ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第二十八話

 翌日聴いた話ではAqoursの面々は鬼の強行軍を実行し何とか学校のPR動画を撮り終えたとのこと。

 昼休みにその動画を見せて貰ったのだが、率直な感想を述べるならば、全くと言っていいほど良さが伝わってこなかった。

 思い付く限り学校の良さや地域の良さを詰め込んでいた。だが、他に良いところが思い付かなかった私が言うのもなんだが、そこに映されていたのはひどく薄っぺらく感じてしまった。例えるなら地域の観光マップを無理矢理作ったような印象だ。学校のPRの筈なのにそもそも受験生宛に作られていないとしか思えない出来だ。

 ネットにアップする前に承認を受ける必要があるとのことで放課後となった現在、みんなは学園長室に乗り込んでいるところだ。

 私はと言えば図書委員の花丸ちゃんの代わりに図書室で受付嬢をしている。とはいえ、今時放課後に図書室に来るような奇特な人はいない。欲しい本があれば買うなり品揃えのいい市立の図書館に行くだろうから。だから暇をもてあました私は本を読む。

 今日読んでいるのは蝉しぐれ。藤沢周平の時代劇ものだ。国語の教科書に一部載ったりもしている。

 この物語を私は時代劇ものでありながら恋愛ものとして捉えている。主人公の一途な義理堅さ。幼少期の絆を守るため奮闘する様が非常に格好いいのだ。例え手の届かないところに行ってしまった相手でも、昔の輝かしかった思い出は色あせない。胸に宿る想いは偽物では無い。そんな心の強さに私は夢中になってしまう。それと同時に後悔を自分なりに決着をつけていることが尊敬できる。今の自分にはない強さだ。

 

「お待たせ星ちゃん。繋いでくれてありがとう」

 

 暫く読書に没頭していると花丸ちゃんと他のメンバーも図書室にやって来た。

 誰も来ない図書室とは言えここにゾロゾロと連れ立って来るのはどうなのだろうか。

 

「どうでした?」

 

「このテイタラクデスか?なんて言われたよ」

 

 エセ外国人口調の鞠莉学園長を真似る善子ちゃんに噴きそうになりながら、鞠莉学園長なら言いそうだなと思ったし、その台詞自体にも納得した。言われてもしょうがない。あのPR動画は出来が悪い。

 

「努力の量と結果は比例しません。大切なのはこのタウンやスクールの魅力をちゃんと理解してるかデスってさ」

 

「言い返せなかった。でもこの場所を無くしちゃいけないって、確かに思ってるんだ」

 

 きっとそう思う根幹の部分こそに魅力の秘密がある。だから千歌先輩達も喉元まで出かかってる筈。この分ならふとした切っ掛けさえあれば何とかなりそうなものだ。

 

「また撮り直しになりそうですね」

 

「ごめんね、星ちゃん。手伝ってくれたのに」

 

「いいよ。はじめから難しいってのは分かってたし」

 

 謝るルビィちゃんに断りを入れ、私は図書室の鍵を花丸ちゃんに渡すと受付の椅子から立ち上がる。

 図書委員の仕事はあくまで繋ぎ。それが終われば私が放課後の学校に残る理由はもう無い。

 

「今日はもう帰るね」

 

「星ちゃんもう帰っちゃうの?」

 

「うん。今日は流石に撮影はしないですよね?また撮る時には手伝うから声かけてください」

 

「ちょっと待って星ちゃん。明日の朝は海に集合で」

 

「急に何です?まさか早朝の海でも撮影するんですか?」

 

「海開きだよ」

 

「正確には海開きの前に浜辺の清掃があるんだよ」

 

 言葉の足りない千歌先輩を曜先輩がフォローする。

 なるほど、海の見える街特有の行事らしい。新参者で海無し県出身の私には分からない文化だ。

 

「分かりました。後で時間と集合場所聴きますので」

 

 それでは、と私はみんなに手を振って図書室を後にした。

 街や学校の魅力。改めて考えると私はそもそもこの場所に魅力を感じているのか?好きなのだろうか?

 親の都合で引っ越すこととなり、夢を諦めてきたこの場所を私はどう思っているのだろう?

 毎朝の登校で坂を登らずに済むだろう。下校時には沼津の繁華街を冷やかしに行けるし、遊ぶ場所だってここよりも一杯あるだろう。

 統廃合ならばみんなと離れ離れになることもないだろうし、あれ?あまりデメリットがない?

 

「ダイヤ。逃げていても、何も代わりはしないよ?進むしか無い。そう思わない?」

 

 一階に着き、下駄箱に向かっていた私は体育館からの渡り廊下で話すダイヤさんと鞠莉学園長を見つけて思わず隠れてしまった。

 この遭遇は完全に偶然の産物で私に何一つ非はないのだが、鞠莉学園長の口調がエセ外国人じゃないため真剣な話しをしていると察してしまったのだ。

 

「逃げてる訳ではありませんわ。あの時だって」

 

「ダイヤ?」

 

 だが、私の予想とは裏腹に話しは長くは続かずダイヤさんは鞠莉学園長に一言だけ伝えて立ち去ってしまった。

 これはそう、言葉が足りないやつだ。何を伝えたいのかまでは私には分からないが、それだけは確実に分かった。そのもどかしさが。

 

「鞠莉学園長」

 

「あら?盗み聞き?詮索しないように言ってきたのは誰でしたっけ?」

 

「詮索するつもりはないですし、今回のは偶、いえ、堂々回りになるので止めましょう。兎に角、傍から見て今のやりとりは回りくどいと思いますよ。それじゃあ伝わらない」

 

「それは勘?それとも経験則かしら?」

 

 厳密には経験則ではない。私は伝えようとはしなかったのだから。相手に伝わらないように、話題が出ないように遠回りして遠回りして、そうやって私は嘘を吐かなくて言いように嘘を吐き続けてきたのだ。だから、本当は鞠莉学園長に偉そうに説教垂れたり、アドバイスなど出来ない。だけど、放ってなどおけない。例え苦手な相手のことであろうとだ。辿る道が違うとしても行き着く先が私のようになってしまうのならばそれを私は許容出来ない。

 

「何があったのか知りませんし、何の話しをしているのか分かりません。でも今のやりとりも、こないだの時も、お二人は話しをしているようで全然話せてない。何を格好付けてるのか知らないですけどそう感じるんですよ。偉そうに何言ってんだと思うかもしれませんけど、感じたことは嘘ではありませんから」

 

 なんだが、言っていて自分自身が不愉快になってくる。偉そうに語る自分自身が。

 私は頭を下げるとそそくさと下駄箱に向かった。

 

「そう出来れば一番いいのにね、お互い」

 

 すれ違いざま、鞠莉学園長の言葉が私の胸に響いた。その後悔、苦悩、不安、一瞬だけ感じたそれらの感情と共に含まれていた共感。それが私を混乱させる。一体彼女は、いやきっとダイヤさんも果南さんもだ。彼女達に何があったのだろうか。

 私は聴きたい気持ちを必死に抑えて下駄箱に向かった。

 安易な気持ちでは向き合えない。だって私ならそうして欲しくないから。


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