ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第三十八話

 東京スカイツリーから見える景色は思ったほどではないというのが正直な感想だ。夏が近づく昨今は大気に湿気が多く、遠くの景色が見えないのだ。まさか富士山すら見えないのは予想外だったが。きっと冬ならば関東近郊の景色が一望できてまた違った感想になるのだろう。もっともここから見える富士山など内浦から見える富士山に比べれば小さいだろうが。

 ルビィちゃんや花丸ちゃんが気の抜けた様子で景色を見ているが、正直傍から見ても景色を気にしている様子には見えなかった。ただただぼんやりと眺めるそれに意味はなさそうだ。

 理由は明白。スクールアイドルイベントでの敗北だ。今年のラブライブ開催が決定し、優勝を目指すと改めて決意した矢先にイベントでは入賞すらできなかったのだ。その上、全国レベルのスクールアイドルの実力をまざまざと見せつけられたのだからショックを受けてもしかたがない。

 正直全国レベルともなるとネットにアップされた動画では伝わらない魅力や迫力があるのだが、今日生ライブを見てそれを改めて強く感じた。もはや私がうんちくを語れるレベルを超えた世界だ。

 そんな世界の片鱗を別の形で知っている曜先輩や梨子先輩は深刻そうな顔で今日浮き彫りになった差を話していた。

 曜先輩は高飛び込みの選手として、梨子先輩はピアノの奏者として全国レベルを経験したことがある。だから今Aqoursとして目の前の壁の高さが楽観できないことを知っているのだ。

 各々思うところはあるだろうし凹んでもいる。それを上手く自分達で整理できなければ次はないだろう。もし次に進めなくなったら、それは寂しいことだと私は思ったが、頑張った結果の挫折ならば致し方ないとも思う。頑張ることすら叶わないよりはマシであろうとどこか冷めた自分がいることに驚いた。

 

「おまたせ。わ、何これ凄い。キラキラしてる」

 

 そして私が何よりも驚いたことが千歌先輩だ。人数分のアイスを持ってはしゃぐ姿は傍から見れば元気一杯な様子であるが、それなりに付き合いのある私達からすれば空元気であることがバレバレだ。

 千歌先輩がここまで動揺するとは私をはじめ誰も想像していなかった。だって彼女はこのイベントに参加することを二つ返事で決めたというのだから。

 いつだって彼女は失敗を恐れずに突き進んでいた。だから失敗をしたとしても前向きに捉えるとばかり思っていたのだ。

 幼馴染みだという曜先輩が心配げに千歌先輩に声を掛けているが、今日のイベントの結果を気にしていないかのような素振りをしているのがかえって痛々しかった。

 

「全力で頑張ったんだよ。私ね、今日のライブは今まで歌ってきた中で出来は一番良かったって思った。声も出てたしミスも一番少なかったし。それに周りもみんなラブライブ本戦に出場しているような人達でしょ。入賞できなくてあたりまえだよ」

 

 本当にそうなのか?頑張ったからそれでいいと満足しているのか?私はそんなのは嘘だと思う。幼年期はすでに通過し、ただ楽しいだけでは満足できなくなっている筈だ。でなければ千歌先輩がこんなに悲しそうに笑う筈が無い。

 

「だけど、ラブライブの決勝にでようと思ったら今日出ていた人達くらい上手くないといけないってことでしょ。私ね、Saint Snow見た時思ったの、これがトップレベルのスクールアイドルなんだって。このくらい出来なきゃ駄目なんだって。なのに入賞すらしていなかった。あの人たちのレベルでも無理なんだって」

 

 この言葉は非常に重い現実だ。実際に間近に見てトップレベルと感じたあの二人組でさえ入賞すらしていない。それだけ現在のスクールアイドルはレベルが高いのだ。もちろんAqoursのパフォーマンスを見て下手と言う人は居ないだろう。だが、他と比較をしてしまうとどうしてもどちらが優秀か問われたら負けてしまうのだ。

 だからこれからなのだ。ゼロから初めてようやく入り口が見える所まで来たのだ。故に曜先輩は問うのだ。これからどのようにしていくのかと。

 曜先輩は本当に千歌先輩のことを信じているのだろう。でなければこんなにキツい事を言えない。

 

「今はそんな事考えてもしょうがないよ、それよりさ、折角の東京だしみんなで楽しもうよ」

 

 だが、千歌先輩の回答は曜先輩の期待には応えなかった。

 

「みなさん今日はもう帰りましょう」

 

 頑張った結果の挫折なら仕方ない。そう思っている筈なのに私は何故こんなにも腹立たしそうな声を出しているのだろう?

 

「みんな疲れてるんです。だから一度帰って、しっかり整理して、それでまた話しましょうよ」

 

 過干渉はしない。そう決めているのに何故こんなに必死になって繋ぎ止めようとしているのだろう?

 

「星ちゃん」

 

「ごめんなさい。勝手なこと言いました」

 

「ううん。ん?」

 

 花丸ちゃんが声を掛けてくれたおかげで我に返ったが変な空気になってしまった。だが、都合良く鳴ったスマホへの着信音がそれを有耶無耶にした。

 だが千歌先輩のスマホに掛かってきた電話が更に私達をどん底に導くことだとは思いも寄らなかった。

 


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