ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

177 / 206
第百七十六話

 部活説明会の行われている講堂は少なくとも300人程は収容できる規模の広さがあり、学校行事ということも相まって満員御礼だった。とは言えラブライブ決勝の会場となった秋葉ドームとは比べるまでもない広さだ。

 ただ私は広さの違い以上に感じたのは空気感が違うということだ。

 

「みんな大丈夫?」

 

 その空気感に当てられて舞台袖で私は思わずそう聞いてしまった。

 少し考えれば当然なのだが、ラブライブ決勝の時に来ていた人たちは心の底からスクールアイドルを見に来ている人達だ。ここに部活説明会を見に来ている人たちとは心持ちが違うのだから空気感が違うのも当然と言えよう。

 

「思ったより6人って」

 

「少ないのかも」

 

 そして帰ってきた答えはルビィちゃんや花丸ちゃんの弱々しい言葉だった。

 Aqoursは6人になっても続けていく。その結論に至ったものの、やはりどこか違和感を拭えないの。それはメンバーではない私ですらそうなのだから当事者からすればより大きなものなのだろう。

 それにだ。今日は制服のままパフォーマンスをするのだ。衣装に身を包むときのような概念を羽織ることが出来ないのだ。

 

「浦の星のみんなのために」

 

「そうね」

 

「大丈夫、できるよ」

 

 それでも前に、と気丈に振る舞う新三年生の三人はそうみんなを鼓舞する。

 

「じゃあ客席から見てますから」

 

 それがどうにも空々しく聞こえてしまうのはきっと新三年生の三人ですら6人が少ないと感じているからなのだろう。

 ステージでのAqoursの爆発力を信じるしか私には出来ない。せめて一人でも多くAqoursを応援する人がいられるようにと穹を連れて私は客席側に移動する。

 私達が客席側に移動した頃にはステージでは弓道部が型を披露していた。スクールアイドル部の紹介は次だ。

 

「ねえ星」

 

「何?」

 

「Aqours、大丈夫なの?」

 

「分からない。けど、やるしかない」

 

「殆んど絡むこと無かったからあまり分からないけど、Aqoursの三年生ってそんなに凄い人達だったの?」

 

「そうだね・・・・・・凄いよ。叶わないなって思うくらい」

 

 ダイヤさん、果南さん、鞠莉さん。ステージでのパフォーマンス力もさることながらそれぞれ思慮深さがあり、良い意味で真似できないと思わせる人間性がある。

 

「へぇ。それで全員揃ったら無敵のあのパフォーマンスだったって訳ね」

 

 穹が思い描いているのはきっとラブライブ決勝の時の“WATER BLUE NEW WORLD”のことだろう。

 そう。みんなが全力で想いをぶつけたあの時、Aqoursは本当に無敵のように思えた。けれど今、ぶつける先を見据えられているのか?全力を注げているのか?

 

「それでは、これよりこの春から本校と統合になる浦の星女学院スクールアイドル部、Aqoursによるライブを行いたいと思います」

 

 弓道部の説明が終わり、次いで紹介されるのは我らがスクールアイドル部だ。

 司会進行のアナウンスで会場が少しざわつく。

 そして好奇の視線がステージのみんなに注がれる。

 私はただ拍手でしか彼女達の力になれず、連れて拍手してくれる人も疎らだった。

 分かりやすいくらいにアウェーだ。

 けど、Aqoursはいつだって逆境を乗り越えてきたのだ。だから今回も、と思いたいけれど、不安が胸を締め付ける。

 みんなの顔を見ても緊張感がこちらに伝わるようなぎこちない笑顔。安心なんてさせてくれない。

 

「みんな・・・・・・」

 

 頑張って、と祈りながら新曲“Next SPARKLING!!”のパフォーマンスを見守る。

 どこか懐かしさを覚えるようなストリングスのサウンドそれに合わせて踊るみんなの動きは流石はラブライブ優勝しただけあり滑らかだ。だけど合ってない。連携が微妙にずれているのが直ぐに分かってしまった。

 なにより致命的に思えたのは歌唱だ。

 とても素敵な歌詞なのにそこに実感が伴っていない、とでも言うのか、とにかく身が入っていない、というか響いてこないのだ。

 私の感覚的なものだから言語化しづらいのだが、その違和感は穹や他の客席の人達も同じようで、ライブ後の一瞬の静寂の後に起きた疎らな拍手がそれを物語っていた。

 そしてAqoursみんなの表情もまた心の底からの笑顔にはとてもではないけれど見えなかった。

 

「技術はあるのは確かなんだけど、なんだろう?足りない・・・・・・・あの時みたいな羽が見えない?」

 

 ライブが終わり、穹はぶつぶつと呟いている。

 気持ちは分かる。私も同じだ。言語化出来ない違和感の正体。それが分からないことには次も同じことが起こりかねない。

 私と穹はそそくさと座席を立ちみんなのところに向かう。

 道中ヒソヒソと聴こえる声には落胆の声があったけれど、ごく少数ながら「かわいかったね」とか「スクールアイドルの曲って自分たちで作ってるんでしょ?凄いね」とか関心を向ける内容のものもあったのが救いだった。

 

「とりあえず」

 

「うん。仕切り直しだね」

 

「星。私達の活動もだよ」

 

「分かってる」

 

 今回の発端となった大人にどうこう言う前に先ずは自分達から、と私は頭に冷や水を浴びせられたような気分で講堂を後にするのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。