ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第四十六話

 沼津駅前徒歩数分。ビルの地下に24時間営業のカラオケ店がある。猫がこっちに来いって手招きしてる看板のカラオケ屋だ。

 思えば沼津に引っ越してきてからカラオケなんて初めて来たかも知れない。

 梨子先輩は誘った割に慣れない様子でそわそわしているのが微笑ましい。

 

「梨子先輩ってカラオケ来るの初めてですか?」

 

「東京もんがカラオケにも行ったことないって馬鹿にしてるの!?」

 

「いえいえ、それは被害妄想ですよ」

 

 梨子先輩は恥ずかしそうに顔を赤くしているが、カラオケなんて私だって初めて行ったのは中三の頃だ。それに行った回数も両手で数えられる程度でしかない。

 

「善子ちゃんは慣れてるんだね」

 

「当たり前でしょ。今時の女子高生なんだからカラオケくらい嗜みよ」

 

 ふん、と得意げに答える善子ちゃんにふと疑問が湧いた。学校をサボっていた時期は友達なんていないだろうし、登校するようになってからも大抵花丸ちゃんとかと帰ってる。花丸ちゃんとかからカラオケ行ったなんて話しは聴かないし。

 

「ヒトカラ?」

 

「嗜みよ」

 

「はい。すみませんでした」

 

 なんてからかい気味に言ってみたが、ヒトカラは案外良いものである。仲間でつるんでカラオケに行くと多少なりともTPOを気にした選曲になる。あまりマイナーな曲やザ・バラード曲なんかは歌いにくいのだ。その点ヒトカラならば自分の本当に歌いたい曲を歌えるし、覚えたての曲は練習できる。ヒトカラサイコーである。

 

「それで、梨子先輩は何故行ったこともないカラオケに私を誘ったんですか?」

 

「それはまた後でね。先ずは歌いましょ」

 

 ほらほら、とマイクを手渡してくる梨子先輩。

 

「さよならは別れの言葉じゃなくて」

 

「早っ、もう曲入れてるし」

 

 そうこうしているうちに善子ちゃんは既に曲を入れて歌い始めている。最初は準備運動のようで曲の中での音域が狭い曲を選曲している。

 曲は“セーラー服と機関銃”それもAcid Black Cherryのカバーバージョンだ。

 Acid Black Cherryは本筋の活動と同じくらいカバー活動も真面目にしておりカバーアルバムを三枚出すほどに至っている。私は薬師丸ひろ子のこの曲をまともに聴いたことがないが、Acidのカバーで曲調を覚えた。実に良い趣味をしていると善子ちゃん株が私の中で上がった。

 

「星ちゃん先どうぞ」

 

「分かりました」

 

 今更人前で歌うのに緊張も何もない気がするが梨子先輩は子機を渡してきた。どうしようかとも考えたがここは一肌脱いでネタに走ることにする。

 因みにカラオケは私的には音楽活動にギリギリ入らないので今日は思う存分歌う所存だ。

 

「Yeahめーっちゃホリデイ」

 

 曲は一昔のトップアイドル 松浦亜弥の“Yeah!めっちゃホリディ”。歌詞からしてネタ曲なのだが、謎の中毒性で流行った。それを私は振り付きで歌う。ウルトラマンが空飛ぶようなポーズだって綺麗に決めて見せた。これがカラオケでネタをやるということだ。

 

「凄い。けど、私達って本当に最近の女子校生って選曲じゃない?」

 

「じゃあ梨子先輩は最近の女子校生っぽい曲をお願いします」

 

 うー、と頭を悩ます梨子先輩はどうにか選曲をしてマイクを持った。

 

「窓もドアも開いている」

 

 梨子先輩は言う割に最新ではなかったが、異様に流行ったアナ雪の“生まれてはじめて”を歌った。最初こそ緊張していたようだが、歌い始めるとスイッチが切り替わったのか自然な声が出るようになった。

 

「偶にはいいね、こういうの」

 

「梨子先輩」

 

「ねえ、星ちゃん。星ちゃんは歌うの好き?」

 

「えっと、好きです」

 

「じゃあ歌おう。よっちゃん」

 

「アイサー」

 

 曲は善子ちゃんが入れた。BUMP OF CHICKENの“真っ赤な空を見ただろうか”。シングル曲“涙のふるさと”のカップリング曲だ。

 真っ直ぐで等身大でどこまでも凡庸で、それが心の隙間に染みるようなそんな曲だ。

 今この曲を歌うと言うことに私は特別な意味を感じざるを得ない。果たしてこれは誰に向けての選曲なのか。

 

「梨子先輩」

 

「次行くわよ」

 

 今度は梨子先輩が入れた。曲はJUJUの“sign”。映画「麒麟の翼」の主題歌となっていた曲だ。これもまた人と人との繋がりを表現した曲だ。狂おしい程の想いが込められたサビは圧巻の一言に尽きる。

 なんだろう。これらの曲を何故私に向けて歌うのか?

 

「梨子先輩」

 

「今日千歌ちゃんが星ちゃんに言った言葉覚えてる?」

 

 覚えている。またその時抱いた疑問は未だ私の中から消えない。

 

「星ちゃんは何で果南さん達に仲直りして欲しいの?」

 

「それは果南さん達の関係が危ないと思ったから」

 

「それは分かってるの。でもそうじゃないの。だって果南さん達の関係は星ちゃんとは関係がないでしょ」

 

「それは」

 

「だから、その関係ない星ちゃんがなんでそう思ったのか、その根幹が知りたいの」

 

「私はーーーーー」

 

 改めて問われるとどうなのだろう?このまま見過ごすのは私の気が済まないという自分本位な気持ちからのような気もすれば、少なからず関わりを持った知り合いの事が心配であるという気もする。

 

「星が三年生三人のことを想った時、どんな気持ちになったの?」

 

 三人でしっかり話して欲しい。お互いの認識を一致させて、そして

 

「その先に何を願ったの?」

 

 それでも尚、スクールアイドル活動をしないならば致し方ない。でも、願わくばスクールアイドルとして輝いて欲しい。そう、私はもっと早くからそれを幻視した場面があった。

 果南さんと初めて出会った日、私は彼女を見て素敵な女性だと思った。そして自然と私は果南さんに対しスクールアイドルをやったらもっと素敵なことだと思い、誘いを掛けていた。

 

「私は果南さんにスクールアイドルに戻って欲しい。いやーーーー」

 

 ダイヤさんだってそうだ。私の誘導に対して思わず矢澤にこの物真似をしてしまうくらいスクールアイドルが好きなのだ。自分でやったら良いではないかと少なからず思っていた。

 鞠莉学園長は得体の知れない胡散臭さを感じていたが、彼女の目的がもし活動していたスクールアイドルグループの再結成だというのなら、是非とも見せてもらいたい。本当にそれが可能なのかと。私が不可能と諦めたことを叶えられるのかと。

 

「私はみんなが仲良く手を取ってスクールアイドルをやっている姿を見たい」

 

「そっか。それが分かってるならなんの問題もないわね」

 

「もしもただの義務感とかならきっと三年生の三人は動かせない」

 

「でも、そこに願いかあるならその願いはきっと届く。堕天使の私とは違ってね」

 

 二人は、いや、きっとAqoursのみんなは本当に人のことを良く見てくれている。私のこの深層なんて自分でも気付いていないくらいだったのに、それこそが大切であると気付かせてくれた。

 

「善子ちゃんは私にとっては天使だよ」

 

「ばっ、畏まって言わないでよ、恥ずかしい」

 

「梨子先輩も心配お掛けしてすみません」

 

「同じ様なことを私もみんなにして貰ってるから」

 

 まるで私がチームの一員であるかのようにそう言ってくれる。それが嬉しくもあり、切なくもある。

 

「じゃあそろそろ最後の曲にしましょつか?」

 

「なら、私が選んでいいですか?」

 

 どうぞ、と子機を渡されると私は迷うことなく選曲する。

 このメンバーに共通するグループはきっと後にも先にもこのグループしかないだろう。

 最後に選んだのはμ’sの“それは僕たちの奇跡”。底抜けに希望に満ちた曲だ。

 この曲には不思議なエピソードが実はある。

 μ’s人気が高まり、第1回ラブライブを優勝したスクールアイドルA-RISEにラブライブ予選で勝った勢いも後押ししたからなのか、大晦日にTwitterで不思議な書き込みがあった。それはμ’sが紅白歌合戦に出てこの曲を披露するという内容で、まるで本当に出演しているかのような実況で盛り上がっていたのだ。

 もちろん現実にそんなことはないのだが、この謎の書き込みはμ’s七不思議の一つとして語られている。その他にも東京ドームなる架空のドームで単独のファイナルライブなんてのもあるのだから、如何にμ’sが愛されていたのかが分かる。

 

「今ここで出会えた奇跡」

 

「忘れないで僕たちの奇跡」

 

 本当に、そんな不思議だって飲み込むくらいにこの曲は爽快だ。

 


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