ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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ちょっとAqoursのライブ参戦のためロサンゼルスまで行ってきますので今週は早めに更新いたします。


第百七十五話

 なんというか人間目的があると時間の経過が早くなる。特にAqoursの面々は色々と忙しかったのは側で見ていてもよく分かった。

 月さんの根回しで部活説明会にスクールアイドル部の紹介時間を設けて貰えることになるのにも時間が掛かったし、それ以降の打ち合わせも時間を要した。そして打ち合わせの経過もあまり芳しくはなかった。照明や音響などの演出効果を見込めないことなど条件は良くないのだ。それでも6人となったAqoursでやっていくため、浦の星女学院のみんなのため今日、私達は静真高等学校に集まった。

 この学校は沼津駅から見て北側に位置し、浦の星女学院よりも遥かに交通の便もいい。

 デザイン性のある作りで校門の正面に構えている入口は大きな口を開くように高い柱で天井を支えているような意匠だった。

 

「本当に制服でパフォーマンスするんですか?一応、衣装も持ってきましたけど」

 

「うん。元浦の星女学院の代表として出るんだもん。一目でそれと分かるようにしないと」

 

「それにスクールアイドルは学生の部活の延長線にあるってちゃんと分かって貰いたいしね」

 

「普通の高校生が力を合わせるとこんなにも輝ける。そう感じさせてくれたPVも学校の制服で踊ってたしね」

 

 いつしか背中を追うことのなくなった存在を千歌先輩は再び話題に出したことが少し意外だった。けれど、千歌先輩のスクールアイドルのそのはじまり方が今に繋がったのならば、新たなはじまりもそれを意識したものであってもどこかへ繋がっていくだろう。

 

「あーあ。勿体ないな。折角綺麗な衣装なのに」

 

「また着られるよ。スクールアイドルを続けていく限り」

 

「そのためにも、新しい学校でしっかり私達の居場所を作るずら」

 

「そうだね」

 

 一歩先は静真高等学校の敷地だ。そこにいるのは私達には馴染みの薄い薄い紺色のブレザーに身を包む新入生と保護者達。

 その中の幾人かは浦の星女学院の制服を着る私達のことを不思議そうに見ている者もいた。

 

「あ、あれは!」

 

「どうしたの善子ちゃん?」

 

「あ、あれは能力者!私の前世を知る者!」

 

 校門の壁に隠れる善子ちゃんが戦慄くように言ったのは要は中学時代の知り合いが居た、という事なのだろう。隠れるあたり余程中学時代を黒歴史に感じているらしい。

 

「やっぱり帰る」

 

「待ちなさい。学校とみんなのためよ」

 

 それを言われると弱い、と善子ちゃんは渋々ながら引けた腰をどうにか戻した。

 けれど、腰が引けているのは善子ちゃんだけじゃない。

 ルビィちゃんも梨子先輩も、千歌先輩だってそうだ。

 

「行きましょう。この学校はもう他校じゃないんですから」

 

「はじめましてのご挨拶。しっかり決めないとだね」

 

「いや、穹は他校の生徒だからね」

 

「分かってる。気分の問題よ、気分の」

 

 だからこういうときにこそ部外者の力を貸すときなのだ。

 私と穹は軽い歩調で一歩を踏み出し静真高等学校の敷地に跨いだ。

 

「新しい場所だって楽しいことは見付けられる」

 

「それ、この一年の教訓?」

 

「教訓」

 

 但し、助けてくれる人達との出逢いがあればだけれど。きっとそんな人だっている筈だ。月さんがそうであるように、反対する保護者達に反論してくれた他の生徒や教職員のように。

 その人達とはまだ足並みを揃えられていないけれど、それならば今は私と穹が力になるだけの話だ。

 

「そうだね。なんとかなる。はじめよう」

 

「きみここずら」

 

「そうだね。ガンバルビィ!」

 

 千歌先輩はそうみんなを鼓舞して一歩を踏み出すとみんなもまたそれに連れられるように敷地内へと入った。

 

「いらっしゃいみんな」

 

「月ちゃん」

 

 程なくして案内人である月さんが校門まで私たちを迎えに来た。

 

「今日はよろしくね」

 

「うん。ありがとう力を貸してくれて」

 

「ううん。寧ろこれくらいしか力を貸せなくてごめんね。みんなみたいに学校全体で一丸になるくらい出来たらよかったんだけど」

 

 月さんはきっと曜先輩から聞いていたのだろう。浦の星女学院で生徒達がどんなことをしていたのか、どれほど本気だったのかを。だからこそこうして力を貸してくれているのだろう。今はそれだけでもありがたい。

 

「折角ですし、本気だってことを認めさせるだけじゃなくて新入生がスクールアイドル部に入りたいって思えるようにアピールしてきてください」

 

「はーい。私スクールアイドル部に入りたいでーす」

 

「あんたは 音ノ木坂学院の生徒でしょうが」

 

 生徒の多くから寄せられる好奇の視線。保護者の一部から寄せられる偏見の眼差し。それらをどうかはねのけてAqoursらしさを見せて欲しい。そう願い、私達は月さんの後に続いて校舎内へと入った。

 ただ一つ、ふと思ったことがあった。

 Aqoursらしさとは、新しいAqoursとはなんだろうと。

 その疑問はAqoursではない私だからこそ分かっていないだけなのか、それとも今日に照準を合わせて練習していたAqours自身もまたそうなのか私には判断できなかった。そして、本番目前に混乱させるような質問する蛮勇もまた私にはなかった。

 


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