ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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すみません。仕事の影響で更新が遅れました。


第四十話

 私がみんなのところに戻った時には空気は既にお通夜モードになっていた。どうやら運営が渡し忘れていたものとは今回のイベントの順位と投票数の結果だったらしいのだが、Aqoursは30組中30位。つまり最下位だったのだ。その上投票数は0、誰一人としてAqoursを推す人はいなかったときた。流石に千歌先輩も何も言えない状態となっていた。

 そんな状態ではまともに東京観光なんてできないため、私は比較的ダメージの少ない善子ちゃんと共にみんなを誘導し、帰りの電車に乗せたのだ。

 

「ありがとう善子ちゃん。でも、善子ちゃんは大丈夫?」

 

「大丈夫な訳ないでしょ。頭の中とっちらかって、しっちゃかめっちゃかよ。でも、人に分かって貰えないなんて私にとってはいつもの事だから、みんなよりは耐性があるのーーーーって、こんなこと言わせるな!」

 

 善子ちゃんは元々堕天使キャラとして占いの動画を投稿していたから評価云々については他のメンバーよりも一日の長があるのだ。だからこそ最低限の平静さは保っていられたのだろう。

 

「善子ちゃんは強いね」

 

「あったりまえでしょ。っていうかヨハネよ」

 

「はいはい。ラブリーエンジェル ヨハネちゃん」

 

「堕天使だってば」

 

 くだらないことでも日常の感覚を取り戻せるように私達は冗談を交わしたが、他の面々は乗り気ではないようで、その会話は酷く空々しく響いた。

 

「ルビィが家を出る時にお姉ちゃんが言ってたんだ。気を強く持つのですよって。お姉ちゃんこうなることを予想してたのかな」

 

「ダイヤさんがそんなことを」

 

 ダイヤさんは隠そうとしても隠しきれていない愛すべきガチライバー。昨今のスクールアイドル事情を鑑みれば壁にぶち当たることは想定済みだったのだろう。それでもルビィちゃんを、Aqoursをイベントに参加させたのは信じているからだ。今日の結果を明日へ繋げられると。

 

「ホント人が良いね、ダイヤさんは」

 

「それ、お姉ちゃんに面と向かって言ったらそっぽ向かれるよ」

 

「ダイヤさんならありそうずら」

 

「花丸ちゃんはもうずら解禁なんだ」

 

「まる、その手にはもう乗らないず、乗らな、の」

 

「ごめんね。なんかごめんね」

 

 花丸ちゃんは噛んだことで口をパクパクとさせて赤面していた。

 花丸ちゃんもルビィちゃんもどうにか口を開くと少しずつだが口が回るようにはなったのはよかった。

 先輩達が落ち込んでいる今、盛り上げるのは後輩の役目だ。スクールアイドルはただのアイドルとは違い部活活動なのだ。その在り方は他の部活動と同様、先輩と後輩それぞれの立場で支え合っていくのだ。

 

「星ちゃん少し元気が出たみたいだね」

 

「私が?」

 

 花丸ちゃんの言葉に私は首を傾げた。そんな露骨に元気がない様子を私が見せていたのかと。

 

「星ちゃんが私達を気にするように私達だって星ちゃんのこと見てるんだよ」

 

「誘ってからずっと表情が固かったのは分かってたんだけど、その訳を聞けずにごめんね」

 

 確かに私はかなり身構えていた。だが、それを隠しきれていないとはイベントに集中して貰いたかったのに要らぬ心労を掛けてしまった。

 

「もしかして昨日Saint Snowと会った時に言ってた明日話すってのは」

 

「そにれついてはごめんなさい。今のみんなには話せない」

 

 私の突然の方向転換に黙っていないのが千歌先輩だった。

 

「でも星ちゃん、今日ライブ終わったらって」

 

「千歌先輩。私は私のことを今度はちゃんと話したいって思ってるんです。それで、みんなにもちゃんと話しを聴いて貰いたいとも思ってます。だから今はみんなが今回のイベントのことが整理着いてからしっかり聴いて欲しいんです」

 

「私は大丈夫だよ」

 

「って千歌先輩が言ってるんで、曜先輩、千歌先輩を任せます。私は自分の世界に篭もりますから」

 

「は?よ、ヨーソロー」

 

 曜先輩が敬礼して返事するのや千歌先輩が抗議したそうな顔をしているのを無視して私は鞄からウォークマンを取り出す。最近のハイレゾどころかSDのスロットすら付いていない型落ち品。だが、電池の息の長さやほぼ音楽専用機なこと、タッチ画面ではない物理キーの使い心地の良さから割と気に入って使い続けている。

 私はイヤホンを耳に差し込み音楽をスタートさせる。曲はμ’sの“愛してるばんざーい”だ。

 

「フンフフンフンフーン、フフフンフフンフンフーン」

 

 電車の中だが、何構うものか。ここには私達しかいないのだから。それにこれは私の鼻歌。人に聴かれたならば仕方ないが聴かせるための歌ではない。ないったらない。

 ほれ見ろ。みんな私の急な行為に理解が追い付いていない。でも構わない。これはただの鼻歌、音楽行為に当たらない手慰みなのだから。

 

「フフフンフフンフンフンフフン、フフフンフフフーン」

 

 この曲は大好きという芯があれば昨日を越え、今を走り、見えない明日も怖くない。そんなことを歌っている。非常にシンプルで、でも不思議と幼稚に聞こえない、そんな曲だ。

 みんなは私の突然の演奏だとかはもう慣れっこなのか、一瞬だけ驚いていたがすぐに平静さを取り戻した。中には私とハミングする人も居た。

 

「こういうの久し振りだね」

 

 ルビィちゃんが嬉しそうに私にそう言ったが私はイヤホンの音で聞こえないフリをした。

 

 


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