ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
唐突に過ぎる鞠莉’s motherの来訪により私達は練習を中断し、Saint Snowの2人と月さんと連れ立ってあわしまマリンパークに併設されているホテル・オハラにやってきた。
来いと行っただけありホテル・オハラから送迎バスやフェリーの手配など全てされており、海岸から出て間も無く私達は時間も労力も掛けずにたどり着くことが出来た。流石はエリートなだけあり手回しはお手の物といったところなのだろう。
「何の話何だろう?」
「大切なって言ってたね」
「まさか、留学止めるとか!」
「それならきっと鞠莉ちゃんから直接連絡が来るずら」
なんて話ながらホテルの従業員に案内され、ホテル内にある音楽ホール“オデッセイ”に通された。
「はぁ、素敵なホールね」
「一曲どうですか、梨子さん」
「Aqoursの作曲を担うピアニストの腕、確かに興味あるかも」
高い丸天井はさそかし音の響きがよさそうだ。
太い柱に支えられたその衣装は古代ローマを彷彿とさせ、良い意味で雰囲気に飲まれやすいように出来ている。
ステージのピアノを弾いたらどんな音が聴こえるのか興味は勿論ある。
試しに手をパンッ、と叩くと音が反響して返ってくるのが分かる。
「凄いね。ルビィちゃんもやってみれば?」
「星ちゃん、もしてして子供扱いしてーーーー」
ルビィちゃんが言い終わる前にパンッと音がしたと思うとどうやら理亞ちゃんが手を叩いたらしい。
理亞ちゃんはルビィちゃんの言いかけたことばが耳に入っていたらしく耳を赤らめていた。
「ほ、ほら。全然子供じゃなくてもやるから」
「それフォローになってないんじゃないかな?」
「あ・か・りぃい」
「馬鹿にしてないって!ほんと、ホントに」
なんてホールの雰囲気をぶち壊しなから通されるまま用意された椅子に座って駄弁っていると、カツカツと甲高いヒールの音が響き、ド派手な真っ赤なトレンチコートが嫌味にならないセレブ美人である鞠莉さんの母親がホールのステージに姿を表した。
鞠莉ママさんは一礼するとピアノの前に腰かけ、滑らかな手付きで鍵盤を叩いた。
クラシックの知識は音楽の教科書で習ったにわか知識くらいしかないため、何の曲かは分からない。けれど、梨子先輩が羨望の目で見ているところを見るとそれなりに有名または難易度の高い楽曲を上手に弾いているのだろうことは分かる。
分からないのはこれがなんのパフォーマンスなのだろうか、ということだ。
鞠莉さんの母親だけあって興が乗ったというだけの単なるパフォーマンスの可能性もあるし、そう見せかけて自分のペースに引き込む演出なのかもしれない。
ただ、弾き終わるまで聴いて演奏そのものはとても素敵なものだったというのは本音から言える。
「みなさんのことはマリーからよく聞かされてました。学校のこと、本当に、ありがとうございまーす」
拍手もそこそこに応じ、鞠莉ママさんは千歌先輩を特に見詰めて片言ながらそう言い頭を下げた。
「いえ、そんな」
「そんなみなさんにお願いがあるのでーす」
「お願い?」
「実は卒業旅行に出た鞠莉達と連絡が取れないのでーす」
「連絡が取れない!?」
日常を離れた土地で音信不通とは穏やかではない。けれど、金持ちのしかもラブライブ優勝校の美少女が音信不通ならとっくにニュースで取り上げられてもおかしくないと思うし、警察に捜索依頼を出すだろうとも思う。
「そうなのでーす。ですので」
「ですので?」
「貴方達ならきっと鞠莉達を見つけられる、はーずー」
異国の血故なのかいちいち反応が大袈裟な鞠莉ママさんがそう言って天に両手を掲げると、あろうことか大量のコインが私達の頭上から降ってきた。それはもう、体が半分埋まるほどの量が、
「まさか、三人を見付けたらこのお金を!?」
「はぁーむ。チョコずら」
「はい。渡航費用は出すというパフォーマンスでーす」
「ですよねー」
「しかし、本当に見付けてくれたらそれ相応のお礼はいたしますので、是非」
どうにもキナ臭いことこの上ない。
なんとなく、そう、はじめて鞠莉さんとやり取りした時のように利用されているようなそんな気がする。
やっぱり家族なんだろうなと、見た目の印象以上に思った。
「ふ、任せて。この堕天使ヨハネのヨハネ・アイにかかれば三人を見付けることなど造作もないこと」
「お金に目が眩んだずらか?」
「何言ってんの。次のライブの資金に決まってんでしょ」
「ライブ!そうだよ。ルビィ達ライブがあるんだよ」
「でも行方不明なんだよね?心配は心配かも」
「どうする」
「うーん」
起きた事件にしては対応が余りにも楽観的過ぎる。だけど嘘を言ってまで私達に鞠莉さん達を探させようとする理由が分からない。
ならーーーーーー
「行ってきた方がいいと思います。先ほどみなさんの練習を見て思ったんです。理由はどうあれ一度卒業する三人と話をした方が良いって」
そう聖良さんの言うように行ってきた方が良いだろう。
利用されるにしても渡航費用を出してくれるのは大いに得だ。私達を鞠莉さん達と接触させることに狙いがあるとしても私達が見付けられなければ問題はない。
目的はどうあれ狙いどころさえ抑えておけばただ利用されるだけにはならない。
「でも」
「自分達で新しい一歩を踏み出す為に今までをきちんと振り返ることは悪いことでは無いと思いますよ」
まあ、利用するされる以前に、聖良さんの言う意味としても賛成だ。
先に進むにはもう一度Aqoursが9人揃わなければならないのだと思う。
「うん」
「千歌ちゃん」
「聖良さんの言う通りだと思う」
「ライブの練習はどこだって出来るし、これまでだってやってこれたじゃん」
「大丈夫。出来るよ」
「分かった。行こっか」
「星」
「分かってる。私達も行くよ」
そして私達のこれからを考える上でAqoursの見せる景色、出した結論はきっと参考になる。これまでそうだったのだから。
そして、そんなAqoursと一緒に居たいと思うし、穹に見せたいのだ。
「oh。ベリーベリーセンキューでーす」
「で、鞠莉ちゃん達三人はどこに卒業旅行に行ったんですか?」
私達は少し安易に考えていた。
千歌先輩の言葉でそう言えばどこだ、と思った。
「北の試練の地?南の秘境?」
「それが」
「それが?」
ぼんやりと温泉に入りたいな、なんて思ったのが馬鹿みたいだ。
完全に意図を見逃していたのだ。鞠莉ママさんは“渡航”と言ったのだ。
ならばそれが意味することは当然ながら国内にあらず。
「三人が旅しているのは私達小原家の先祖が暮らした地」
「それって」
「もしかして」
「ここでーす」
「ぇえええええ!?」
どでかくプロジェクターで写し出された地図にはヨーロッパの海に面した国、イタリアが映し出されていたのだった。