ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第五十八話

 花火大会までそれ程の日数はない。だから花火大会の運営との調整に時間を割くよりも練習を優先したい。今回私に依頼があった背景にはそんな狙いがあるのだろうと思う。

 三年生の加入自体は喜ばしいことだが、突然メンバーが増えたことで歌のパートもダンスの振付も変わったのだろうから、パフォーマンスの構成はほぼ一から作り直しなのだ。

 

「ステージの下見ができるよう交渉はします。他に要望はありませんか?」

 

 スクールアイドル部の部室に入った私は曰く言いがたい空気の中、不思議と必要なことは平然と話すことができた。

 なんて恥知らずだろうとも思うが、やはり私は彼女達と居ることが好きなようで、後ろめたさとは裏腹にやる気が湧いている。

 みんなも最初は驚いていたが、打ち合わせを進めていく内に次第に意見を言うようになってくれた。

 

「ステージの大きさだけでも分かったら連絡頂戴。その幅で区画すれば本番の広さに近い練習ができるから」

 

「わかりました。じゃあアポ取りして、運が良ければこれから運営に挨拶に行ってきます」

 

 私は地元でも有力者の家系であるダイヤさんと鞠莉学園長から名刺と花火大会の運営委員会の名簿を預かり、部室から出て行こうとした。

 

「あの・・・いえ、行ってきます」

 

 私は何かを言いたかったが、事務的な会話以外となるとトンと言葉が浮かばなかった。頑張ってくださいとか頑張りますとかすら言えなかった。

 

「星ちゃん」

 

 私はとぼとぼと部室から出ると、私を追い掛けて梨子先輩が部室から出てきて一言。

 

「行ってらっしゃい」

 

 何てことのない一言だが、その飾らない言葉がありがたかった。

 行ってきます。行ってらっしゃい。なんて、極々普通で、日常的で、そして今の私には遠い言葉だった。

 

「星ちゃん」

 

「千歌先輩も。どうしたんですか?」

 

「今はまだだめかも知れないけど、今度また話しの続きを聴かせて」

 

「話しの、続き・・・?」

 

 千歌先輩は何を言っているのだろうか?おかしい。私は確かにみんなに自らの行いを、その過ちを告白した。それ以上に話すことなどない筈だ。

 

「わからない?」

 

「よく思い出すずら」

 

 曜先輩と花丸ちゃんもまた部室から顔を出す。

 

「貴方の告白は確かにこの堕天使たるヨハネに届いた」

 

「貴方の覚悟はみんなが感じていますわ」

 

 堕天使モードの善子ちゃんとダイヤさんもまた続いた。

 

「でもよく思い出して」

 

「肝心なことが抜けてるの」

 

 果南さんとルビィちゃんが謎かけをする。

 

「それを星ちゃん自身で気付いて」

 

「貴方の口から聴きたいの」

 

 梨子先輩と鞠莉学園長がそう締める。

 私が見落としていると、そう言っているのだ。だが、一体何を?

 

「焦らなくていいよ。私達は待ってるから。さあみんな、屋上で練習開始っ」

 

「千歌さん。校内は駆け足禁止って、鞠莉さんもっ」

 

 千歌先輩は羽の様に軽い足取りで小走りに廊下を駆け、屋上へと向かう。それに続きみんなもまたそれぞれのペースで続いた。

 みんな共通しているのはすれ違いざまに私の肩や尻を叩いていったことだ。まるて気合いを入れろ、気持ちを切り替えろと言わんばかりに。

 私は呆然とみんなの背中を見送った。いつの間にか見送られる側から見送る側になっていたが、本当に彼女達はどんどん前に進んでいく。あっという間に背中が見えなくなるほどに。それはなんだか嫌だな、と思い早く彼女達から言われた事を理解しなければという焦燥に駆られる。

 何を見落としているのだろう?私はなるべく客観的に事実を伝えた筈だ。確かに細かいことは言っていないが、大筋は読み取れるように伝えたのだ。それ以上にみんなは何を聞いていないというのか?

 私は悶々と頭を抱えながら職員室に行き、電話を借りて花火大会の運営委員会に連絡した。職員室の電話を使用したのはスクールアイドルが学校の公認のもと行われている課外活動であるためだ。また、見慣れない番号よりも過去にやりとりをしたことのある番号からの方が繫がりやすいだろうという狙いもある。

 幸い連絡は一発で繋がり、このまま町役場まで足を運べば担当者が会ってくれることとなった。

 やることがある時は気が紛れるから良い。だが、気紛れのために手伝う訳では無い。より彼女達が輝けるようにしたいならだ。

 私は職員室に残る先生達に別れを告げて学校を後にする。

 校舎から出ると、屋上から小刻みなステップを刻んでいるであろうカウントが聞こえてくる。決してゼロを踏まないカウントだか、私はいつゼロと宣言されるか分からない。

 嫌な想像にこの猛暑にも関わらず冷や汗か背中を濡らすが、私は頭を振って想像を掻き消す。

 彼女は待つと言っていた。それは少なからず信用されている部分がまだあるということだ。

 親友とも呼べる人を裏切ったと知って尚、私に対しそう言う言葉を掛けてくれることに私は心底から彼女達に頭が上がらない気持ちになった。

 その気持ちを私は私にできることで返すしかない。現状彼女達から言われた事にに思い至れない以上は成果主義しかない。

 私は今日の打ち合わせに向けて作られていた書類を委員会の名簿のバインダーから取り出して読み直す。

 まだまだ出演時間すら未定だが、一つだけ確定条件としてあることは決まっていた。それはAqoursが披露する曲のタイトルだ。

 披露するのは製作したばかりの新曲「未熟DREAMER」とのことだ。

 


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