ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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大変お待たせしました。
活動報告にも書いたように虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のライブに行っていたことでしばらく思考停止していました。
今後も更新についてのお知らせなどは活動報告に記載するのでそちらをチェックお願いします。


第百九十七話

第百九十七話

 

 

 

 

 一週間。期間的に無茶ではあるけれども新年度が始まるまでもう期間がない。無茶を通すしか無いのだ。幸いステージ設営のノウハウは学校説明会の時の経験がある。あとは電源設備等の融通さえできればライブ自体は可能だろう。とにかく時間との戦いになることは間違いがない。

 四五六トリオ先輩には待機して貰ってた手配をすぐに動き出しを掛けて貰い、千歌先輩、梨子先輩は作曲、花丸ちゃん、ルビィちゃんは衣装、善子ちゃん、曜先輩はダンスに注力を注いで貰うこととなった。

 その日は役割分担と工期を明確化して解散となった。

 私は帰宅してのんびりと旅行の荷物を整理していると気付いたときにはもうゴールデンタイムだった。イタリアに行っている間にこちらの時間感覚がずれてしまったらしい。それに、こないだまで冬だったと思ったのに随分と日も永くなった。このままではあっという間に新学期だ。

 それまでに色々と決着をつけなければならないのだ。学校のこと、穹とのこと、父親とのこと。

 

「ただいま」

 

 一通り荷物の整理も終ったところで珍しく父親がこの時間に帰宅した。帰宅の挨拶を欠かさないところは私がイタリアに行く前から変わらない。

 父親は私がリビングに居ることに目を見開き驚いた様子だったけれど、少しの緊張を持ちながらも表情を僅かばかし緩めて、改めて「ただいま」と言った。

 私はどうしようかと思った。

 イタリアに行っている時は帰ったら話そう、と決められた。だが、何を話せばよいのか?久しく会話をしていない私にはその切り口が分からず結局黙りを決め込んだ。そして父は相変わらず少し残念そうに悲しげな目をするのだ。

 私はどうにもいたたまれない気分になり足早に部屋に戻る。

 今日はそう、確認だ。自分が父を前に冷静でいられるかの。事実、今日の私は怒りが瞬間沸騰することはなかったのだから、意味のある時間だった。

 私はそう自分に言い聞かせていると机の上に置いたスマホが着信を知らせていることに気が付いた。

 着信は果南さんからで直ぐに折り返した。

 

「もしもし、果南さん?」

 

「よかった。連絡ついて。ちょっと緊急で明日みんなで集合するんだけど、星は来られる?」

 

「行けますけど、どうしたんです?帰ってきて早々、緊急なんて」

 

「ちょっと聖良から連絡があった件でね。詳しくは明日集まってから話をするよ」

 

「そうですか」

 

 沼津に帰ってくる際の長文のメール、そして今回の緊急の集会。

 割りと大きな案件なのではないかと思考がそちらに向いたところで珍しく果南さんがちょっと踏み込んだ質問をしてきた。

 

「星はお父さんとちゃんと話できたの?」

 

「う、まだです」

 

「決めたんでしょ」

 

「どうして果南さんがそんなに気にするんですか?」

 

「・・・・・・まぁ、ろくに意志疎通をせずに擦れ違った先輩、だからかな」

 

「それ言われたらなんも言えないですよ」

 

「うん。言わなくていいよ。言い負かされそうだし」

 

 頭使うのは苦手だからね、と果南さんは言った。

 でも私は全然そうは思えない。少なくとも自分の交遊関係に関しては頭を使っているのは端から見ていて分かる。

 

「どうやって話していたのか分からなくなったんですよ」

 

「どう、か」

 

「はい。それに今更避けていた私が手のひらを返すのもなんか違うような気がするんです」

 

 さっきは怒りに駈られることはなかったけれども、正面から向き合って話してしている内にまた感情が爆発しないとも限らないし、上手い手はないのだろうか?

 

「歌にすれば?」

 

「うーん、それも考えたんですけど、細かく話をしなきゃだし、情報量が膨大で、ロード13章くらいの長編になっちゃうのでやめたんですよ」

 

「もういっそのことロードで良いんじゃない?」

 

 “なんでもないようなことが 幸せだったと思う”はかなり汎用性の高いフレーズだけれどもそれでは伝わらない。

「なら、手紙でも書いてみたら?」

 

「手紙、ですか?なんで急にまた、」

 

「ほら、確か京都のアニメ会社の作った・・・・・・」

 

「ヴァイオレット・エヴァーガーデンですね」

 

「そうそれ」

 

 “ヴァイオレット・エヴァーガーデン”は手紙代筆屋の仕事を通して人間性に触れ、成長する少女の物語だ。

 時代背景的に一部想像でしか気持ちを計れないところはあるものの、とても人の気持ちを大切に表現された描写には心動かされるものがある、そんな作品だ。

 

「悪くないかもしれないですね」

 

「だね。でも、明日のこともあるし、もうしばらく星の手、借りるかもしれないから。ごめんね」

 

「忙しいのはこの一年で慣れましたよ。それに果南さんの手伝いできるのなんて、これからあんまり機会ないでしょうから」

 

「なら、遠慮は必要ないかな。それじゃおやすみ」

 

 結局、明日のことはどんな内容なのかは分からなかったけれど、自分のことでは思わぬアドバイスがあった。

 けれど、果南さんがああ言っていた以上、目先の問題がたぶん優先度が高くなることになりそうだ。

 私はすぐさま穹に電話を掛けて一つ、お願い、というか、可能性の話をした。

 


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