ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第二百話

 画面の向こう側に広がる景色はとても力が満ち満ちていてSaint Snowらしいステージだった。それは例えるならそう、夢のような景色だった。面白味の欠片もない言い回しになってしまうけれどもそれ以外に例える言葉を私は知らない。

 理亞ちゃんはAqoursのみんなと同じだ。卒業する頼れる姉(先輩)の後をどのようにしていくのか悩んでいた。もちろん方針は決めていただろうけれど、どこかこれまでと同じものを望んでしまっていた。

 9人のAqours、2人のSaint Snow。それぞれ心の中にあるがゆえにそれと同じ形を望み、けれどどうしようもなく足りないことにぽっかりと心に穴が空いたような、そんな気持ちだったのだ。

 端からAqoursを見ていた私ですらそうだったのだ。当事者はどれ程の気持ちだったのか察してあまりある。

 だけど私達はイタリアで鞠莉さん達の姿を見て、言葉を交わして、一緒にパフォーマンスをして感じたのだ。姿は隣から無くなっても、あの時の私達は無くなったりはしないのだと、心の中に想い続ける限りあり続けるのだと。

 みんなが居て今の自分が出来たと鞠莉さんが母親に話したように、私達もまた積み重ねたものがあるからこそ今があり、その積み重ねは消えないのだ。

 それに気付くのにイタリアまで行くことになったけれど、Saint Snowは、理亞ちゃんはそういった切っ掛けがない。

 自律しようと姉にもあまり頼っていなかったようで、孤立していたのだ。きっと堂々巡りして、頭の中が煮込んだスープのようぐるぐるっとしていたに違いない。

 けれども、きっと今回のこのラブライブ決勝延長戦はきっと理亞ちゃんにとっての切っ掛けになった筈だ。

 1スクールアイドルがラブライブ決勝延長戦、なんて言ってもお遊びだと常の理亞ちゃんならば言うだろう。けれども自分が認めた、そしてラブライブ優勝を果たしたAqoursからの発案だからこそこれは遊びじゃないと伝わったのだ。今シーズン、唯一ラブライブ決勝延長戦を申し込める資格のある、Aqoursだからこそ。

 この勝負には勝敗すらない。あるのはただ、起こり得なかった可能性を精一杯楽しむ気持ち。そしてラブライブを優勝すること以外の未来を掴もうとする貪欲なる気持ちだ。

 

「はぁ、やっぱ楽しいなぁSchool idol」

 

「ですが、今度こそ、これが最後ですわよ」

 

「だから、最後に伝えよう。私達の想いを」

 

 最後、という言葉はけれども言葉に似つかわしくない楽しい響きがあった。寂しさは似合わない、それに最後だけれど、距離が離れてもずっと続くものがある。それが分かっているから寂しさよりも楽しさが勝っているのだ。

 だから多くは語らない。言葉は大切だけれども、今はそれよりも勝る表現の方法があるから。

 今はユメを語るよりもユメは歌う方が適している。

 

“Ah どこへ行っても 忘れないよ Brightest Melody”

 

 円陣を組んで向かい合っていたAqoursはその中心に舞い降りた羽を受け取るように手を水平に掲げ、そしてまたどこか遠くへと飛ばすように天に指を掲げた。どこか遠く、同じように夢を胸に抱いた誰かのために、羽を広げるように。

 曲は既に歌詞に語られたように“Brightest Melody”。輝きに満ちたAqoursの集大成のひとつだ。

 

“いつまでもここにいたい”

 

“ずっと歌おうみんなで”

 

 この曲の特徴は掛け合いのパート分けだ。

 卒業する3年生のパート、そして時代を担う1年生、2年生のパートとの掛け合いがまるでエールの送り合いのようで、けど、お互いに掛ける言葉も掛けられる言葉も言われずとも通じあっているような、けど言葉にしたいという感傷。それがすごく伝わってくるのだ。

 

“キラキラ ひかる夢が 僕らの胸のなかで輝いてた

熱く大きな“キラキラ” さあ明日に向けて

また始めたい とびっきりの何か? 何かを!

それは なんだろうね 楽しみなんだ”

 

 あの時、みんなが目にした景色、そして夢見た景色。それらはきっと輝いていた。いや、それをずっと胸に抱いていれば“キラキラ”し続けるのだ。

 その共有する“キラキラ”があればこれから起こる何かだって心配なんかよりもずっと楽しめる。

 そんな前向きな歌が日の出と共に歌われる。

 礼装のようにパンツスタイルの3年生はAqoursカラーの青を身に纏い、1、2年生は新しいAqoursのこれからを担う決意を象徴するように日の出と共に青を脱ぎ、その身には純白が輝いていた。

 

“あたらしい夢 あたらしい歌 つながってくんだ”

 

 それぞれ向かう方向は違っていても大丈夫、繋がりは途絶えない。そう象徴するような振り付けでこの曲は締め括られる。

 その強い信頼、メッセージを目の前で見て私は細やかながら勇気を貰った。

 穹とのこと、父親とのこと、みんなとのこと、これからのこと。全部上手くいくなんてことは無いかもしれない。苦難だってあるかもしれない。でも、これまでみんなから貰った沢山のもの。そして今受け取ったもの。それがきっと私に力を貸してくれる。

 穹もこのラブライブ決勝延長戦を間近に感じてきっと思ったことが沢山あるだろう。だから次に会った時には沢山語り明かして、それで今後のことも話そう。私はその決意が完全に固まった。

 


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