ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
私達は来る部活説明会に向けて練習するべく取り合えず島郷海水浴場の砂浜に足を運んだ。
ここは千歌先輩達がまだ三人でAqoursをやっていた頃の練習場所の一つだ。長い海岸線はランニングにはもってこいだし、平日は人気も殆どないため周囲を気にしなくてもいい。
ここにくるまでそれなりに時間が経過したけれど私の腹の虫は中々収まらず、移動中はTwitterなどでこの件についてやりとりされていないか調べたりするほどだった。流石に簡単に検索に出るようなやりとりはされていなかった。
もし堂々と理不尽なやりとりがされていたなら身元特定して晒してやろうかとも思ったのだが、そんな迂闊なことはしていないらしい。
「何ムキになってんのよ」
「ズバリ言わないでよ」
みんな気を使ってか私に言葉を掛けて来なかったくらい露骨に態度に出ていたからか、見かねて穹が指摘した。あっけらかんとそんなことが出来る穹にみんなが驚いていた。
「私達は大人の都合で人生を左右される筋合いはない」
「そう言えばいつだったか話したね。生まれることこそが最大の理不尽だ、みたいなこと」
「そうだよ。例えこうあって欲しいって望まれて生まれたとしてもそれを強制されるのは違う。只でさえ生まれることを強制されているのにそれ以上を強制されるのは奴隷と同じだよ」
「アンタまさかまだ父親と和解してないの?」
「する必要が無いからね」
穹は呆れたというか、悲しいというか、曰く言い難い表情を浮かべた。
引っ越し騒動が起きてから一年以上は既に経過している。それだけ時間がありながら和解出来ないとは考えて居なかったのだろう。
「勿論むやみに拒絶している訳ではないよ。でも、納得したり許したりは別の問題」
家族だから、血が繋がっているから分かり合えるなんてのは幻想だ。所詮家族なんて生活共同体の単位に過ぎないのだ。
今の環境を受け入れられたとは言え、別の未来を潰した父親を許すつもりはない。
「いい?今回の部活説明会はアンタの個人的な怒りを押しつける場じゃないんだからね」
「・・・分かってるよ」
とは言ったものの、穹とのやり取りがなければこの気持ちを落ち着けられたのか自信がない。
クールダウンしなければと私は穹に所持品を放り投げるように渡すと服を脱いで海に駆け出した。流石に下着は脱がなかったけど。
「星ちゃん!?」
私の奇行に驚きの声が上がるけれどそれを無視して砂浜を全力で駆け抜け頭から海へとダイブする。一気に襲い掛かる冷たい圧力は私の頭を、体を冷やすには十分過ぎるほどだった。
埼玉にいた頃は泳ぎは好きでも嫌いでも無かった。今でもそれは変わらないけれど、この海は好きだ。ここは私達の町の海だから。
「ぶはぁ!あー気持ちー」
一泳ぎして砂浜に戻る頃には私の身も心も冷え冷えだ。濡れた下着は着心地が悪く、いっそのこと脱いでしまいたい気分にもなったけれど流石にそれは自重した。
「服、服!」
みんなは慌てた様子でタオルを私に投げ付けてくる。流石に七人分は多すぎると思うのだけれど、私はありがたくそれをキャッチした。
「どうせ誰も来ないよ。今日平日だし」
「だからって」
まだ海は冷たい。それこそ凍えてしまうような冷たさだ。けれど沸騰しそうだった頭を冷やすにはこれくらいが丁度良かったのだ。実際、今はだいぶマシな気分になった。
「そう言えば梨子先輩、制服の下にスク水仕込んで飛び込んだことあるんですって?」
「何でそれを!?もしかして・・・・・・千ー歌ーちゃーん」
「あれ?話したことあったっけかな?あははは」
そんな風に梨子先輩と千歌先輩をからかう程度には。
「はいはい。それより何しにここに来たんだっけ?」
「練習そろそろしないとだね」
「練習の前に部活説明会の曲はどうするずら?」
6人の曲として“夢で夜空を照らしたい”があるけれど、あれはみんなが協力してくれてこそ素晴らしい作品になった由来がある。みんなの力を借りられない場ではその魅力を十全には引き出せないだろう。
個人的にはあの大きなリボンの付いた柔らかな生地感の衣装はとても好きなのだけれど。
「実は曲、考えてたんだ」
「梨子ちゃん、いつの間に?」
「少しずつ準備してたの」
梨子先輩は珍しくイタズラっぽく笑うけれど、それはどこか寂しげで何となくだけれど空元気なのではないかとも思えた。
来る別れに備えて新曲を準備するというのはどんな気持ちだったのだろう?そしてその気持ちに整理はついているのだろうか?
「今回はタイトルも勝手ながら考えてたの」
「それで、タイトルは?」
「“Next SPARKLING!!””」
それにどんな願いが込められているのか言われずともみんなが察したのか、誰も反対の意見は出てこなかった。
こうして部活説明会に向けて、基礎練習、新曲の作詞、歌唱とダンスの練習と短い時間ながら進めていくことになった。
「“Next SPARKLING”・・・・・・」
私もまた見付けなければならない。そう思い穹と顔を見合せると、無言で頷き合うのであった。
「私達も練習に付き合っていいかな?」
「穹ちゃんずっと此方にいるつもりなの?」
「春休みだからね」
「いや、アンタんとこまだ終業式まだでしょうに」
テヘペロ、とあざとく舌を出す穹にげんなりしながら私は借りたタオルで体を拭く。
「星ちゃんたちのパフォーマンス見る機会も遠からずあるのかな?」
「函館の時はカバー曲だったしね。今度はジェミニのアカリだけのパフォーマンスを見たいね」
「オリジナルはまだ早いかな。でも試運転がてらカバー曲でもみんなに披露しましょうか?」
体も拭き終え、タオルを肩に掛けてそう申し出るけれど、みんな揃って私の提案を無視して一言。
「服着ろ」
相変わらず人気はないのだけれど、と思いつつもみんなからそう言われるといい加減羞恥心も湧くというものだ。
私はタオルを体に巻き、下着が乾くのを待ちながらみんなの練習を見学することとなった。