ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百九十三話

 晩御飯をレストランで食べ終え、細かい話はホテルに戻って行おうと私達は外に出た。

 ホテルはローマ市内に取っているので、街としてはそれなりに栄えているけれど、日本の夜とはまるで景色が違う。

 石造りの高さがおおよそ統一されているこちらは日本の都市部の雑多さや、ギラギラとしたネオンの光はない。最初は暗いとも思ったけれど、沼津の住宅街の夜くらいと思うと不思議と暗く感じなくなった。

 

「そう言えば聴きそびれてたけど、ママとは話出来たの?」

 

 道中、鞠莉さんがなんてことなさそうに話題を振ってきた。

 一見澄ました表情をしているものの、聴いてきた以上、気になっているのが分かる。

 

「お母さん、浦の星女学院での鞠莉さんのことを知りたがってましたよ。話してなかったんですか?」

 

「う、それは、忙しかったからでーす」

 

「そんな冷えきった夫婦で行われそうな言い訳しないでくださいよ」

 

「だって、本当のことだし、時差だってあったし・・・・・・」

 

「これは鞠莉さんにも多少の原因がありそうですわね」

 

 やれやれ、と隣で話を聴いていたダイヤさんが呆れたように肩を竦めた。

 

「身内だから分かってくれる、なんてのは幻想ですよ」

 

「私はそこまで言いませんけれど、鞠莉さんも果南さんも、私も、すれ違ってしまった原因を忘れた訳ではないでしょう?」

 

「・・・・・・分かってる。でもスクールアイドルをバカにされて黙ってられなかったの。sell wordにbuy wordでーす」

 

「売り言葉ばに書き言葉ね」

 

 まったく、と果南さんがどうでもいいと言いたげな補則をした。

 そう言えば3年生の3人がすれ違っていた頃なんて随分と前のように感じるなぁ、しみじみとしているとふと思い出したことを訊ねる。

 

「そう言えば果南さんが休学してたのって」

 

「お父さんが怪我したから店の手伝いにね」

 

「そう、そうそれです。果南さんは親の都合に振り回されること、何とも思わなかったんですか?」

 

「んー、そうだね。多少は言い合ったりもしたけど、持ちつ持たれつだからね」

 

「持ちつ持たれつ、ですか」

 

「うん。生き物ってね、そういうものなんだよ。海に潜ればそれがよく分かるよ」

 

 うん。私にはよく分からないけど、果南さんなりに妥協できるだけの理由があることは分かった。

 やっぱり家族の在り方、考え方は人それぞれで正解なんてないみたいだ。だけど、一つ分かった。

 やっぱり話を、言葉を交わさなければ歪みが生じるのだ。果南さんは言い合いをしたと言った。だからこそ妥協できるに至ったのだろう。

 鞠莉さんはろくに話をしていなかったようだ。だから今みたいになっているのだろう。

 ようやく私は自分の家族関係を客観視出来る気がする。

 

「家はどうなんだろう?」

 

「話してみればいいじゃない?」

 

「随分と長いことまともに話してないんですよ」

 

「でも、お父様は星さんに声を掛けるのでしょう?」

 

「でも」

 

「遅い、なんてことはないと思うよ?」

 

 このままではいけないという結論がすっと胸に入ってくる。けれど同時に思うのだ。怖いって。

 今更どの面下げて話し合おうなどと言うのだと。

 

「あまりにも恥知らずじゃないですか?」

 

「恥はかき捨てですわ」

 

「正しいことなんてその時にならないと分からないんだもん。恥かいたっていいんじゃない?」

 

 鞠莉さんの母親もそう言えば未熟者同士で我の張り合いをしている、というようなことを言っていた。

 なら私がするべきとこは明白だ。

 

「日本に帰ったら、話、してみます」

 

 そんな話をしていると穹が微笑ましそうに優しい表情を浮かべていることに気付きなんとなく恥ずかしくなった。

 

「よかったね、星」

 

「シャラップ!」

 

「私も果南ちゃん達に聞いてもらいたいことあるんだけど言いかな?」

 

 私の話が終わった頃、ちょうどホテルの前に着いたのだが、私と入れ替わるように千歌先輩が果南さんにそう声を掛けていた。

 

「千歌は何の話?」

 

「うん。新しいAqoursのことでちょっと」

 

 千歌先輩と曜先輩、鞠莉さん、果南さんは私達が止まるホテル アストリアガーデンのロビーにある談話スペースに腰を下ろした。私もなんとなく他人事ではないような気がしてそれに同伴する。

 

「みんなちょっと悩んでいたんだよね。新しいAqoursって何だろうって」

 

「新しいAqoursか」

 

「自分達で見つけなきゃいけないってのは分かってるんだけどなかなか・・・・・・」

 

「そしたら聖良さんが一度あって話してきた方がいいんじゃないかって」

 

「そうだったんだ」

 

 まさかSaint Snowの聖良さんの名前が出るとは思っていなかったのか、鞠莉さんも果南さんも驚いた顔をしていた。離れた場所にいるSaint Snowに相談するくらい悩んでいたというのも伝わったみたいだ。

 

「果南ちゃんはどう思う?」

 

「千歌の言うとおりだと思うよ。千歌達が見付けるしかない」

 

「そうだね。私達の意見が入ったら意味無いもん」

 

「だよね」

 

「でも」

 

 一度アドバイスを突っぱねたけれど、果南さんはすっと立ち上がり千歌先輩の胸の鼓動する部分に指を当てた。

 

「気持ちはずっとここにあるよ。鞠莉の気持ち、ダイヤの気持ち、私の気持ちも、変わらずずっと」

 

「ずっと」

 

「そう。ずっと」

 

 具体的にどうするか、とかそう言うものじゃない。もっと、ずっと、凄く大切な事を言ったのだと何となく分かった。

 

「さ、明日も早いからもう寝るよ」

 

「じゃ、お休み」

 

 果南さんも言うべきこと、伝えるべきことは言ったとばかりに鞠莉さんと連れだって談話スペースを後にした。

 

「なんかちょっとだけ見えた。見えた気がする」

 

 嬉しそうにそう千歌先輩が言っていることに私も無言で同意するのだった。

 


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