ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百七十九話

 翌朝はなんとも言えない気まずさを抱えながらも努めて普通に穹と接して朝食の時間を過ごした。なんとなく昨日の晩御飯同様に味気なく感じてしまうことに自己嫌悪を催しながら兎に角腹に物を入れた。

 今日はまた東郷海水浴場でAqoursのみんなと集合して体を動かす予定なのだ。

 

「星」

 

「何?」

 

「すぐに答えを出せとは言わない」

 

「うん」

 

「でも考えることを、感じることを止めないで」

 

「答えを出すってことは考えること、感じることの終点なんじゃないの?」

 

「あれ!?確かに」

 

 なんとなく良いことを言おうとしていた穹の慌てふためく様子を見ると思わず私の口からため息が溢れた。

 穹は頭が良い。けれどその頭にある答えを人に分かるように伝えるのは上手いとは決して言えない。

 

「確認するけど私と父親のことって穹に関係ある?」

 

「んー・・・正確に言うなら楽曲制作に関係するかな」

 

「は?」

 

「ほら、分かってない」

 

 穹はそう勝ち逃げするように言ってバッグを豪快に肩から掛けると「ほら、行くよ」と急かすように玄関に駆け出していった。

 一連のやりとりに穹からは気まずさを感じなかった。きっと穹からすればどの話も必要なことで、本当に私のためを思っているからこそなのだろう。

 

「意味が分からないよ、穹」

 

 心意が全く分からず混乱する私を他所に、穹はとっとと外へと飛び出してしまう。

 慌てて私もバッグを掴んで家から飛び出すと、まだ初春の朝だと言うのにもやっとした熱さが押し寄せる。ラブライブ決勝の頃はまだ朝は寒かったというのに嫌でも時の経過を感じさせる。

 

「遅い。時間は有限だよ?明日には私はもう埼玉なんだからね?」

 

「分かってる」

 

 穹は相変わらず掴み所がない。

 私は穹と並んでバス停まで歩きながら話を続ける。けれどそこには脈絡が無く、ただただ穹からの質問攻めに終始した。

 浦の星女学院を受験しに来た時の感想、仲の良い同級生のこと、この一年弱の個人的音楽チャート、などなどまだまだ話したりないことは山ほどあるのだ。一年の空白を埋めるように話をしているとやっぱりお互いに知らないこともあったりして、改めて時間の経過を感じた。

 そして移動の時間だけでは空白を埋めるには足りず気が付けば海水浴場まで辿り着いていた。

 

「どうも私達が一番は最後みたいね」

 

 砂浜ではみんなが既に準備運動を始めていた。

 広げられているビニールシートの上にバッグを放り投げ、挨拶もそこそこに私達もそれに加わる。

 

「揃ったね」

 

「実はまだなんだけど練習始めようか」

 

「まだ?どういうこと?」

 

「昨日、聖良さんに連絡したらこっちに来てくれるって言ってて」

 

「Saint Snowさん来るの!?」

 

 千歌先輩の発言に思いがけずみんな喜色の声をあげる。

 ラブライブで共に競った好敵手。そしてスクールアイドルとして同じステージでパフォーマンスをした同志なのだ。歓迎しない訳がない。

 

「でも何でまた?」

 

「ただ会いたいから、ってだけじゃないでしょ?」

 

「うん。今の私達のパフォーマンスを見てもらいたくて」

 

 曜先輩と梨子先輩の指摘に千歌先輩は少し申し訳なさそうにして答えた。勝手に話を進めてしまったことに後ろめたさがあるのだろう。

 

「練習はしてる。スクールアイドルを続ける気持ちもある。でも足りない」

 

「だからそれが何なのかを見つけるずら?」

 

「第三者の、しかもこれ以上信頼感のある視点は他に思い付かないわね」

 

 善子ちゃんの言うことは最もだ。私の視点ではもうAqoursに寄り過ぎているし、穹はパフォーマーとしてはともかくスクールアイドルという視点ではない。

 

「でもわざわざこっちに呼び出すなんて、理亞ちゃん怒ってないかな?」

 

「その心配には及びませんよ」

 

 ルビィちゃんの心配を遮ったのはいつの間に到着したのかSaint Snowの鹿角聖良さんだった。

 到着時間を鑑みるにどうやら私達の次のバスだったらしい。Saint Snowの二人がお正月以来、沼津の砂浜にやって来た。

 そういえば聖良さんの卒業旅行で東京巡りしていたらしいことは知っていたけれど、随分早い到着だ。東京からなら始発レベルだ。

「理亞も凄く来たがってましたから」

 

「姉さま!?」

 

「へぇ」

 

 相変わらず素直じゃないところがあるけれど、来たがっていたと思ってくれていたことがこちらとしては素直に嬉しい。

 私達は思わずにやけてしまうのを理亞ちゃんは頬を膨らませて、けれど否定はせずに唸っていた。

 

「じゃあ早速ですけれど見てもらえますか?今の私達のパフォーマンスを」

 

「はい。それと、折角来たんですしこれも何かの巡り合わせ」

 

「はい?」

 

「ジェミニのアカリのパフォーマンスも見せて貰えますか?」

 

 聖良さんからの提案に私も穹も思わず顔を見合わせる。

 そう言えば折角二人が揃っているのに一度もパフォーマンスを披露していないのだ。

 穹はニヤリと不敵に笑って問い掛けてくる。

 

「だってさ。どうする、星?」

 

 私も連れて思わず笑みが溢れる。

 

「こんなにオーディエンスがいるんだし、やるしかないでしょ」

 

 OK、と芝居がかった言い方で穹はギターケースを開け、私はポケットからハーモニカを取り出す。

 

「リクエストは何かあります?」

 

「渾身の一曲を」

 

「ならーーーーー」

 

「うん。それでは聴いてくださいーーーー“Brand New My World”」

 

 それはラブライブ決勝の日、私が穹に伝えた渾身の一曲だ。前回はAqoursに力を借りて仮歌を入れてもらっていたけれど、今回は完全にジェミニのアカリ仕様。

 私達はここ数日で慣れ親しんだ熱い砂の絨毯の上で雲のように軽く跳ね回った。

 


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