解釈している。というのも、比喩表現が多く、読み手次第で解釈が変わる内容となっているからだ。だけど私は確かに背中を押す力をこの曲を聴いて感じたのを覚えている。先が見えなくても、道標を頼りに向かおうと、一人では無く二人で行こうと。
まだまだ温かい夜風に乗せて、私はハーモニカを吹いた。たった今この浜辺は私と千歌先輩だけのライブハウスだ。
千歌先輩は演奏を聴きながら夏の大三角が燦然と輝く夜空を見上げていた。
この曲のようにスッと星が流れていることを私は願った。