ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
これまでのAqoursの活動の中でも今回が一番大掛かりな内容となる。また、身内の人間だけで無く、近隣住人を巻き込むこととなったため、調整事項が多数あるのだ。だが、それら関係各所への連携は鞠莉学園長が引き受けたため、実質Aqoursが行うことは陣頭指揮と進捗状況の把握となった。勿論、先陣を切って物資の調達や備品の整備はしているが、本当にみんな協力的で少ない時間ながら楽曲の製作に割く時間が融通できたのは大きい。
個人的には鞠莉学園長のことはかなり警戒しているが、良い仕事をしていると言わざるをえない。
「それにしてもスカイランタンとは、またどえらいことを考えますね」
スカイランタン、または天灯ともいう。空飛ぶ提灯的なものをイメージしてもらえばわかりやすかろう。近年では映画のラプンツェルで劇中に出て好評だったのが記憶に新しい。
やることなすことが街を上げての祭りと同規模になっているがその案が通り、しかもみんなから同意を得られるというのだからこの街は本当に結束が固い。
「折角みんなが協力的してくれるっていうから、みんなが協力したことがどんな形であれPVに映るようにしたいなって思ったんだ」
「コストも部費でなんとかなるみたいだったしね」
現在、私はAqoursの指揮の下、放課後の時間を利用してクラスのみんなとせっせとスカイランタンを製作している。
作ったことのある人なんて居らず、最初こそみんな戸惑いながらだったが、段々とコツを掴んできたのか雑談しながらでも作る程度の余裕が出てきた。
「楽曲の方はどうなんですか?」
「もう出来たよ。今は衣装作りしてるんだけど、星ちゃんもいる?」
「ノーセンキューです」
「いけずー」
なんて千歌先輩といつも通りのやりとりをしている。なんだかことあるごとに誘われてる気がする。
確かにこないだのコラボ企画では同じ衣装を身に纏った。だが、それはそれだ。夢はいつまでもは続かない、一瞬だからこそ輝きを放つのだ。もっとも、彼女達が太陽だとするのならば私など二等星が関の山だが。
「私に掛けるお金なんてないでしょうに。幾ら思ったよりも安く済んだからって、それなりにはコストも掛かってますよね」
「う」
「あ、今の千歌先輩、弓で射貫かれたみたいですね」
ラブアローシュート的なあれだ。分かる人には分かるネタ。μ’sが青色担当、園田海未の持ちネタだ。
「千歌ちゃん手が止まってる」
曜先輩からの指摘に慌てて作業に打ち込む千歌先輩に反し、私は作業の手を休めたりはしていない。これでも器用を自負しているのだ。
「あ、星。そこ違う」
「ぴぎぃっ!」
と思った側から善子ちゃんからご指摘をいただき、思わず変なリアクションを取ってしまった。
心なしかルビィちゃんが私のことをジト目で見て否定の言葉を口にするが
「私そんな変な声出してないです」
「自覚あるじゃん」
「ぴぎぃっ!」
そんな訳は無かった。私も善子ちゃんも心を一つに同じ突っ込み。
このリアクションは正直あざとすぎて同性から嫌われると思うが、ここにはルビィちゃんの事を知らない人は居ない。ルビィちゃんのキャラクターを知っている人ならば、あざとすぎるリアクションに不快感を抱く人は居ないだろう。
「もう、みんな集中するずら」
そして見かねた花丸ちゃんがみんなを諫めるのだった。
なんだか作業をしているのはしているが気持ち的には久し振りにのんびりとした日だ。
思えばこっちに引っ越してからは予想以上に充実した日を送っていた。
親の転勤に巻き込まれて引っ越してきた頃はただ毎日をぼんやりと過ごしていた。引っ越す前に父親と戦争したためか入学する前は本当に燃え尽きていた。音楽はやらないと言いつつ、音楽がなかれば私はきっと腐りきっていただろう。
浦の星女学院に入学してから生活が一変した。その変化の中心にはいつもスクールアイドル部がいた。
まさか沼津の内浦にスクールアイドルをやろうなんて人がいるなんて誰が考えるだろう。音楽活動なんて出来る環境でもないと決めつけ、私自身活動しないという決意はその予想外のことでかなり揺らいだ。悩んだし、でも彼女達と一緒にいることは楽しかった。
できないと諦めない姿。不可能を可能とする行動力。みんなを巻き込む牽引力。それに私は引き摺られながらも付いていった。そしたら本当に小さいけれど、彼女達は私が願った場所に連れて行ってくれた。キラキラとした夢のような時間だった。
私が音楽を続けていたらきっとハーモニカでμ’sの“KiRa-KiRa Sensation!”を演奏していただろう。
ここに引っ越して来たことに後悔はある。その評価を私はまだ覆すことは出来ないでいる。だけど確実に言えることはある。私はこの街やみんなのことが好きだってことを。
「ねえ、もし差し支えなければだけど、手伝ってくれたみんなにさ、ランタンに一言ずつ想いを書いてもらわない?」
私がなんとなしに言った言葉にみんなは目を丸くした。あ、これ滑った時と同じ空気だ、と思ったがそれは違うと直ぐに分かった。ある意味で滑った時よりもやらかしてしまった。
「星ちゃんが自分から何かを提案するのって珍しいね」
ルビィちゃんに言われて私も自分の失言に気が付いた。
このPV撮影には私はあくまでも手伝いで参加しているのだ。その立場も弁えずその方向性について口出しするなど烏滸がましい行為だ。私はまた自分で線引きした筈のラインを越えてしまったのだ。
「今のは忘れてください。単なる独り言です」
「いや、それいいと思うよ」
「うん。私もそう思う」
私のささやかな否定はもはや効かない。取り消しはできなかった。曜先輩も千歌先輩も乗り気になってしまった以上、これは決定事項だ。だが何故だろう。後悔とは裏腹に高揚する思いがあるのは。凄く楽しみに思ってしまうのは。
結局私の案は採用されることとなり、私は笑顔でみんなと一緒に準備した。私自身の情けなくて泣きそうな心を置き去りにして。