ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百九十八話

 次の日、早急にということだったため私達は開店と同時に喫茶店 松月に集合した。

 立地的な理由もあり店内のお客さんは私達だけ。そして、客席の数的にもほぼ満席だ。少しだけ申し訳ないけれども話し合いをするのにはもってこいだ。

 

「それで、Saint Snowがどうしたっていうの果南ちゃん?」

 

 一通り注文も終えると開口一番に千歌先輩が問い質す。一体何があったのか気になるし、場合によっては力になりたい。そんな思いが伝わってくる。

 

「端的に言うと、理亞ちゃんがAqoursに入るかもって話」

 

 果南さんがざっくりと述べると、私達は数秒の沈黙の後に大声を出して驚いてしまった。だってそれが意味することは、

 

「転校してくるってこと!?」

 

「Yes.」

 

「春に手続きすれば丁度みんなと一緒に新しい学校に通うことになるから、馴染みやすいだろうしって」

 

「理亞ちゃんがそうしたいって言ってるの?」

 

「いいえ。まだ話してないみたい」

 

「ただ、聖良としてはそれが一番良いんじゃないかって」

 

「同じ卒業生としてどう思うかって私のところに連絡が来て」

 

「私たちで聖良さんと話しても良かったのですけど、やはり千歌さん達の気持ちも大切かと思いまして」

 

 矢継ぎ早な私たちの質問に三年生の三人はそれぞれ的確に答えをくれた。

 スクールアイドルは遊びじゃない。そう豪語する理亞ちゃんがスクールアイドル活動をより良いものとするために函館から遥々沼津に転校すると、そう自分で考えて決めたことならば、Aqoursに入る入らないは置いておいて私としては大歓迎だ。

 けれども、どうやらこの話は聖良さんが考えたことらしい。

 それはつまり今の理亞ちゃんの状況が芳しくないことに他ならない。

 スクールアイドルは遊びじゃないと口にする理亞ちゃんはストイックで、だからこそSaint Snowたとしてスクールアイドルでも上位に食い込む実力者となった。けれどコンビを組んでいた姉が居ない今、彼女は一人。ソロのスクールアイドルが居ないわけではないけれど、グループ全盛期のこの環境では上位に食い込むのは難しいし、そもそも理亞ちゃんがグループに拘ってもいる。だけど、誰もストイックな理亞ちゃんに着いて来れる人が居ないようなのだ。

 でもそれで沼津に来る、Aqoursに入るというのはなんか、こう、違うような気がしてならない。そう思うのは私だけなのだろうか?

 

「理亞ちゃんがAqoursに入る?」

 

「ちょっと想像しただけでも・・・・・」

 

「何想像してるずら?」

 

 善子ちゃんが何を想像したのか苦い顔をし、花丸ちゃんが呆れた様子で突っ込んでいた。

 大方ストイックな亞ちゃんに振り回されていることでも想像したのだろう。

 

「どう思う?」

 

「そりゃ、全然嫌じゃないよ。前にみんなで話したように、Aqoursは何人って決まってる訳じゃないし」

 

「それに理亞ちゃんも同じラブライブで頑張った仲間だし」

 

「良いんじゃない?めんどくさそうだけど」

 

「善子ちゃんより教えてもらうこと沢山ありそうずら」

 

「うん。ただ・・・・・・」

 

 一度はSaint Aqours Snowとして合体グループでパフォーマンスをしたほどの仲だ。気心も知れているし誰も嫌と言うものは当然のようにいない。けれども、やっぱり釈然としない気持ちはあるようで、それはルビィちゃんが人一倍そう感じているようだった。

 

「ダメだよ。理亞ちゃん、そんなこと絶対に望んでないと思う。Aqoursに入っても今の悩みは解決しないと思う」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「だって、理亞ちゃんはSaint Snowを終わりにして新しいグループをはじめるんだよ?お姉ちゃんと続けたSaint Snowを大切にしたいから、新しいグループはじめるんだよ。それってAqoursに入るってことじゃないと思う。ルビィ、向こうでお姉ちゃんと一緒に歌って分かったんだ。お姉ちゃんたちは居なくなるんじゃないって。同じステージに立っていなくても一緒に居るんだって」

 

 ルビィちゃんは目を閉じてステージの上の自分を思い浮かべるように話をする。

 

「一緒に?」

 

「理亞ちゃんはそのことに気付いていないだけだと思う。居なくなってしまった聖良さんの分をどうにかしなくちゃってSaint Snowと同じものをどうしても作らなきゃって。お姉ちゃんと果たせなかったラブライブ優勝を実際に果たさなきゃ聖良さんに申し訳ないって」

 

 理想のアイドル、理想の自分、理想の仲間。ステージにはいつだってそれが居て、それを目標にしたり、気持ちを盛り上げたりするために意識していた筈だ。けれどもあまりにもそれが当たり前になってしまうと、見失ってしまうものでもある。

 ルビィちゃんはAqoursの中の誰よりも自分に自信が無いから、そのいつも側にいてくれる理想の大切さが分かるのだ。そして理亞ちゃんのように同じグループにいる理想の姉、けれども卒業してしまう姉がいるからこそ彼女の気持ちが分かるのだ。

 

「たぶん理亞さんの気持ちはルビィが一番分かっていると思いますわ。姉が卒業した妹の立場として」

 

「ルビィちゃんの言う通りずら」

 

「同意」

 

「うん」

 

 私も同じだ。みんなの意見に同意という意味ではない。私は理亞ちゃんと同じなのだ。

 穹と一緒に居られない今後をどのようにしていくのか決められなかったのは、やっぱりどうしようもなく側に居られないからだ。

 だから答えを探すことを先伸ばしにしていたのだ。

 私はみんなから突き付けられる現実に胸を締め付けられながらも、その厳しい優しさに口に出さずに感謝した。

 向き合う勇気は一人で持てなくても、誰かが支えてくれるならばきっと大丈夫。

 

「だとしたらどうすれば?」

 

「そうだよ。教えて上げるのが一番だと思う」

 

「そう。一緒にいるって、ずっとそばにいるよって」

 

「理亞ちゃんの一番大きなDreamを一つ叶えて」

 

「夢」

 

「そっか、夢か」

 

「全員同じ意見みたいですわね」

 

「理亞ちゃんが叶えたくてどうしても叶えられなかった夢を」

 

「そうですわね。叶えてあげましょう。みんなで」

 

「聖良さんにもすぐに伝えなきゃ」

 

 千歌先輩が電話するのと同じ様に私は穹に電話をする。

 彼女は10コールくらいしてようやく電話に応答した。

 

「やべ、寝過ごした」

 

「あのさ、昨日話したお願い。可能性じゃなくなったんだけど、頼まれてくれる?」

 

「もともとそのつもりで昨日のうちにもう移動してる。今、青森のサービスエリアで仮眠してたんだけど、寝すぎたみたい」

 

「青森!?」

 

「家のV-MAX借りてね。夜中じゃなきゃかっ飛ばせないしね」

 

 久し振り風になったよ、と穹はからからと笑った。

 

「お願い。Saint Snowが最高のパフォーマンスをできるように手伝って」

 

「了解。そっちは?」

 

「Aqoursの最高のステージを届けるよ」

 

「それから?」

 

「それが終わったら、沼津に来て。私達の今後のこと、話をしよう」

 

「ーーーーー了解」

 

 穹ははじめから分かっていたのか、少しだけ息を飲んでそう了承した。

 


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