ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
翌日、私は鞠莉さんの母親の行動に帯同しようと思っていたのだが、鞠莉さん達の準備が整うまでずっと見ているつもりか?と苦笑いされ、「日時が決まったらまた家に来るのデース」と逆に気を使われてしまった。
確かにその通りだなと思ったので、みんなに合流したかったのだが、みんなは色んな場所を転々と移動していたため、移動すれども中々うまく合流できず、結局みんなに会えたのは夜になってからだった。
まさか一人でイタリア観光をすることになろうとは思っていなかった。もっともーーーーー
「それよりももっと驚いたよ。まさかライブをするつもりなんて」
「3人だったら流石にそこまでは考えてなかったよ」
「でも今はみんなが揃ってる」
「スクールアイドルの素晴らしさを簡単に分かってもらうなら、見てもらうのが一番ですわ」
そう。鞠莉さんの母親を納得させるための手段をライブに決めたことで、この日は即席のライブ会場を探していたらしく、それで各地を巡っていたのだ。コロッセオ、ピサの斜塔、真実の口、スペイン広場、トレビの泉などなど。
ライブの場所はどこにしよう、と食事をしながらみんなで議論している。
2年生が思い付きで話し、3年生が現実的な方向に誘導し、おおよその意見が集束する。そこに妙案を放り込むが1年生だと、これまでの傾向ならばそんな議論になるのだけれど、今日は違った。
花丸ちゃんと善子ちゃんが珍しく強めの口調で口を開いたのだ。
「ちょっと聞いて欲しいことがあるずら」
「私達一年生でも話し合ってみたいんだけど?」
そして、意を決っしたようにルビィちゃんが立ち上がり、主張した。
「今回のライブの場所を、ルビィ達に決めさせて欲しい!」
「え?」
「これまてのルビィ達は千歌ちゃん達やお姉ちゃん達に頼ってばっかりだったから、だから、このライブは任せて欲しいの」
9人のAqoursとして、今後このメンバーでパフォーマンスをする機会がいつあるのか分からない。だからこそ、今、なのだ。3年生が目を見張るような存在になること、そして、それをこちらも実感できる機会は今しかないのだ。
それが分かっているから花丸ちゃんが、善子ちゃんが背中を推し、ルビィちゃんが踏み出したのだ。
私が昨日、小さな小さな一歩を踏み出したように、ルビィちゃん達もまた前に進もうとしている。それが私には心強かった。
「なら、カメラマンは私に任せて」
「月さん、それと合わせてなんだけど、ステージにする周辺に事前に根回しって出来ない?フラッシュモブで、とか理由にすれば善意で見逃してくれそうだけど」
「なるほどね。流石抜け目ないね」
「星とコンビ組んでると、無許可で色々やったから自然とね」
穹と月さんがそう言って苦笑いをしたのは私的には不本意だったけど、穹の懸念は確かに分かる。海外でトラブルなんてごめんだからだ。
ルビィちゃん達が今日、各地を見聞して得た感想をプレゼンしている間に、私と穹、月さんの3人で裏方の方法を考える。
「音響は?」
「場所にもよるけど、お店とかあるならスピーカーとか一時的に借りるとか?」
「警察とかは?」
「みんなの歓声と笑顔があれば大丈夫」
「カメラは1カメだけにする?」
「流石に人数が足りないしね」
「じゃあ、あとは・・・・・・」
「ルビィちゃん達の方で場所の結論が出たら間に1日開けて実行して貰おうよ。鞠莉さんの母親のスケジュールも確認しなきゃだし」
「そうだね。それで当日は私が迎えに行って、同行して貰うってことで良いよね?」
「そうしよう。ところで今思ったんだけど、カメラ必要ある?」
「勿論、私が見たいから・・・・・・じゃないよ、ホントホント。これは客観的にものが見えるようにと、証拠だよ」
なるほど、と私は月さんの考えに舌を巻いた。
ステージの様子だけでなく見てくれた人たちの反応も記録出来るし、鞠莉さんの母親が鞠莉さんを、スクールアイドルを認めるような発言があれば言質が取れる。最悪の場合、その場ではあまり盛り上がらなくてもネットに公開れば再生数で人気のほどは伺える。
「なるほどね。星ちゃんは浦の星女学院でこういうことをしていたんだね」
月さんは楽しそうに言う。
「正直、疑問だったんだよ。スクールアイドルでもなければマネージャーでもない星ちゃんがどうして曜ちゃん達と二人三脚で活動しているんだろうって」
「私は後ろから着いていくのでやっとですけどね」
「そうかもしれないね。でも、実際にこうやってみんなと一緒に居て分かったんだ。思った以上に単純な理由だった」
月さんは出会ってからそれほどこちらの行動に干渉はしてこなかった。寧ろこちらのことを鑑賞しているようであった。ただひたすらに影に徹して。
きっと月さんは好奇心も行動力も旺盛なのだろう。でなければ古巣とはいえイタリアまで同行なんてしないだろう。
「Aqoursのこと見てると自分もやらなきゃってそう思わされるんだよね」
その言葉に私は全面的に同意だった。
常に前に進もうとするAqoursの姿は見ていてハラハラすることもあるけれど、凄く応援したくなるし、なんだか力を貰えるのだ。もちろん、身内贔屓もあるけれど。
「星ちゃんはこの一年で前に進めた?」
「お陰さまで」
「そっか」
なら、私も頑張らないと、と小声で呟く月さんの姿が印象的だった。