ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
夏の太陽は高く、夕方になってもなお燦々と輝き地表をジリジリと焼いていた。そんな中にあって、太陽に負けない輝きを放とうとみんなが練習に勤しんでいた。
練習着は汗で濡れ、顔も暑さで赤く染まっていた。
私が屋上に姿を現すと、みんな気付いた様子で一瞬こちらを見詰めたが、練習を止めることはしなかった。それだけみんな真剣に取り組んでいるのだ。
「じゃあ少しコーヒーブレイクにしましょ」
私に気を遣ったのか、切りの良いところで鞠莉学園長が相変わらずネイティブな発音で休憩を提案した。
「星からも話しがあるみたいだし、ね」
ありがたいことに鞠莉学園長は悪戯っぽくウィンクして私に話しを振ってくれた。みんなもまた言うまでも無い、という顔をして私を見つめた。
「皆さんに言われたこと、あの後ずっと頭の中から離れなかったんですが、ようやく気付くことができました」
みんな本音を言えば今すぐにでも楽な姿勢になり、呼吸を整え水分補給をしたいであろうが、私の言葉を真っ直ぐに受け止めようと態度で示してくれる。
こんな馬鹿で世話の掛かる私に対しこんなにも親身になってくれることに本当に申し訳なく思う。
「私は自分のことを話したつもりで全然話せていなかったんですよね」
「そうだね。確かに星ちゃんは事実を言っていたんだと思う。でも、それは単なる事実でしかなかった。それでは歴史の教科書を読んでいるのと同じずら」
歴史の教科書とは実に読書家の花丸ちゃんらしい表現で的を得ていると思う。
「聴かせてくれるのですね」
「ダイヤ。ここで立ち話で聴くことではないでしょ。みんなも」
「じゃあ部室に一度戻ろうか」
食い気味なダイヤさんを窘めて鞠莉学園長と千歌先輩が先導してみんな部室に向かいはじめる。
「ほら、星も行くよ」
「はい」
ぼうっと立ち尽くす私は果南さんに促されてみんなの背中を追い掛けて部室に向かう。
こないだ告白した日に見た背中と寸分の狂いも無く同じ背中だが、今は少し印象が違って見える。あの時は恐ろしさや悲しみが先行していたから今とは心の持ちようがかなり違うし当たり前と言えば当たり前とかもしれない。
前は遙か先にあるように感じた背中が今は少しだけ近くに感じた。
部室に着くともはやみんな自分の定位置が決まっているだろう。迷うこと無く着席して私が話しをするのを待った。
「私は自分の過去の失敗を正確に伝えようと思ってました。でも、そこには私の気持ちが入ってなかった」
「星ちゃんのしたことは事実を客観的に見ても良いこととは言えない。寧ろ悪いことだと思う。だからこそ、私達は星ちゃんがどんな気持ちだったのか知りたいんだ」
「一緒に音楽を楽しんだ星ちゃんが時々さみしそうな顔をしていたのを知ってる。その答えがそこにあるんでしょ?」
本当にこの人達はよく人のことを見ている。だが、ここで涙を流してはいけない。それでは話にならない。私はこの奇跡のような人格者達を前にこみ上げて来るものをぐっと堪えて話しをする。
「私は結局臆病で現実逃避していたんです。別れる結末を認めたくなくて、安易な誤魔化しで安心感を得て。そんな自分勝手なことばっかで私はこれっぽっちも相手の気持ちを考えてませんでした。もちろん未来を変えようと抗いましたが、それも結局は無駄に終わりましたが。そこで正直に告白すれば良かったのに、怖くて言えなくて。そのまま皆まで言わずに相方と別れました」
私の話は脈絡に欠けていたと思う。それでもみんなは私の本音を汲み取って聴いてくれた。
「今はどう思ってるの?」
「後悔しかないです。あの時穹に、相方に本当の事を話していれば彼女を混乱させることも傷つけることも無かったと思います」
時を巻き戻せるなら間違いなく戻したい案件だ。だが、歴史にタラレバはない。動き続ける時間を少しでもマシな物にするには今から逃げてはいけない。それを気付かせてくれたのはみんなだ。
相方との別れを経て、まさかこんな風に仲良くなりたいと思う人達に巡り会うこととなるとは思って無かった。けど、みんなを大切だと思ったからこそ、私は今、事実と向き合えるようになった。
「その穹って子には最後まで何も話してないんだ?」
「はい。今でも引っ越しの当日に、何で話してくれないのって言われた事が耳にこびり付いています」
改めて話してみて本当に私は救いようがない。けれどもそれを全て知りたいとみんなは言ってくれた。だから私はそれに少しでも報いたかった。それが今の私に出来る最大限の誠意だ。
「沼津に来てからずっと苦しかったと思う。誰にも相談していないんでしょ?」
「はい」
「なら私が敢えて言うよ。星ちゃんは最低だよ」
「ちょ、千歌ちゃん!?」
「何も分からないままある日突然親友が引っ越しちゃうんだよ?そんなのって無いよ。ホント最低。馬鹿だよ。星ちゃんは大馬鹿だよ」
そう捲し立てて千歌先輩は私を抱きしめて号泣した。
ああ、本当にこの人には敵わない。私はそんな資格など無いのに気付けば涙を流していた。
ずっと苦しかった。誰にも言えず、誰からも指摘されないことが。私は誰かに正して欲しかった。お前は悪い奴なのだと。ずっとそう思っていた。それを千歌先輩は真っ直ぐな言葉をぶつけてくれた。
「ごめんなさい」
嗚咽と共に漏れた言葉は本来千歌先輩に言うべき言葉ではない。それでも今は千歌先輩の胸を借りて言いたかった。