ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第二十話

 堕天使の衣装が完成し紹介用PVを撮影することになった。

 白と黒のコントラストがはっきりした衣装はAqoursのファーストライブの時の、いかにもアイドルというカラフルな衣装とは方向性が全く違ったものとなった。スカートはより短くなり梨子先輩なんて戦々恐々としていたが、衣装そのものはファーストライブのものより落ち着きのあるデザインとなっている。その洗練された可愛らしさに思わず溜息が漏れてしまう。

 

「いい衣装が出来て良かったですね」

 

「これ踊ったら絶対見えちゃうよね」

 

「見えても平気なやつを履くんですよ。ほら、プロの女子テニス選手が履くような」

 

「いや、下着のデザインが恥ずかしいとかじゃなくて、見えるという事実が」

 

「梨子先輩。甲子園で応援しているチアリーダーは足上げしても恥ずかしがらないですよね。だからここは慣れないと」

 

 うーむ、と梨子先輩は難しそうな顔をしているが、こればかりは慣れて貰わなければならない。

 

「これは絵になりますね」

 

「でもまだ新曲も出来てないのに紹介用PVだけ撮るっていいのかな?」

 

「避けては通れない道ですよ」

 

 またもや呻く梨子先輩だった。

 堕天使アイドルのPVは堕天使ヨハネの紹介と各メンバーの紹介。そして決めポーズをするという流れなのだが、その台詞まわしやポーズはガチな人でなければ羞恥心に殺される類のものなのだ。

梨子先輩が躊躇いを覚えるのも頷ける。更に一言添えるなら、私ならやらない。

 スクールアイドルとしての在り方を試行錯誤しているとはいえ、メンバー全員が納得しているとは言えない今回の試みはもしかしたら不味いのではないか、とも思わなくもない。でも止めはしなき。見てるこっちは面白いからね。

 

「取り合えずPVを撮ったら気分転換しましょう」

 

「気分転換?」

 

「セッションの約束、守ってもらいますよ」

 

 梨子先輩の得意なピアノは基本的にソロでの演奏だという。だから梨子先輩が演奏して一つの音楽を創るのは学校の合唱やこのスクールアイドル活動以外にはやったことがないという。

 いずれの演奏も歌い手と合わせる形であるため楽器で誰かと音を合わせることはしたことがないと以前話していた。

 

「喜んで。でもどこでする?」

 

「家に招待しますよ。ピアノもありますし」

 

「星ちゃんピアノ出来るの?」

 

「専門ではないので曲の旋律をなぞるくらいしかできませんが」

 

 ピアノでは歌って躍る相方に並び立ってパフォーマンス出来ない。そういう理由で私はハーモニカに重点を置いたのだ。もっともそれを態々口には出さないが。

 

「そうなの。私とはアプローチのしかたが違うのね。じゃあ撮影の後で」

 

 梨子先輩には不思議な事なのだろう。一つを極めようとする人には私のようにあれこれ手を出すのは非効率に映るだろう。だが、私に言わせれば梨子先輩だってスクールアイドルをやっているのだから私とさして変わらない。それに全ての道はローマに通ず。音楽はどこで何が接点を持つのか分からない。携わっている限り完全に無駄になることはない。

 

「PV撮影頑張ってください」

 

 梨子先輩は諦めたように苦笑いして千歌先輩に連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の照明を付けると所狭しと楽器が列んでいる。ピアノ、ドラム、ギター等の弦楽器にトランペット等の管楽器。アナログなものも電子楽器も合わせて揃っている。それを揃えてなお部屋はそれ程の狭さを感じない。

 個人の邸宅でこれだけの広いスペースを確保出来たのも地方に越してきたからこそだ。だが、流石に防音壁とまではいかなかった。

 

「星ちゃん家広いね」

 

「それに楽器も沢山」

 

 PVの撮影が終わりスクールアイドル部一同と津島さんは私の自宅に来ていた。皆そこに列ぶ楽器の数々に目を丸くしていた。

 実は種類は充実しているが、その殆どをハードオフでジャンク品手前のものを購入して修繕したポンコツ品だ。だが、しっかり音はずれずに出るよう調整しているし、練習程度には問題ない。

 

「これ全部出来るの?」

 

「取り合えずは」

 

 皆は各々楽器を構えてポーズをとったり、音を出したりしている。ついでにそれぞれ記念撮影したりと楽しんでいるようでなによりだ。

 

「ピアノもちゃんと調律出来ているのね」

 

 梨子先輩は鍵盤を一つずつ音を鳴らして確かめると満足そうに頷いた。

 

「じゃあ何からやりましょうか?」

 

「私と梨子先輩ってあまり音楽の趣味は合わないですよね。共通で知ってる曲ってあります?」

 

 私はミーハーなため大衆音楽を好んで聴いている。逆に梨子先輩は音楽の教科書に載るような、由緒正しい音楽を好んでいる。共通の曲などあまりない。

 

「二人が共通して知ってる曲なんてスクールアイドルの曲で決まりでしょ」

 

「ならユメノトビラがいい」

 

 二人して頭を捻っていると、千歌先輩ははいと挙手してリクエストしてきた。案のμ’sの曲だ。

 

「その曲ならバイオリンを弾きましょうかね」

 

 μ’sのユメノトビラ。旅の歌。夢という名の果てしない旅の途中の歌だ。

 夢の果てへと至る方法は分からない。それでも夢は叶うと信じて歩み続ける。そんな力強さを、願いを込められている。

 

「じゃあ、せーので行きましょう」

 

 せーの、と梨子先輩と私は二人で声を掛け合って演奏を始めた。

 バイオリンは持ち運び可能でかつ、口と足が開くため演奏しながらパフォーマンスを同時にこなせる可能性があったためそれなりに練習した楽器だ。

 

「ほらほら、みんなも折角なんだから歌ってよ」

 

 音楽はみんなで楽しむというのが私の持論だ。

折角リクエストに応えているのだから一緒に参加して欲しい。

 

「ユメノトビラ 誰もが探してるよ 出会いの意味を見つけたいと願ってる」

 

 歌い出しに困るのならば切っ掛けを作ればいい。私は弾き語りを始めると梨子先輩もまた歌い出した。

 通常、バイオリンでの弾き語りは難しく、声の大きさや音域の広がりは普通に歌うことに比べて制限されてしまうが、相方と試行錯誤していた当時は弾き語りしつつ更に躍ろうとしていたのだから今思えば無茶な話だ。だがその甲斐もあり、ちょっとした弾き語りは出来るようになった。

 

「ユメノトビラ ずっと探し続けて 君と僕とで 旅立ったあの季節」

 

 私達が歌うことで他の皆も最初は遠慮がちに、だが、次第にはっきりと歌い出した。

 津島さんはスマホで歌詞を見ているが、他の皆は流石スクールアイドルだけあって覚えているようだ。

 この曲はμ’sの代表曲の一つとしてかなり支持されている。というのも目標に向けてひた走る彼女達の姿が重なるというのだろうか。この曲にはμ’sらしさがありありと表現されている。

 梨子先輩も私も知っているとは言え主旋律のみだ。だが、お互いにここはと思う部分は分かっている。主旋律でも音の強弱でアレンジを効かせ、その力強さを、希望を表現した。

 ユメノトビラの後もμ’sの曲やAqoursの曲まで演奏した。本人達の前でするのは気が引けたが、本人達の希望だったからそれに答えることにした。おおよその主旋律は耳コピしていため問題なく演奏しきれた。

 演奏はバイオリンだけでなく、ギター、フルート、ドラムなど様々なものを試した。中にはまだまだ未熟な腕前で音を外すこともあったけど楽しかった。

 

「即席にしてはよかったんじゃないですか?」

 

「そうね。でも」

 

 一通りの楽器を楽しんだ私は梨子先輩に同意を求めたが、どうやら梨子先輩は違う感想らしい。いや、梨子先輩だけでなく、他のメンバーもまた梨子先輩の言葉に頷いていた。

 

「星ちゃんはハーモニカが一番いいと思うよ」

 

「やっぱりそう思うよね。私もハーモニカを吹いてる星ちゃんが一番キラキラしてると思う」

 

 曜先輩や千歌先輩、それに他のみんなもまた口々にそう言う。

 それは本当ならいけないことなのだが、私は不謹慎にも嬉しかった。私が一番好きで、一番練習して、かつて相方と共に過ごした楽器を演奏している時が一番キラキラしてると言われたことに。

 

「じゃあ、最後にもう一曲」

 

「はい。ハーモニカで」

 

 曲は翼になりたい。小中高でよく合唱で使われら曲だ。

 この曲もまた希望を信じる人のための応援歌だ。とてもメロディーラインが綺麗な伸びやかな曲。飛び立ちたくなるような、そっと背中を押してくれる優しさがある。

 明日からはまた私はまた一人でハーモニカを吹く日々が続くだろう。このように誰かと並び立って演奏することなんて無い。それは本当はやってはいけないことだから。やる資格がないから。だから私は今を楽しむ。駄目だと分かりながらも辞められない自分を卑下しながら。

 


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