ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第二十四話

 週が明けると善子ちゃんは元気に学校に登校していた。堕天使キャラについては辞めないまでもTPOを弁えメリハリを付けることで継続するらしく、クラスメートとの会話では気を張って堕天使が出ないようにしているようだ。好きなところはそのままに自分なりに改善が必要だと思うところを調整する。それは凄く前向きな姿勢だと思うし、クラスメートも好意的に善子ちゃんを見ているようだ。因みにこないだの一件以来、私は津島さんのこともまた善子ちゃんと呼ぶようになった。

 

「暫くはこれまでの曲を6人バージョンに調整する練習だね」

 

「うん。また新しくPVの撮影する時は手伝ってね」

 

「了解」

 

 そんな様子を平和だななんてを思いながら私は花丸ちゃんと雑談をしていた。

 思えばここ最近はよく動いていた。Aqoursのライブの手伝ったり、ルビィと花丸ちゃんがスクールアイドル部に入るように手伝ったり、学園長からのお遣いをしたり、善子ちゃんに堕天使を卒業しないように手伝ったりと人の手伝いばっかりしている気がする。というよりAqoursの事ばかりな気がする。

 

「星ちゃんは練習に参加してみないの?」

 

「私が?冗談。みんなと釣り合わないって」

 

「私、スクールアイドルをやるって決めたとき言われたんだ、自分がやりたいかどうかなんだって。だから、星ちゃんはどう思っているのスクールアイドルのこと」

 

 今日の花丸ちゃんはやけに答えにくい質問をしてくる。それも何か確信を持ったような目で私を見ているから下手な回答がしにくい。

 花丸ちゃんは人のことを本当によく見ている。だからこそ人見知りで、遠慮がちなルビィちゃんと親友になり、スクールアイドルに導けたわけだ。

 その観察眼、洞察力、空気を読む力の前に私はどの様に映っているのだろう?

 

「ほら、スポーツなんかだと好きにも二種類あるでしょ?やるのが好きなのと見るのが好きなの。私は後者なんだよ」

 

「あんなに沢山楽器持ってて、演奏もしてるのに?」

 

「語弊があったね。やるのが好きの中でもジャンルが違うってのが正しかったかな。野球に例えるならピッチャーよりバッターが好きみたいな」

 

 花丸ちゃんはイマイチ納得のいっていなさそうな顔をするが、話自体は“一般的にそういうこともある”流れだったためそれ以上深くは聞かれなかった。

 花丸ちゃんはやはり優しい。きっと私がスクールアイドル活動になにがしかの想いがあることに気付いているかもしれない。だけど、私はそれを花丸ちゃん、いや、他のみんなにも言うことなど出来ない。それを言ってしまえば私が只の裏切り者であることがばれてしまうから。

 

「花丸ちゃん達のこと、応援してるから」

 

「うん」

 

 “また黙ってるの”

 

 不意に心に響く言葉に苦い気持ちが胸焼けのように襲う。これは違う。彼女はこんな言葉を言ったことがない。これは単なる私の罪悪感が作り出した幻聴だ。

 

「何で星ちゃんは時々、いや、なんでもない」

 

 花丸ちゃんは少しだけ悲しそうに言葉を切ったのが印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、私は新しいレパートリーを増やそうと耳コピした曲をハーモニカに落とし込もうと練習していると、何時ものようにAqoursの面々もまたダンスの練習にやってきた。今日からは善子ちゃんも参加で六人だ。

 以前までは5人しかいなかったから二人でペアを組む柔軟運動などは私が手伝ったりしていたが、今日からは私の出番はない。

 というか、よくよく考えると私は何でこんなに馴染んでいるのだろうか。スクールアイドル部に入った訳でも無いのにさも居ることが自然であるような錯覚をいつからしていたのか?

 

「星ちゃんいい?ちょっと曲のアレンジで参考にしたいんだけど」

 

 梨子先輩も作曲そのものや使う楽器の決定などは私に話を振らないが、相談をよく持ちかけてくるの。多種の楽器を扱う強みが私にあるのも事実だが複雑な気持ちだ。これではまるで私もスクールアイドル活動をしているみたいではないか。

 

「私で良ければ」

 

 そう思ってもそれを拒絶できない私は自身の弱さに反吐が出そうだった。

 

「あ、いたいた」

 

 そんな風に悶々とする私を嘲笑うかのように鞠莉学園長が屋上に訪れる。

 

「鞠莉さんどうしたんですか?」

 

 そんな鞠莉学園長に対し千歌先輩は無警戒に質問を投げかけた。駄目ですよ、千歌先輩。その人は腹に何か黒い思惑を抱えてる策略家です。ファーストライブのこともう忘れたんですか?

 

「貴方達にライブして貰うことになったから」

 

「ライブ?」

 

 その言葉を聞いて千歌先輩は途端に胡散臭いものを見るような目つきになった。私の与り知らぬところで何か騙されたのだろうか?

 

「そう、ライブ。とってもシャイニーなステージがあるの」

 

「その手にはもう乗りませんよ」

 

 梨子先輩にまでそんなことを言われてしまうあたり鞠莉学園長の信用は低そうだ。

 

「こ・ん・ど・はホント。幼稚園のお遊戯会にゲストとして参加してってオファーが来てるの」

 

「それって私達のファーストライブを見て?」

 

「そういうこと」

 

 凄いよ、と曜先輩は声に出して喜んだ。初期メンバーの三人の活動が認められたからこそ誘いを受けたのだ。嬉しくない筈がないだろう。

 

「おめでとうございます。頑張ってください」

 

 幼稚園の催しだから規模は小さいし保安上の問題でお客様をおいそれと呼ぶことも出来ないだろう。だが、小さな前進であることは間違いない。

 

「ノーノー。黒松ちゃんもね」

 

「は?」

 

「ちょ、星ちゃん声が怖い」

 

 ルビィちゃんが本気で怖がってるが、それも致し方ない。だって勝手が過ぎる。私はそんなことに同意したつもりはないし、それはやってはいけない、譲れない一線だ。

 

「貴方の近所のお母さんがAqoursと一緒にどうって誘ってくれたの。スクールアイドル部とは別枠。それならいいんでしょ?」

 

 なんだか鞠莉学園長に見透かされているようで非常に癪である。しかもこのアマはドヤ顔して言うもんだからフラストレーションも溜まるものだ。

 

「私の忠告、忘れた訳ではないんですよね?」

 

「さあ、どうかしら」

 

 私の過去を掘り起こさない。そう警告したのだがこの人は笑顔で平然ととぼけるものだから真偽は分からない。

 

「私は遠慮します」

 

「えー、星ちゃんやろうよ。絶対楽しいよ」

 

「それに折角誘ってくれたご近所さんの好意を無駄にするの?」

 

 鞠莉学園長がわざわざ屋上に来た理由が分かった。千歌先輩を自分の味方に付けるためだ。千歌先輩は裏表などなくホントに私も一緒に参加して欲しいと思っているから非常に断り辛い。

 援護を得て鞠莉学園長が益々調子に乗ってるのが余計に腹立たしい。

 

「星ちゃん。私達スクールアイドルだよ」

 

「私は違います」

 

「そうかもだけど、でも音楽が好きなんでしょ?演奏するのも、人に聴いて貰うのも好きなんでしょ」

 

 迂闊だった。中途半端に引き摺っているせいで私が音楽を好きなことが知れ渡ってしまった。仲間内だけならばともかく近所の人やファーストライブに来た人にも一部印象を残してしまった。だからこれは自分の招いた事態でもある。

 

「自分の責任は自分で果たさないと」

 

「責任とかそんな難しいことはよく分からないけど、私は星ちゃんと一緒に出たい。みんなもそうでしょ」

 

「うん。絶対にいいステージになるよ」

 

 みんなは私が音楽を好きだということしか知らない。私が私のことを話していないから。だからみんなは期待を込めた視線を向ける。

 これもまた私が蒔いた種だ。どうやら私に逃げ道はないらしい。ご丁寧にも抜け道は鞠莉学園長が用意したものがあるが。

 

「分かりました。行きますよ。あくまでもAqoursはAqours、私は私としてですが」

 

「OK。なら詳細はこのレジメ読んで」

 

 バアーイ、なんて陽気な声を出して屋上を後にした。私はその背中を蹴りたいと思う気持ちをぐっと堪えた。

 


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