ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
今のところ調子よく執筆が進んでますので。
そんなこんなで昼休みは続く。私は白米と焼きそばパンを交互に食べながら先輩方と雑談を続けた。
「黒松さんも引っ越して来たんですね。埼玉からはいつ頃?」
「私は三月になってからですね。黒松さん“も”ってことは、桜内先輩もここ出身じゃないんですね」
「ええ。私は丁度貴方達が入学した日に東京からこっちにね。もう引っ越しはいいかな、結構体力使うし」
「無駄に気合いが入るのと、当たり前ですけど忙しいですからね。因みに桜内先輩はどこの学校に通ってたんですか?ライフワークって言うくらいだからやっぱピアノが有名なとこですか?」
「ううん。確かに音楽に力は注いでいたけど、専門の学校じゃないの」
そこで高海先輩がずいっ、と身を乗り出すと目を輝かせて憧れが抑えきれない口調でこう言った。
「音ノ木坂学院だよ音ノ木坂学院。
「ーーーーーへえ。私も良く知ってますよ」
音ノ木坂学院は近年の高校知名度でいえば最メジャーな学校だ。
理由としては高海先輩が度々口にするμ’sだ。
スクールアイドルグループμ’sはその圧倒的な行動力とカリスマ性でもってスクールアイドルというコンテンツに灯り始めていた火を一気に広げた。その際の活躍で経営難に陥っていた母校である音ノ木坂学院の入学希望者が増えて晴れて母校を救ったといわれているほどだ。
μ’sが凄いのは結果的にそうなったのではなく、元々の活動の動機が母校救済だったからだ。更に言えばスクールアイドルの全国大会とも言えるラブライブというイベントで優勝、そしてスクールアイドルという文化発信のためNYでライブをしたというのだから今では伝説のスクールアイドルとして謳われている。
だからスクールアイドルに関心のある学生は音ノ木坂学院に憧れを持っている者も多い。
“音ノ木坂に入って音楽やろう。”
「っ!・・・・・・た、高海先輩は本当にμ’sが好きなんですね」
不意に蘇る罪悪感に思わず私は音ノ木坂学院からそれとなく話題を逸らした。
「こないだ桜内さんにも同じこと言われた」
えへへ、と高海先輩は語る。それはもう子供のように純真でキラキラと目を輝かせながら。
μ’sは普通の女子高生が協力することで人を笑顔にする輝きを生み出せる、そう思わせる力があるのだと高海先輩は言う。自分達が楽しみ、人を楽しませ、その笑顔の輪が人に広がっていく。それが凄いのだと。
ああ、その自分の素直な好きという気持ちを真っ直ぐに突き付けられると、益々私の中の思い出が蘇っていく。引っ越す前のあの日々が。
「だから一緒にスクールアイドルやらない?桜内さん、黒松ちゃん」
高海先輩の自分の好きを相手に伝わるように喋れるのはとても素敵な才能だと思うが、今の私にはあまりにも毒である。だから私はこう答えるのだ。
「「やりません」」
あ、桜内先輩とシンクロした。
放課後、私はルビィちゃんとクラスメートの国木田花丸ちゃんと共に沼津の都心部へと向かうこととなった。絶賛不登校をかましてる堕天使ヨハネちゃんこと津島善子さんにノートとプリントを届けに行くのだ。とは言っても、直接やりとりするのは津島さんの幼馴染みの花丸ちゃんで私とルビィちゃんは単なるお供だ。つまり助さん格さんである。
人生楽ありゃ苦もあるさ。なるほど、この精神こそ今の津島さんには必要なのかもしれない。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
ただでさえ小柄な花丸ちゃんは遠慮がちに詫びの言葉を口にするものだから余計に小さく感じてしまう。まったくもって卑怯というものだ。
栗色の髪の毛を自然に肩まで流しながら、若干の癖っ毛により毛先にウェーブが掛かっている様はどこからどう見ても深窓の美少女。そんな花丸ちゃんが伏し目がちに言うのだ。例え同性でも断る方が罪だ。
これだから顔の良い女は、と決まり文句のように私は内心で愚痴りながらも、実は大して気にしていなかったりする。沼津の都心部に同級生と行くのは初めてだし、花丸ちゃんは物知りで話していて面白いからだ。
「気にしてないズラ」
「うぅ、星ちゃん意地悪ずら」
何より面白いのが、花丸ちゃんは油断すると祖父母譲りの方言が出るようで語尾にズラ、と付けたり一人称がオラになったりすることズラ。
「ブラック松降臨」
こら、 ぼそりと言うなルビィちゃん。
そんなこんなで私達はバスに乗り込むと、そこで我らがスクールアイドルこと高海先輩と渡辺先輩に乗り合わせた。
「あ、花丸ちゃん、ルビィちゃん、黒松ちゃん」
やっほー、と手を振る高海先輩に会釈し、先輩方がいる一番後ろの広めの席に相席させて頂いた。
因みに高海先輩が花丸ちゃんを知っているのもルビィちゃん同様スクールアイドルにスカウトしているからだ。
「皆でお出かけ?」
「沼津まで届け物を」
「届け物?」
「はい。入学式の日に桜の木に登ってた子覚えてます?」
花丸ちゃんの話しぶりからするとあの堕天使もまた高海先輩と面識があるようだ。と言うか高海先輩は手当たり次第声を掛けているようだ。なんと見境のない。
「あの子凄いんですよ。クラスの自己紹介の時」
「ブラック松さんストップ。それ以上傷痕を広げたら駄目」
確かに厨二病疾患時の発言はボディーブローのように後からジワジワと効いてくるものがある。危うく私は津島さんの知らぬところで別学年の人にまで黒歴史を広めるところだった。ありがとうルビィちゃん。君の純真な心が私の無自覚な悪意を食い止めてくれたよ。
「~~~~~~と言うことがありまして」
「・・・・・・花丸ちゃん全部喋ってるズラ」
「ずらっ!?」
花丸ちゃんや。今更口を押さえても後のフェスティバルですよ。
ま、本人にはバレないよね。バレンヌ逃亡事件ぐらいバレないよね。あれ、これってバレたんだっけ?
「じゃあ私はここで」
そうこう姦しく駄弁っているとフェリー乗り場近くのバス停で高海先輩は降りていった。
窓から高海先輩を見送ると、ふと見覚えのあるサラサラヘアーが海辺に見えた。
「渡辺先輩、あれって桜内先輩じゃないですか?」
「ホントだ」
「どうですか?桜内先輩はスクールアイドルやってくれそうですか?」
「うーん、今はちょっと難しいかな」
「今は?」
「うん。だって誘ってるのが千歌ちゃんだからね」
時間の問題だよ、と渡辺先輩は当たり前のように言った。
「随分と信頼してますね」
「幼馴染みだから」
渡辺先輩は照れたようにハニカんだ。
どうにも幼稚園時代からの親友であるらしく、田舎あるあるだけれど、小中高とずっと一緒に歳を重ねてきたらしい。
私には渡辺先輩が高海先輩に向ける信頼が眩しい。それはかつて私が持っていたもので、私が置き去りにしたものだからだ。
「じゃあ私もここで」
渡辺先輩も途中下車すると残ったのは私達1年生だけもなった。
「ねえ花丸ちゃん」
「どうしたの?」
「津島さんに待ってるって、伝えて貰っていい?」
私はもう人がすれ違うのを見たくない。だから津島さんには是非とも登校して欲しい。我ながら相手を想っての行動ではないのが残念なところだが、こればっかりは性分だ。
花丸ちゃんは私の言葉に柔和に微笑みでもって了解ずらと返答してくれた。