ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第二百四話

 特設ステージの前には多くの人がいた。見知った顔も、見知らぬ顔も、鞠莉さんのお母さんもだ。それに果南さん、ダイヤさん、鞠莉さんも。沢山、沢山いた。

 

「素敵なステージでしたわ」

 

 満足そうに声を掛けてくれたのはダイヤさんだ。

 スクールアイドル大好き星人のダイヤさんからお墨付きが貰えたのだから自信をもっていいかもしれないけれど、ひとつ訂正しなければならない。

 

「ステージじゃなくてテストですよ」

 

「そ。私達のステージは今、この時、この場所ではないので」

 

 私に続けた穹がそう言うとダイヤさんは驚いたように目を見開いた。それはきっと不確定な未来を語る穹の言葉に誇張とか虚飾とかが無かったからだろう。

 本気で私達はまたどこかでステージに立つと、そう信じて実現しようとしているのが伝わったのだろう。

 

「答えを出せたのですね、2人で」

 

「So happy!なら、2人のステージ楽しみにしてるね」

 

「ちゃんと連絡してよね。世界の何処にいても駆け付けるから」

 

「果南さんの場合、本当に走って、泳いで来そうで怖いですね」

 

 3人はそれ以上のことは聴かなかった。

 私達2人が決めたことなら心配はないと認めて貰っているようでそれが少し嬉しかった。

 私はさりげなく周囲を見回すけれども見える範囲に父親の姿は無かった。しょうがない。唐突に過ぎたのだから。

 ふと、着信を知らせるスマホの震えに気付いて取り出して見ると、ちょうど父親からの連絡だった。

 やはりというか、仕事だということなのだが、気になってテレビをつけていたらローカル放送にここの様子が映っていたらしい。

 今度はちゃんと前もって予定を知らせなさいと小言が書かれていたけれど、その小言が今では少し嬉しかった。

 

「そろそろAqoursのステージにconcentrationしよ。MCも終わるみたいだし」

 

 鞠莉さんの言うようにそれぞれのメンバー紹介と今回のライブ、いや、お祭りについての感謝と諸注意が終り、いよいよライブが始まるようだ。

 ステージに立つ6人にはあの部活説明会の時のような不安そうな表情は無かった。

 気負い過ぎたり、逆にリラックスし過ぎたりしない、ライブに望む際の自然体。それは9人でステージに立っていた頃と通じるものがあった。

 

「素敵な衣装だね」

 

「はい。きっと果南さん達にも似合ってると思います」

 

 白地の中に仄かに各メンバーカラーの花が描かれており、それを見ているとみんながここにいると、そう言っているような気持ちになった。

 レース生地のあしらわれた一繋ぎの衣装は柔らかな印象で、背負う片翼と相まって天使のような、そんな可憐さがあった。

 ステージに立つみんながその翼に込めた想いを察するならば、今私達の横にいる3人が衣装を着たのなら両翼が生えているのだろうと、容易に想像出来る。それはきっと私だけじゃないだろう。

 ステージの前に詰めかけた人の中にはすでに涙目になっている人もちらほらいて、たぶん同じように想像したのだろうと思う。

 

「それでは聴いてください」

 

 響くのはどこか懐かしい昭和末期から平成初期の頃に流行ったギターサウンド。

 とても耳馴染みが良くて、一歩一歩ゆっくりと進むような、そんな前向きなサウンドだ。

 

“ひとつひとつの思い出たちが 大事なんだ

ずっとキレイな 僕らの宝物だよ”

 

 優しい歌声で想起するのは駆け抜けた日々の思い出。みんなそれぞれが持っている大切な日々の記憶。

 

“会いたくなったら 目を閉じて

みんなを呼んでみて そしたら聞こえるよ”

 

 その日々の記憶や思い出は輝きに満ちていて、それに浸ることがとても心地よい。けれど、心地よいだけじゃ駄目なんだ。貰った大切なものを、次に飛ばさなければ、駄目なんだ。

 

“忘れない 忘れない 夢見ること

明日は今日より夢に近いはずだよ”

 

 一言目は自分に向けて、そして二言目には外に向けて誓う言葉は優しい響きの中に力強さを生んだ。

 ステージの下から見ていて思う。

 ああ、Aqoursはやっぱり9人なのだと。

 この楽曲は再スタートでありつつも、これまでの続きなのだと。

 かつて一緒に練習した姿を知っているからだろうか?見えるのだ。9人のAqoursがステージで舞う姿が。

 

“ひとりひとりは違っていても 同じだったよ

いまこの時を 大切に刻んだのは”

 

 きっとこの部分は鞠莉さんが似合うだろうな、とか。

 

“ぜったい消えないステキな物語”

 

 3年生3人の仲を繋いだダイヤさんなら心の底からの響きを乗せられるだろうなぁとか。

 

“みんなとだからできたことだね”

 

 果南さんなら持ち前の明るさで達成感を全身で表現するだろうなぁとか

 

“すごいね ありがとう”

 

 やっぱり3人のハーモニーは纏まりがいいと思ったのだろう。

 気付けば体を左右に揺らして私達はリズムを取り、心が音楽に溶けていくのが分かる。

 

“止まらない 止まらない 熱い鼓動が

君と僕らはこれからも つながってるんだよ

止まらない 止まらない 熱くなって

あたらしい輝きへと手を伸ばそう”

 

 目に浮かぶのは9人が背中合わせに円陣を組み手を取り合って歌い、そしてそれぞれの輝きに向けて手を伸ばす姿だった。

 それは単なる私の妄想なのだろう。けれどもそのただの妄想を見せるのは他ならないAqoursのみんなだ。

 みんなは歌に、パフォーマンスに自分達を表現しきっているのだ。

 その姿は輝きに満ちていて、そしてこれからもきっと輝き続けると、そう思わせるものだった。

 

「ねぇ、星。この曲って、何て曲だったっけ?」

 

「この楽曲はねーーーーー」

 

 ーーーーー“Next SPARKLING!!”

 それは輝きを追い続けた9人の少女達のストーリー。みんなで叶えた物語の結晶だった。

 

 


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