ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は3/17更新予定


第四十七話

 翌日、私は早朝も早朝に千歌先輩に叩き起こされた。なんでもみんなで果南さんの早朝ランニングを尾行し、疲れた所を狙って話しを聴いてみるという作戦だ。何故みんな総出なのかというと果南さんのペースが早いため一人や二人追跡に脱落するという想定での保険だ。

 

「それにしても果南さんマジぱねえっす」

 

「星ちゃん、疲れすぎて喋り方変になってる」

 

 ランニング開始から早10分。時間的には標準的な継続時間なのだが、ペースが速いのなんの、普段スクールアイドルとして体力作りしているみんなが息を激しく切らせているくらいに速い。片や果南さんは呼吸を乱していないのだから、私の感想は決して過大な表現ではない。

 因みに私もまた絶賛呼吸困難な状態だ。

 

「アピールポイントは泳力と筋力って自称するだけあるね」

 

「大分良い感じどころの筋力じゃないよ」

 

 それでもどうにかこうにかランニングに食らいついて行くと、果南さんは弁天島の鳥居をくぐり抜け、鬼のような階段を上り弁天島神社まで駆け抜けた。どうやらそこがゴール地点でストレッチをしている。

 私達は無言でアイコンタクトをすると全会一致である結論を出した。今はこちらのコンディションが最悪なため話しにならないため待機と。疲れた所を狙うつもりが自分達の方が先にばててしまっている。

 取り合えず茂みに身を隠して呼吸を整えつつ果南さんの様子を観察していると、果南さんはストレッチを終えてダンスのステップを踏み始めた。

 非常に軽快でしなやかな見事なステップだ。私達は数瞬見とれてしまった。

 流石スクールアイドルをやっていただけある。というか、今でも練習を積んでいなければあんな馴れた動きは出来ないだろう。なにが嫌になっただ、と呆れながらもどこかほっとした。少なくとも心底嫌いになった訳ではなさそうだ。

 

「なんで嫌になったなんて言ったんだろう?」

 

 楽しそうにステップを踏む果南さんを見れば見るほど疑問に思ってしまう。

 好きなことを遠ざける事がどれほど苦痛かは私も分かる。現在進行形でそうだからだ。

 音楽活動は中学時代の私にとっては青春そのものであり、ライフワークであり、絆だった。だが、私の勇気がないがために絆を引き裂き、そして高校生となった。高校生の私にとっては音楽活動は無くした絆への未練であり、青春の代償行為であり禁忌だった。だから私は辞めた。だが、やってはいけないと思いながらも私の手は、耳は、体は音楽を求めてしまう。一人で居る時、人と話す話題、人を元気付けるツール、どうしても私に染身に付いたそれは私を苦悩させる。

 もしかしたら果南さんもそうなのだろうか?本当は好きだけど何かがそれを許さない。だとしたらこの問題は相当に根が深い。

 

「復学届提出したのね」

 

 自分の思考の泥沼にハマり掛かっているところで聞き覚えのあ不敵な声が聞こえ、はっとして私は顔を上げるとそこには怪訝な顔をして踊るのを止めた果南さんと、恐らくは果南さんの踊りに対する祝辞の拍手する鞠莉学園長がいた。

 

「まあね」

 

 素っ気ない返事をする華南に鞠莉学園長は動じることなく言葉を続けた。

 

「やっと、逃げるのを諦めた?」

 

「勘違いしないで。学校を休んでいたのは父さんの怪我がもとで。それに、復学してもスクールアイドルはやらない」

 

 核心を切り出したのは果南さんだった。スクールアイドルはやらない。そのワードが出た瞬間に私達は皆息を呑んだ。

 果南さんから感じるのはあからさま過ぎる拒絶の意志。これ以上は無いほどのシンプルで有無を言わさぬ物言いだ。ついさっきまで楽しそうに踊っていたとは思えない変わり様だ。

 だが、それにも怯まない鞠莉学園長は常のような外国かぶれの喋り方ではないこと以前に真剣さが滲み出ている。

 

「私の知っている果南は、どんな失敗をしても笑顔で次に向かって走り出していた。成功するまで諦めなかった」

 

 鞠莉学園長にとっての果南さんはそういう人なのだろう。果たしてそれは正しく果南さんを捉えているのだろうか?そんな鞠莉学園長の果南さん像が重荷になって嫌になった。そんなことは無いだろうか?

 私の相方が私の嘘を見抜けなかったように、鞠莉学園長も果南さんの本質を見られていないのではないのか?

 いや、これは考えすぎかもしれない。私のことを簡単に見抜いた女だ。かつての相方を出し抜き続けた私が見抜かれたのだ。傲りかもしれないが鞠莉学園長の人を見る目は確かだ。

 

「それに今は後輩も居る」

 

 思えば鞠莉学園長は千歌先輩達のスクールアイドル部設立の条件を出したり、ライブの場を設けたり、PV撮影に尽力してくれたりした。それもこれも果南さんが戻る場所を用意するためだったのだろう。

 学生でありながら実家経営する小原グループの後ろ盾を利用して学園長に就任してまで準備をしたのだ。どれだけ本気なのだろう。

 

「だったら千歌達に任せればいい」

 

「果南」

 

「どうして戻ってきたの?私は戻ってきて欲しくなかった」

 

「果南。相変わらず果南は頑固なんーーー」

 

「もうやめて。もう貴方の顔、見たくないの」

 

 だけど、その想いは拒絶で返された。

 スクールアイドルが嫌いな訳ではないだろう。音楽が好きだと以前言っていた。さっきの様子だと躍るのも好きなのだろう。だからスクールアイドルを嫌いであるとは考え辛い。

 ならば人間関係が原因かとも思ったが、果南さんの性格がが鞠莉学園長が語るような性格ならばきっと、嫌な相手には素直に嫌いだと拒絶するだろう。

 だから余計に分からない。何よりも分からないのが華南さんが辛そうな顔をして鞠莉学園長を拒絶することだ。

 鞠莉学園長からは顔を背けていたが、私達からはその表情が見えていた。

 私達はどうしていいのか分からず逃げるように下山した。


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