ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は2/24に更新予定。


第四十一話

 沼津駅に着く頃には日も傾き、初夏ならではの夕焼けの涼しさが心地良い。

 駅には気をきかせた先輩のクラスメートが迎えに来てくれていた。

 先輩のクラスメートの方々とは“夢で夜空を照らしたい”のスカイランタン製作で交流があるため、みんな知った顔だ。

 

「おかえり。どうだった東京は?」

 

 東京に行くのは特別なこと。こちらに来てそれを改めて思った。でなければ出発前にあんなに身構えたり、こうして迎えに来てくれたりはしなかっただろう。それに迎えに来てくれた先輩達は期待に目を輝かせてる。

 千歌先輩は当たり障りの無い返答をクラスメートにしている。その返答にイベントの順位はビリで得票数0であったことは含まれていない。それは千歌先輩自身まだ整理が付いていないからなのか、それとも悔しいと思っているからなのか?いずれにせよ気にしているからこそ話題にしなかったことは間違いが無い。

 

「もしかして本気でラブライブ決勝狙えちゃうかもってこと?」

 

 変に誤魔化したせいでそんな誤解を生んでしまう。

 

「いや、今はまだ壁は高いよ」

 

 誤解は嫌だ。私はその一心から即座に否定の言葉を口にしていた。

 誤魔化し、誤解、すれ違い。それは良い結果を生まないと体験しているからこそ反射的に出てしまった言葉だ。

 

「お帰りなさい」

 

 静まった空気を変えてくれたのは意外なことにダイヤさんだった。ダイヤさんもまた迎えに来てくれていたのだ。

 正直助かった、その一言に尽きる。Aqoursの一員でもない私が現状の実力差を偉そうに語れないし、順位とかも勝手に言いふらせない。だが、迎えに来てくれた先輩達は何があったのか聴きたいだろうし、色々と身動きが取れない状況だった。我ながらある一定の事となると感情的になってしまう。

 

「お姉ちゃん」

 

「よく頑張ったわね」

 

 ルビィちゃんは地元に帰ってきたこと、姉が迎えに来てくれたことで安心したのだろう、目に大粒の涙を浮かべてダイヤさんに駆け寄ると抱きついて泣きじゃくった。

 気丈に振る舞ってはいたが、やはりイベントの結果は堪えていたのだ。もはや私も千歌先輩も、迎えに来てくれた先輩達も何も言えなかった。

 

「みなさん疲れてるでしょうから、今日は解散しましょう」

 

 ダイヤさんは迎えに来ていた他の先輩達にそう声を掛けると、先輩達は気まずそうな顔で「また学校でね」と解散して行った。

 流石は生徒会長を務めているだけあり、スマートに場を収めた。

 

「貴方達は少し良いかしら?」

 

 迎えに来ていた先輩達が帰ってからダイヤさんは私達にそう提案すると、場所を変えようとばかりに歩き出した。

 私達はそれに黙って付いていった。

 ルビィちゃんが電車の中で言っていたことの真意が分かるかもしれない。そんな気持ちが私達にダイヤさんを追わせたのだ。

 数分歩くと駅前の雑居ビルを抜け、狩野川河川敷に出た。ここは市内でも川幅が広く、堤防の整備が行き届いているため、さながら屋外ステージの観客席のように階段状になっており座れるようになっている。

 夏祭りの準備が進み、電柱などに吊された提灯がほんのりと点灯しているのを見ると今日のイベントの結果も相まってノスタルジックな気分を覚える。

 

「さて、先ずは今日の話聴かせて貰えます?」

 

 ダイヤさんは話しが長くなるとばかりに整備された堤防の段に腰を下ろしてルビィちゃんをあやしながら問い掛けてきた。

 私達は掻い摘まんで今日の出来事を話すと、ダイヤさんは納得したような顔でこう言った。

 

「得票0、ですか」

 

「予想通りですか?」

 

「ルビィちゃんから聴いていたのですね。ええ、今のスクールアイドルの中では厳しいとは思っていました」

 

 ダイヤさんは語った、昨今のスクールアイドル事情を。

 A-RISEがスクールアイドルという存在の認知度を飛躍的に広め、μ’sがその広がった輪を確固たるものとした。そして当時とは比べものにならないほどのスクールアイドル人口が増え、そのグループ数は昨年の段階で最低7234にもなるという。これは昨年のラブライブにエントリーした数だから実際はもっと多いだろう。

 それだけの人数がしのぎを削りあえばどうなるのか自明だ。レベルの向上である。昨今では初代ラブライブ王者のA-RISE、二代目王者のμ’sレベルのグループがランキング上位に当たり前の様に居る時代となったのだ。

 また人口の増加により多様化も進んだ。歌って躍ることが主流であることには変わりないが、アイドルとは歌って躍ることだけにあらず。演奏、演劇、料理、コントと多岐に渡る活動が生まれた。

 

「貴方達は決して駄目だった訳ではないのです。スクールアイドルとして十分練習を積み、見てくれる人を楽しませるに足りるだけのパフォーマンスはしている。でも、それだけでは駄目なのです。もう、それだけでは」

 

 憧れを追い掛たい。自分達が楽しみたい。みんなを楽しませたい。その気持ちに嘘は無いし、それは伝わっているのだ。だが、今の目の肥えたお客様から“評価”を得ることを期待するならば、自分達の満足以上のスキルアップが求められるのだ。

 楽しませるとこと評価されることはイコールで結ばれない。それが昨今のスクールアイドルの環境なのだ。だから、

 

「そう。貴方達が誰にも支持されなかったのも、私達が歌えなかったのもしかたがないことなのです」

 

 とダイヤさんは述べた。何か過去にあるとは思っていた。ダイヤさんも鞠莉学園長も果南さんも。だが、それがこんなにも他人事とは思えない事だとは思っていなかった。

 私は二の句が継げなかった。みんなも同様だ。一様に驚いている。

 

「二年前、既に浦の星には統合になるかも、と噂がありましてね」

 

 ダイヤさん、鞠莉学園長、果南さんの三人はμ’sがそうであったように学校を救わんとスクールアイドル活動を始めた。三人は順当に人気を上げ、Aqours同様に東京のイベントに参加した。だが、そこで彼女達はパフォーマンスをできなかったのだという。

 まるでAqoursの辿った軌跡そのものだった。町のみんなから好意的に思われ、評価を上げ、そして壁にぶつかった。現在のダイヤさん達の状況を鑑みるに、それが直接の原因か分からないがスクールアイドルとしての活動は終わってしまったようだ。

 

「じゃあスクールアイドルに否定的な態度をしていたのは」

 

「こうなることを予想してたからです。私の話はこれで全部です」

 

 では、とダイヤさんは立ち上がるとルビィちゃんを連れずに河川敷を後にした。

 ダイヤさんは経験者であることは語ったが、どうしろとは言わなかった。それはAqoursが考えて決めることだとでも言うように。

 

「千歌ちゃん。やめる?やめる、スクールアイドル?」

 

 曜先輩の問いかけは季節外れの北風のように突き刺さった。


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