ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百八十話

 沼津まで来てくれたSaint Snowに向けて、私達ジェミニのアカリ、そしてAqoursと続けてパフォーマンスをした。

 聖良さんも、理亞ちゃんも真剣に見てくれたけれど、どこかその表情は固かった。

 

「なるほど」

 

「どうですか?」

 

「はっきり言いますよ。そのために私達を呼んだんでしょうし」

 

 聖良さんはそう物怖じせずに宣言する。

 そこにあるのはスクールアイドル活動に対する真摯さ、そして有識者として任命されたことに対する返礼だった。

 その口調は内容とは裏腹に穏やかな海のようで、けれど確実に波打つ、そんな響きだった。

 

「まずはジェミニのアカリですが、二人ともかつてのパフォーマンスと同等と言えるでしょう」

 

「同等」

 

「けれどそれは裏を返せば先に進めていないことに他なりません。個々のパフォーマンスのレベルは上達しているでしょうが、それが活かせていないように感じました」

 

 確かにそれは言えているかもしれない。

 曲は確かに最新のものだ。けれど、まだまだ合わせてパフォーマンスを出来ているのはかつてのレベルに落とし込んでいるからだ。

 事実、まだ穹は私と離れ離れになってから習得した技法、スラム奏法をパフォーマンスには取り入れていない。

 

「貴方達の強みは奇抜さとテクニックの融合。けれど、今のお二人は全開のパフォーマンスではないと、そう思いました」

 

 完全に図星だった。

 聖良さんの前でパフォーマンスをしたのは一度きり。それ以外の情報は公開しているPVしかないけれど、しっかりとそれらも把握した上での評価だと分かる。

 

「ジェミニのアカリはこの先、どのように活動をしていくのですか?」

 

「ーーーーーー」

 

 自らの過ちで失いかけたものは再び形を取り戻した。けれど今の私達には未来が描けていない。だから聖良さんの問い掛けに対する答えを私達はまだ持っていなかった。

 

「Aqoursのみなさんは・・・・・・」

 

「うん」

 

「ラブライブ優勝の時のパフォーマンスを100とすると、今のみなさんは30、いや20くらいと言って良いと思います」

 

「そんなに!?」

 

「半分の、半分ってこと!?」

 

 驚きの声を上げるのも無理はない。

 肉体的なスペックはあの頃と大差ないのだ。だから端からパフォーマンス見たときに受けとられる印象が当事者の認識と大きな違いとなっていることに驚いたのだ。

 

「それだけ3年生3人の存在は大きかった。松浦果南のリズム感とダンス、小原鞠莉の歌唱力、黒澤ダイヤの華やかさと存在感。それはAqoursの持つ明るさや元気さそのものでしたから。それがなくなって、不安で心が乱れている気がします」

 

「なんかふわふわして定まってないって感じ」

 

「う」

 

 具体的な聖良さんの評論と、理亞ちゃんの分かりやすいインスピレーションにぐうの音も出ない。

 

「見事に言い当てられてしまったみたいね」

 

 理亞ちゃんは複雑そうな表情で見ていた。

 ラブライブは遊びじゃないと公言するくらい入れ込んでいるスクールアイドル活動で、自分がライバルと認めている相手の未熟な姿は果たしてどの様に映ったのだろう?

 

「でも、どうしたら?」

 

「ーーーーーーっ!そんなの人に聞いたって分かる訳ないじゃない!全部、自分でやらなきゃ!」

 

 弱気になることは誰だってある。もともと気の弱い人ならば声にだって出してしまうことだってある。だけどルビィちゃんのその弱気な姿は理亞ちゃんには到底受け入れられなかったのだろう。

 自分を元気付けてくれたルビィちゃん。自分と同じくらいスクールアイドルが好きなルビィちゃん。二つ年上の同じスクールアイドルをしていた姉を持つ気持ちが分かるルビィちゃん。そんなルビィちゃんが弱気になっていることに怒りさえ感じているかのような語気だった。

 

「理亞ちゃん・・・・・・」

 

「姉さま達はもうーーーーー居ないの!」

 

 そういって理亞ちゃんは砂浜を走り去ってしまう。

 

「すみません」

 

「理亞ちゃん、新しいスクールアイドル始めたんですか?」

 

「そのつもりはあるみたいですけど、なかなか。新しく一緒に始めようって何人かは集まったみたいですが、あんまりうまくいってないようで」

 

「あの性格だもんね」

 

「人のこと言えるずらか?」

 

「うっさいわい!」

 

 聖良さんの言葉で先ほどルビィちゃんに向けた言葉の意味、その語気の強さの意味が分かった。

 あれは理亞ちゃん自信にも向かっている言葉なのだ。

 ふわふわして定まってないって感じと理亞ちゃんは言っていた。全部自分でやらなきゃとも言っていた。その重みは本当に1人で抱えなければならないのか?

 

「理亞ちゃんーーーーーー」

 

 少なくともそうではないと私は思う。

 遠ざかる理亞ちゃんの背中を追いかける人が居る。

 かつてはその遠かった背中も今では追い付いて一緒に並んで走れるくらいになった戦友が居るのだ。

 

「ねえ穹」

 

「なになに?」

 

「どうしよっか、私達」

 

「んー・・・・・・そうだなぁ」

 

 穹に問い掛けたものの答えは轟音と暴風に遮られた。

 ご都合主義の自然風ではない。人工的で人為的な、ヘリコプターの急な飛来によるものだ。

 派手なピンク色の躯体には見覚えがある。

 

「ま、ま、ま、鞠莉ちゃんだ!?」

 

「ずら!?」

 

「鞠莉、じゃない?」

 

 それは小原家の所有するヘリコプター。けれど、そこから顔を覗かせたのは鞠莉さんではなかった。

 

「my daughterがいつもお世話になっておりまーす、小原鞠莉の母、鞠莉’s motherでーす」

 

 派手だけど艶のあるロングの金髪は成る程、確かに鞠莉さんの母親らしい出で立ちだった。

 

「みなさんにー、鞠莉についての大切な話がありまーす」

 

「大切な?」

 

「話?」

 

「と言うわけで淡島まで来てくださーい」

 

「へ?」

 

 そう言葉を残し飛び去ってしまった。

 鞠莉さんの名前を出されては無視することもできず、私達は全会一致のもと淡島へと向かうことになる。

 その際に、ふらりと練習を覗きにきた月さんと合流出来たのは不幸中の幸いだった。

 


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