ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

66 / 206
次回は5/19更新予定


第六十五話

 一学期の延長戦のように花火大会の準備をしていたが、花火大会も無事に終えるといよいよ夏休みに入った気分になった。

 さて、明日から忙しいぞ、と私は部屋で布を被った楽器達のメンテナンスの順番を考えていた時のことだ。スマホに着信が入り、確認すると学校に集合せよとダイヤさんから召集命令が来た。

 

「私はスクールアイドル部員じゃありませんよ、と」

 

 私はそうダイヤさんに返事を返す。音楽活動の制限を解除したとはいえ、それはそれである。

 返事を返して数秒、スマホをベッドの上に放り投げようとしたところで、今度は電話で着信があった。

 

「しもしもダイヤさん?」

 

「もしもしですわよ。それはそうと、何を連れないことを言っているのですか?別に練習に参加しろとは言っていないでしょうに」

 

「ならどうして?」

 

「花火大会の時の映像、いるでしょ?」

 

 今回のパフォーマンスの映像はAqoursの活動としてスクールアイドルのランキングにアップさせるとともに、私のかつて活動していたグループ“ジェミニのアカリ”のアカウントで動画サイトに投稿するのだ。私が穹に伝えたいことがあると示すのだ。

 

「分かりました。学校に行けばいいですか?」

 

「いいえ。千歌さん家近くの浜辺に海の家があるからそちらに来て下さい」

 

「何急にパリピみたいな事言ってるんですか?そこは由比ヶ浜ではないですよ」

 

「誰がパリピです、まったく。兎に角、待ってますからね」

 

 ダイヤさんはそう言って唐突に電話を切った。

 内容が余りにも“らしく”ない。ダイヤさんと海はイメージが合わない。もし海が似合う女になりたいならば黒澤パールと改名するべきだ。

 私は布を被った楽器達を眺めて溜息を吐いた。どうやらメンテナンスはまた今度になりそうだ。

 私は一応水着をタンスの奥から引っ張り出して鞄に詰め込んだ。そして机の引き出しからハーモニカを取り出すとそれもまた鞄に入れて家を出た。

 あまり防犯・防災面でよろしくないが、イヤホンを装着して自転車に跨がった。

 夏・海ときたのでそれらしいセレクションでウォークマンから音楽を流した。

 先ずは反町隆史 with Richie SamboraのForeverだ。これはドラマ「ビーチボーイズ」のタイアップ曲だ。

 夏というとどうしてもアゲアゲなイメージがあるが、この曲は一夏の思い出が掛け替え無いものに思うことを歌ったバラードだ。夏の大三角が見える夜など雰囲気としてマッチしていると思う。

 これをチョイスしたのはこの夏休みを良い思い出にしたいという願いからだ。既にして良い思い出ができたため今のところは幸先が良い。

 その他数曲を流している内に浜辺に着くと、寂れた海の家が直ぐに見つかった。隣にはハイカラなオシャレな海の家がある。さて、どちらがダイヤさんの指定したものかと考えてすぐに結論が出た。連絡の時点で詰めが甘いダイヤさんがこんなシャレオツな海の家に居る筈が無い。

 

「こんにちわー」

 

「へいらっしゃい、って星ちゃんか。ヨーコソー」

 

 海の家に入ると曜先輩が鉢巻きを巻いて元気良く焼きそばを作っていた。

 店内は曜先輩のクラスメート達が数人遊びに来ていたため、それなりに賑わっていた。

 

「バイトですか?」

 

「自治会のお手伝い。それに千歌ちゃん家で合宿も兼ねてるんだよ」

 

「いいですね、合宿。なんか部活っぽい。そうだ、ダイヤさんから呼び出されたのですが、ダイヤさんは?」

 

「食材足りなくなりそうだから買い出しに行ってる」

 

「呼び出したくせにお出掛けですか」

 

 私は取り合えず一つ、 焼きそばを注文をして客席に腰を掛けた。

 よくよく見れば曜先輩の背後ではニヤニヤと独り笑みを浮かべる善子ちゃんが黒いたこ焼きを作り、鞠莉さんはブツブツとシャイニーと呟きながら鍋を混ぜている。うん、見なかったことにしよう。

 

「みんなが来てくれたお陰で思ったよりも売れてね。というか、当初の予定を低く見積もりすぎたんだけどさ」

 

「みんなも手伝っているんですよね?どちらに行かれてるんですか?」

 

「砂浜で呼び込みしてる。それよりちょっと注文の前に手伝って貰ってもいいかな?」

 

 曜先輩は料理をしているためか額に球の汗を掻いて調理を続けている。他の二人は、いや二人など居ない。まあ、一時的に手伝いが必要なのも頷ける。

 

「いいですよ」

 

「はい。言質頂きましたわよ」

 

 不穏な台詞が外から聞こえたかと思うと、ダイヤさんが不敵な笑みを浮かべて入ってきた。

 どういうことですか、と曜先輩を見やると彼女は乾いた笑いをして謝った。

 

「乗せられたってことですか?高くつきますよ」

 

「撮影データ分、むしろそちらに借金があるのではなくて?」

 

 やられた、と思いつつも私は仕方なく余っていたエプロンを付けた。

 この夏と言えば海とはどこの反町がなんのドラマで言っていたかな、ととぼけてみようとして止めた。きっとネタを知らないだろうから。

 いずれにせよこの夏は熱く、忙しく、忘れられない夏休みになりそうだと、腕まくりした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。