ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は5/12更新予定。
最近少し更新が遅れ気味なので気をつけます。


第六十三話

 花火大会当日。幸いなことに天候は晴天。その上微かに風もあるため花火日和と言えよう。

 対岸に見えるステージは今は無人だが、あと数時間もすればスクールアイドルと奏者が彩る華美な舞台に様変わりする。

 最後のリハーサルを終え、各自自由時間となってから私はステージを一望できる場所にやって来た。

 ステージは河川敷から縁出すように特設のステージが作られた非常に手の込んだ代物だ。その上で披露されるパフォーマンスをここから見たらどんなに素晴しいだろうか。私はステージの正面の対岸となるここから見ることができないことを名残惜しく思う。

 

「こんなとこいたんだ、星」

 

「鞠莉さん」

 

 私はこの前の一件があってから彼女を呼ぶときから学園長という役職を外すようにした。流石にあの呼び方は他人行儀に過ぎる。親身になってくれた人にそれは礼儀知らずだろう。

 

「良いんですか?小原グループの娘として来賓席に顔を出さなくて」

 

「ノープロブレム。もう済ませたから。それに良いのか、は私の台詞。本当に良いの?」

 

「はい。琴は私が責任を持って弾かせていただきます」

 

 そう。今日私がステージを見られないのは私自身もまた舞台に上がるからだ。結局弾き手の見つからなかった和琴を私が担当することになったのだ。

 

「コレは善子ちゃんに言われたんですが、相手に伝わらない誠意は自己満足だって。だから示さなければならないんだって。それで考えたんです。やってないことは側に居ないと伝えられない。だからやって伝えなきゃいけないんだって」

 

「そうね。先ずはコンタクトを取らないとね」

 

「はい」

 

 他の人からも色々と言われた。それでやっぱり私は私が思った以上に相手の気持ちを考えられない人なんだと再認識した。

 私と同じようにもし穹が音楽を辞めていたら私は嫌だと思う。きっと穹も同じ気持ちを抱くと言われるまで私は思い至らなかった。

 だから私はこの花火大会のパフォーマンスを穹に見せる。見せて私はこの沼津に居ること、音楽を好きでい続けていることを伝えるのだ。

 

「それにしても相変わらず、切っ掛けは強引ですよね」

 

「あら。何のこと?」

 

「今回の件もこれまでも最初は強引にイベントをねじ込むけど、その後は自主性に任せて傍観して。最初は何を考えているんだって思ってたけど、何時だってそれが成長に繫がってた。鞠莉さんはみんなに何が必要なのか考えていてくれてた」

 

「褒めても何も出ないわよ」

 

「そうですね。らしくありませんでしたね」

 

 みんなを見続けていた鞠莉さんはきっと私のことも見ていたのだろう。思えば出会ったときもわざわざ私を探していた様子だったし、私の過去を知っている節もあった。そして、本当に私の嫌がることはしなかった。結果的にだが私が心を整理するのに必要なことを多く経験することになった。花火大会の手伝いの件もそうだ。けど、飄々として素直じゃない鞠莉さんは面と向かってお礼を言われることに素直に喜んでくれないだろう。だから心の中で言わせて貰う。ありがとう、と。

 

「そうそう、一つ言い忘れてた」

 

「なんですか?また厄介ごとですか?」

 

「そうじゃないわ。貴方、今回の花火大会用の衣装に今日初めて袖も通してたじゃない?似合ってたわよ」

 

 自分は面と向かって言われなかったくせに私には平然と鼻の痒くなるようなことを言うのだから卑怯だ。

 

「あれ、最初から用意してたんですか?」

 

「答えはノーよ。貴方がやるっていうから用意したのよ」

 

 和服をモチーフとした衣装。前回の幼稚園でのお遊戯会の時と同じくベージュを基調とした衣装だった。

 

「今日はいいステージにしましょ」

 

 じゃあまた後で、と手を振って鞠莉さんは立ち去った。

 こないだまでは一度別れると次に会えるかどうか自信が無かった。だが、今は違う。私の過去を、本音を、彼女達は受け入れてくれた。

 

「Aqoursか。良いグループね」

 

「木皿先生」

 

 いつの間に居たのか、木皿先生が手すりに河川敷の手摺りにもたれていた。

 

「走って学校から飛び出した次の日、星ちゃんの顔が凄くすっきりしてたから上手くいったんだなとは思ってた。今日リハで初めて彼女達と会って安心した」

 

「みんな一途で、愚直ですよね」

 

「気持ちいいくらいにね。いっそ嫉妬しそうだわ」

 

「何言ってるんですか」

 

「だって、見てよあのステージ」

 

 木皿先生は対岸に見えるステージを強く指を指して言った。

 

「あそこでパフォーマンスしてけれってオファーが来るのよ?こんな大舞台、私も経験したこと無いわよ」

 

「普通はそうですよね」

 

 先生は現役でバンド活動をしているとのことで、ライブハウスでライブ活動をしているそうだ。

 一般的なバンドだとそこそこ大きな会場となると単独ライブとは中々いかないのが現実だ。

 

「今日は楽しんでください」

 

「感謝してる。家の連中も良い経験になるわ。ホント、最初誘われた時はとんでもない話しを持ってきたと戦々恐々としたのよ?」

 

「そんな疫病神みたい言わないで下さいよ」

 

「蓋を開けてみれば疫病神じゃなくて福の神だったけどね。また良い話あったら教えて。独り占めは許さないからね」

 

「私はAqoursのメンバーではないんですが、善処しますよ」

 

 約束よ、と木皿先生はグーを作って突き出して来た。私はその突き出された拳に拳を合わせて返した。本当にこの先生は楽しい人だ。

 

「今回は本当にありがとうございました」

 

 さっぱりした正確の木皿先生でなければ私は自分のことを浅くすら語らなかっただろう。先生だったからこそ私は足りなかった部分に気付くことができたのだ。

 もし中学時代にこんな先生がいたら、と思いその考えを中断した。自分の過ちは誰のせいでもなく私自身のものだ。

 私はそれを認め、今日のステージに挑むのだ。

 今日という日は幼稚園のお遊戯会での舞台同様、一生忘れることの出来ない日となるだろう。

 

 


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