ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
活動報告にてお知らせしたように、Animelo Summer Live3日間通しで参加したため、精神的も肉体的にも満身創痍でしたので執筆どころではありませんでした。
急遽決定したイタリア旅行の準備をしつつ私は穹から言われたことを想い、頭を悩ませていた。
父親との確執についてはもはや後には引けない。今更話などしようもないし、そもそもどんな顔して話せというのだ?
「分からないよ、穹・・・・・・」
なったことのない親の気持ちなど、私には分からない。それこそ人の親になんてなりたいとすら思わないし、全く理解できない。
だから理論立てて考えるしかないのだけれど、私はある程度の分別はつくタイプだとは自負しているし、高校生でも独り暮らししていける自信はあった。だから音ノ木坂学院に通うために独り暮らしというのも決して現実性が無い訳ではなかった筈だ。
だというのに父親の転勤に付き合わされたことを私は未だに根に持っている。合理的な理由がなければ納得なんて出来ない。
「ただいま」
悶々となりながらリビングの引き出しからパスポートやらなにやら旅行に必要になりそうなものを探していると、父親が帰宅した。
返事など絶対にしないのに相変わらず“ただいま”と言って帰宅する父親に私は辟易した。
声を聞くだけでイライラしてくるのは私が父親の事を意識していることに他ならない。
何故意識するのか?道端の石ころのような存在であれば意識にも止まらない、そんな存在に追いやりたいのに、何故感情はこうも向いてしまうのか?
和解したいから?いや、有り得ない。
なら私が父親に対して残る感情はもう恨みしかない筈だ。
私は纏まらない考えに舌打ちして、そう言えばと父親に対して久し振りに自分から話題を提供しようと口を開こうとして、やっぱりやめた。
その変わりメモに一筆入れてテーブルの上に伝言を残した。
「旅行行くので捜索願いとか間違えて出さないように」
一応、親権がある以上、社会的な立ち位置として父親は父親。余計なことをされる可能性は潰しておかなければならない。
本当に、家族なんてものはめんどくさい。
私はそう思いながら旅行鞄の中にパスポートを放り投げて自室へと引き上げた。
廊下で父親とすれ違った際、あからさまに黙りを決め込む私に、父親は悲しそうな顔をするけれど、それが余計に私を苛つかせた。
先に人の感情を無視したのは向こうだ。それがどの面下げてあんな顔をするのだと憤りを覚える。
「ちっ・・・・・・」
部屋に戻るとどさっと荷物を放り投げてベッドに横になる。
枕元にあるスマホを見ると着信履歴が残っていて、それは千歌先輩からだった。
思わず飛び起きて私は千歌先輩に折り返し電話をするとスリーコールで応答があった。
「星ちゃん?今大丈夫?」
「大丈夫です。千歌先輩も平気ですか?」
「うん。平気だよ」
電話に出てくれたことに私はホッと一息。だけど、一体どんな要件なのだろう?
「それでどうしたんです?私に電話なんて珍しい」
「うん。こないだ穹ちゃんを借りたでしょ。その時の話をしようかなって」
「はい」
「ずっと気になってた事があったんだ。星ちゃんはお父さんと仲直りしたのかなって」
「ああ」
それでか、と納得した。成り行き的に発覚した部分もあるけれど、穹がやけに私の家庭の事情に釘を刺してきたこと。その発端はこんなところにあったのだ。
思えば私の事を話したとき、解決していない問題は2つあった。1つは穹に嘘を吐いたまま放置状態になっていること。もう1つは家族との、主に父親との確執だ。
私が穹のことを一番に考えていたからそれほど父親のことは気にされていなかったと思っていたのだけれど、流石は千歌先輩。よく人の事を見ている。
「仲直りは無理ですよ」
「どうして?」
「許せないから」
「そっか」
千歌先輩は以外とあっさりとそう答えたので思わず面食らってしまった。
「千歌先輩は家族のこと、どう思ってるんです?旅館の娘なんて、家の手伝いやらされたりとか理不尽に生き方を縛られたりって思わないんですか?」
「んー・・・・・・思ってたこともあったかな」
「過去形ですか?」
「うん。過去形。私の場合は、なんだけど聞く?」
「はい」
「特にこれといって夢中になることが無かった頃は、なんでこんなことしてるのかなぁって。でもスクールアイドルを初めてから思ったの。これまでやらされてきたことを、ただやらされていたままにしちゃいけないって。意味を与えないとって」
「割り切ったってことですか?」
「んー・・・・・・それに近いのかな。それに思うんだ」
「何をです?」
「どんなお家に生まれたって何かに縛られる。それは避けられないことなんだって。だったら、それに意味を与えるか、もしくはーーーー」
「もしくは?」
「縛られている縄を解いて自由にするとかね。星ちゃんはどっちを選ぶの?」
「私はーーーーー」
「穹ちゃんとの距離があった時の星ちゃんは前者だったと思う。でもお父さんとのことになると星ちゃんは後者を選ぼうとしてるんじゃないの?」
「それは、悪いことですか?」
「好きか嫌いかの問題かな。穹ちゃんに黙っていたこと、それを無意味なものにしないために向き合っていた時の星ちゃんは凄く格好いいって、私はそう思ってるから」
「・・・・・・・」
「すぐにどうこうとは言わない。けど、考えることをやめないでね」
「はい・・・・・・おやすみなさい」
「おやすみ」
これ以上どう考えるというのか、それが分からない。
もういっそイタリアに行った鞠莉さんに相談してみるのが良いのかもしれない。恐らくは母親と確執のある鞠莉さんに。
私は遠い空の下にいる鞠莉さんに想いを馳せてカーテンの隙間から夜空を覗いた。
空には能天気に星々が煌めいていて、ちょっとやそっとでは動じてなんかいられないとでも言っているかのようだった。