ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
花火大会において舞台でのパフォーマンスは前座であり、客寄せ以上のものではない。言い方は悪いがそれが事実だ。
舞台でのパフォーマンスも時間一杯Aqoursの曲を披露できる訳では無く、盆踊りをしたりと地域の活動の補助の側面がある。
今をときめく高校生、それもスクールアイドル活動をする華やかな学生が地域の活動をしている姿を見せることで若年層を呼び込む狙いだ。年々、地域の活動から若者が離れている現状がある今、深刻な問題として大人達は捉えている。
私達は舞台をただで借りる手前協力できることは協力しなければならないだろう。
私はそんな現状を運営委員会の担当者から訴えられた。Aqoursが自分達の活動に本気なように運営委員会もまたこの花火大会を成功させようと本気なのだ。
私は舞台でのパフォーマンス以外の部分において、会場で流れるBGMにAqoursの曲を混ぜて欲しいと要望したところ、BGMについては花火大会のスポンサーCM以外は比較的自由にしているとのことで、3種類ほどルーチンに混ぜてくれることとなった。
翌日、私はその話しを持ち帰り、屋上に実際のステージの広さを目張りしながらみんなに話した。
「自由に使える持ち時間は10分ってところですかね」
「グループ紹介と併せてぎりぎり二曲ってところだね」
「未熟DREAMERは確定なんですよね?もう一曲どうします?」
みんなはあれこれと頭を悩ませているが、ほぼ一択しか選択肢は無い気がする。それは「夢で夜空を照らしたい」だ。
最初期の「ダイスキだったらダイジョウブ」や「決めたよHand in Hand」は三人でパフォーマンスを行っていたため、見直すのはこれまた一からとなってしまう。あくまでも比較した場合の程度の問題だが、六人で披露した「夢で夜空を照らしたい」の方が構成を直しやすい。
「ねえ、星」
「やりませんよ」
私は鞠莉学園長から皆まで聞く前に拒否した。どうせ私に舞台に立てとでも言うのだろう。幼稚園での時のように。
「そうじゃないわ。貴方にまた交渉に行って欲しいの」
「何の交渉ですか?」
「沼津の吹奏楽部のある高校に生演奏の依頼を」
鞠莉学園長の提案に私は難色を示さざるを得なかった。それもそうだ。基本的にカラオケに併せて歌って躍る方式でのパフォーマンスをしていたのが急に生演奏で行いたいなど冒険し過ぎである。
「運営の意を汲むならより多くの学生を関わらせたいし、他の学校にも私達のことを知ってもらうチャンスよ」
「一理ありますが、みなさんはいいんですか?」
こんな思いつきのような意見を取り入れて良いのか私には判断が付かない。この人はまた一人で突っ走っているのではないだろうか?
「いいと思うよ、それ」
「みんなでお祭り騒ぎずら」
千歌先輩が肯定的なのは想定していたが、予想外にも他のメンバーも好意的な反応だったのは驚きだ。
「分かりました。交渉しますが、そのためにも曲は早く決めていただいていいですか?運営にも話しをつけなければなりませんし、生演奏を依頼するにも楽譜がないと。他にもやることは山積みですよ。BGMで流す曲も九人で取り直さないといけないんですから。それに上手く生演奏の依頼を受けて貰えるとして、現地に指導に行かなければならないんですよ。のんびりしている暇はありません」
「あわわ。星ちゃんが鬼プロデューサーに」
「文句なら私を引き込んだ鞠莉学園長に」
改めて自分で言っておいてなんだが、やることが多過ぎる。これを実現できるかは私の働き次第だ。
「では、私は先ずは沼津市内の学校で吹奏楽部があるところを調べて取り敢えずのアタックを掛けます。終わったらまた来ますのでそれまでに披露するもう一曲を決めてください」
「あ、その前に未熟DREAMERの通し練習見てかない?イメージがあった方が説明しやすいと思うんだけど」
私は屋上から引き上げようとして果南さんに捕まった。確かに彼女の言うことには一理あるので断るに断れず、私は彼女達の練習を見ることとなった。
具体的な広さが設定された練習は今回か初のため、歌はなく曲を流しての動きの確認だったが私にとっては初めて曲を聴く機会とやった。
曲を聴き、私はやることのハードルが上がったことに頭痛がした。
使われる楽器が吹奏楽部が扱うものとは些かジャンルが違うのだ。楽器をやってる人は一つだけではなく他の楽器にも手を出す人が少なからずいるため、吹奏楽部にエレキギターを扱える人を探さなければならない。そして、冒頭には琴のパートがあるため、その手配しなければならない。幸い琴は公立中学などに時偶あるので何とかなるだろう。冒頭だけなので練習すれば誰でもいける筈だ。
ハードルが余計上がったのはあれだが、この段階で知れたのは助かった。後になってからでは取り返しが付かないところだった。
「ありがとうございす。凄く参考になりました」
「こっちが無理なお願いをしているのですから」
「ではまた後で。さっき言ったこと、忘れないでくださいね」
私はそそくさと屋上を出る。
今日は一切プライベートな内容の会話が無かったため自然に話せた。だが、それでも一人になると気が抜けるということは彼女達と関わることに気を張っている証拠だ。昨日、花火大会の運営委員会の人と会ってからも、みんなに対しての説明で足りないところを考えたが、結局思い付かなかった。この活動を通じて何か思い付くか分からないが、やるしかない。今はそんな気持ちで一杯一杯だった。