ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
調子が良ければその前に一話くらい更新するかもしれません。
今日も今日とて屋上で私はハーモニカを吹いていた。
今日は津島さんは早めに帰ったので今は私の一人舞台だ。
今日の曲はボレロ。クラシックに造詣の深くない私にはこの曲がどういった理念のもと創られたのか分からないが、よく耳にするのは勝敗が絡むときだ。その静から動に徐々に高まる重厚な響きは自然と戦意を高めるからだろう。私が知っているクラシックでは数少ないものの一つだ。
何故この選曲にしたかと言えばAqoursのライブの成功を祈ってだ。
後から聞いた話だが、どうも体育館を満員にしたら人数が足りなくても部として認める(部活動申請は五人から)と新理事長から言われたらしい。だが、全校生徒合わせて100人に満たないこの学校でその条件は鬼畜の所業だ。
おそらくは満員にならない。だが、それでも諦めずにAqoursとして進み続けるか理事長は見極めるつもりなのだろう。とんだ食わせ者だ。
「ハーイ、時々素敵な音が聞こえるから探して見ればここにいたのね」
その食わせ者がこんなにタイムリーにやってきたのも偶然だろう。
私は一曲吹き終わると理事長に挨拶した。理事長は私の二つ上だから先輩に当たるのだ。
「こんにちは理事長」
「ノー、鞠莉って読んで」
理事長はハーフだからなのか日本語をそれなりに覚えた外国人のような喋り方をする。
ファーストネームで呼べと言うのもそういった文化で育ったからだろう。
「分かりました、鞠莉さん」
「イエス、よろしい。ところで貴方は一人で活動しているの?」
はて活動とはなんの事だろう?
「貴方もスクールアイドル目指しているんじゃないの?」
「違います。私のは単なる趣味です」
音楽を嗜む生徒が少ないからかどうやら鞠莉さんは私もまたスクールアイドルをしたいと勘違いしているらしい。
「それより理事長は何故スクールアイドルに関心が?確かにこの地域では珍しいですが」
「好きだからよ」
私の話題変更に対して鞠莉さんはこれまたシンプルに答えた。
高海先輩同様この人もまた好きなことに好きと言える人のようだ。
「そ・れ・に、私は理事長。生徒の活動を応援するのが勤めですから」
本当にスクールアイドルが好きでそれを育てたい。だから壁も用意したというところだろう。今週末のライブは。
食わせ者ではあっても悪い人ではなさそうなので何よりだ。
「そうですか。ところで鞠莉さん、普通のイントネーションで喋れるんですね」
鞠莉さんはにこり、と笑うと屋上から立ち去る。私はその後ろ姿に再びハーモニカを吹いた。
曲は“ツバサ”。アンダーグラフの曲だ。
この曲は夢を追うことでの別れと再会への希望の曲だ。今は多分、高海先輩達は鞠莉さんの事を掴みきれていないと思うが、その歌詞のようにいつか高海先輩方が夢を叶え、鞠莉さんと共に笑える日が来ることを願う。
家は基本的に家事全般は私が担当している。
母親は海外で働いているから家には居ない。父親は外ではしっかり者で通しているらしいが家ではぐうたら。何かさせると余計な仕事を増やすので家事をさせないようにしている。
だから私は学校帰りにスーパーで買い物をすることが多いのだが、家に近づくとよく近所のおばちゃん達が井戸端会議をしているのに遭遇するのだ。
「あら星ちゃん、お帰りなさい」
「こんにちは。また韓国ドラマの話ですか?」
おばちゃん達は私にも気安く話しかけてくる。最初は戸惑ったがミーハーなおばちゃん達の話題が同年代の連中と通ずるものがあるため話に混ざっても意外と話せるものなのだ。
「違う違う。星ちゃんの学校のスクールアイドルの話。こないだの町内放送面白かったわよねって」
「あはは」
Aqoursがライブを成功させるために案内告知をしていたのだが、町内放送をしたときのぐだぐだ感が意外にウケが良かったらしい。
「今週末でしょ?どうしようかしら」
「じゃあライブを見てそのあとお茶しません」
「折角だし久し振りに皆で集まってみましょうよ」
引っ越してから実感したがこの地域の人達は人付き合いが本当に好きだ。暇があればこうして顔を合わせくっちゃべり、買い物先でもくっちゃべり、遊びに出かけてくっちゃべり、いや言い草ははあれだが悪意はない。
とにかくコミュニケーションを大切にしている。年の功もあるだろうが私にも良くしてくれる。
本当に温かい。
「そういえば星ちゃんもスクールアイドルなの?楽器とか弾けるんでしょ?」
「私は趣味ですから」
「あら?でもピアノとかギターとかハーモニカとか色々出来るじゃない」
「先輩達とは方向性が違いますよ」
「方向性とかミュージシャンみたい」
近所の人達は私が家で楽器を演奏する音を聞かれているので音楽が好きなことは知られているのだ。
私の拙い演奏を耳にして怒鳴り込んでこないのは非常にありがたいことである。
「是非ライブに来て下さい。きっと先輩達も喜びますから」
それでは、と私はお節介で、でも親切な隣人に別れを告げた。