ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第二百二話

 そんな風に忙しなく活動していたら気付けば明日はもうライブの日。

 ステージの部品は全て完成し、明日は朝一で駅前の通りまで資材を運んで貰い、設営をする。

 結局、もう浦の星女学院だとか静真高等学校だとか関係無く、様々な人が手伝ってくれるようになった。それは生徒だけじゃなく保護者も巻き込んでだ。実際、今回準備のしたセットを運ぶのにトラックを出してくれるのは静真高等学校の生徒の身内の人だ。

 私達のライブが決行される前にもう、浦の星女学院の良いところが伝わったのだ。

 明日のライブは最早ちょっとしたお祭りだ。

 当初の想定とは大分違った未来となってしまったけれど、これも悪くないと、そう言える程度にはみんなこれまでの歩みに自信があった。それはさっき、みんなで最後の記念にと浦の星女学院の前に行ったときの言葉からよく伝わった。

 目を閉じれば今でもその時の光景を思い出せる。

 夕日に照らされた校舎。

 ほんの少し開いていた校門。

 Aqours9人の背中。

 それをちょっと後ろから見る私。

 

「何でここに来たの?」

 

 問い掛ける千歌先輩の言葉はみんなで歌ったあの再会の日のこと。

 

「さあ?呼ばれたのかな学校に」

 

「でもちゃんと会ってほっとしたずら」

 

 色々な想いを共有して、偶然に偶然を重ねて、そして交わったキセキ。けれどもそのキセキは他力本願ではなく自分達で選び抜いたからこそ起こった偶然なのだ。

 

「あ、空いてる」

 

 閉校式で閉じた校門。それをあの日、ほんの少しだけ開いてそのままになっていたようだ。

 もしかしたら今日こそ学校に呼ばれたのかもしれない。そう思うと寂しさは無かった。

 

「大丈夫。失くならないよ」

 

 もう閉じることを恐れない。閉校式の時、みんなで力を合わせなければ閉じられなかった扉を千歌先輩は優しく掴んだ。

 

「浦の星も、この校舎も、グラウンドも、図書室も、屋上も、部室も。海も、砂浜も、バス停も、太陽も、船も、空も、山も、町も。Aqoursも」

 

 閉校式の日は閉じることが終わりだとそう感じていた。でも今は違う。一度開いて、大切なものを再確認して気付けたんだ。

 自分自身の心がそう思えたならそれは終わりではないのだ。

 あの日々のことが繋がっているのであればそれは続き。終わりではないのだ。

 

「帰ろ」

 

 千歌先輩は気負うこと無く校門を閉め、私達は走り出した。学校を振り返ることもなくだ。

 振り返らなくても心に問い掛ければ学校の景色は直ぐに出てくる。みんなの顔も、思ったことも、感じたことも全部。

 

「全部全部全部ここにある。ここに残っている。0には絶対ならないんだよ。私達の中に残ってずっと側にいる。ずっと一緒に歩いていく。全部私達の一部なんだよ」

 

 スクールアイドル Aqoursの発起人にしてリーダーの千歌先輩は思えば求道者だった。長いようで短かった旅の果てに、今、千歌先輩が語るのは彼女が体得した“イマ”の答えだ。

 

「だからーーーーーいつもはじまりは0だった」

 

「始まって、一歩一歩前に進んで、積み上げて」

 

「でも、気付くと0に戻っていて」

 

「それでも一つの一つ積み上げた」

 

「なんとかなるって、きっと、なんとかなるって信じて」

 

「それでも現実は厳しくて」

 

「一番叶えたい願いは叶えられず」

 

「また、0に戻ったような気もしたけれど」

 

「私達の中には色んな宝物が生まれていて」

 

「それは絶対消えないものだから」

 

「青い鳥があの虹を越えて飛べたんだから私達にだってきっと出来るよ」

 

 砂浜まで走った私達は夕日の沈む茜色の空と海、そして空に架かる虹を見た。

 その景色はまるで私達を祝福するようで、それと同時にまだ途中であると突き付けているようだった。

 

 それから私達は明日に備えて解散して、こうして私は自宅に戻ったのだが、私のするべきことは結局こんなにギリギリになってしまった。

 一通の封筒。それを食卓に置いた。

 それは私が父親に対して綴った手紙だ。

 口では伝えられない、伝えきれない想いも手紙なら出来るのかもしれない。本当なら音楽で伝えたい気持ちもあるけれど、それはきっとまだ早い。するとするならばそう、穹と一緒にだ。

 私はそう意気込んでリビングで茶を啜っていると、間も無く父親が帰ってきた。とは言ってももう夜もいい時間だけれど。

 父親は私がリビングにいることに驚いたように目を見開いたけれど、相変わらずこう口にするのだ。

 

「ただいま」

 

「・・・・・・おかえり」

 

 そう返事をすると、ますます驚いたようで口を半開きにしていた。

 驚かせついでに畳み掛けてやろうと私はぶっきらぼうにテーブルの上の手紙を指差してこういってやった。

 

「読んで欲しい。それで、読んでどう思ったのか、教えて欲しい」

 

 それだけ言って私はそそくさとリビングを後にしようとし、部屋を出る直前に、本当にギリギリのところで足にブレーキをかけられた。

 

「明日、沼津駅前の通りで学校のイベントやるから」

 

 それだけついでに伝えて私は部屋に戻った。

 物凄く独り善がりなんだけれど、気持ちがふわふわとして、そしてよく分からない達成感があった。

 何もかも戻るとも上手くいくとも思わないけれど、きっとこれまでよりかはほんの少しだけ良くなると、そう感じるのだ。

 

「次はどうしようかな?」

 

 まずは父親からの感想を貰ってから。そう思えるようになれる程度には私は自分の中の怒りと折り合いがつけられたみたいだった。

 


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