ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百七十二話

 往来のど真ん中で姦しく語るのも憚られるので私達は再びヤバ珈琲に入り、四五六トリオ含めて話をすることにした。

 意味深なことを言った月さんの言葉から察するに何かしらの情報を持っていると思っていたが、どうやら当たりだったようだ。

 

「え?じゃあ、あの学校の生徒なの?」

 

 なんでも月さんは件の静真高等学校の生徒であり、しかも生徒会長とのことだ。私達とは真逆の立場での情報はかなり確度の高い情報となるだろう。

 

「うん。入学前曜ちゃんにも一緒に通わないって誘ったんだけど、曜ちゃんは千歌ちゃんと一緒の学校が良いって」

 

 けれど、そこは華の女子高生。話は本筋から容易に逸れてしまう。いや、多分本筋を話すことに幾らかの抵抗があるのかもしれない。もっとも、曜先輩を弄るあたり本心から人との会話が楽しいだけってことも十分に考えられる。

 まだまだどんな人間なのかは分からないけれど、月さんも曜先輩と似て掴み所のない部分がありそうだ。

 

「そ、そうだったっけ?」

 

「照れることないじゃない」

 

「あ、君が梨子ちゃんだね」

 

「はい」

 

「いつも曜ちゃんが言ってるよ。尊敬してるって」

 

「あ、そんな」

 

「照れることないじゃない」

 

「千歌ちゃん、ルビィちゃん、花丸ちゃん、善子ちゃん。曜ちゃん本当にAqoursのことが好きみたいで会うたびにみんなのこと話してるんだよ。いつも思うんだ。もうAqoursは曜ちゃんの一部なんだなぁって」

 

 初対面なはずなのに一目見て相手が誰なのか分かってしまうあたり、曜先輩から話を聞いているというのは本当なのだろう。きっと初めて会うのに初めてな気がしないのではなかろうか。例えるなら頻繁にやりとりするTwitterの相互フォローしている人とリアルで会うような感じだろう。

 

「なんかそう言われるとホント恥ずかしいよ」

 

「あはは」

 

「さっすが曜ちゃんずらね。裏表が無いというか?」

 

「何で私のことみるのよ!?」

 

「それに星ちゃん。君のことも言ってたよ」

 

「それは気になりますね。因みに何と?」

 

「もー、これ以上いいでしょ。本題に入ろうよ」

 

 照れる曜先輩は可愛い。照れなくても勿論可愛いけれど、普段飄々としていることが多いから、こんな風に弄られて照れる姿は新鮮だ。

 それはきっと月さんも分かっているのだろう。だからそんな曜先輩の姿を見て満足げにカラカラと笑っている。

 

「どうして分校なんてことに?」

 

「誰よ浦の星がイヤなんて言ってんの」

 

「あー・・・うちの学校、昔から部活動が活発でね、幾つかの部活は全国大会に出るほどで」

 

 月さんは遂にその話題が来たかと言いづらそうに前置きをして続けた。

 

「浦の星の生徒が入ってくると部がだらけた空気になったり、対立が起こるんじゃないかって一部の父兄が言っているらしくって」

 

「そんな!」

 

「なんでそう言う話になるのよ」

 

「だよね。僕たち生徒も、先生たちも心配ないって説得したんだけど、部活がダメになったらどうするんだとか、責任とれるのかとか」

 

 月さんは本当にまいった、といった表情でそれを語った。多分、その話し合いがされた当時のことを思い出しているのだろう。

 

「そんなこと言い始めたら何も出来ないと思うけど」

 

 どうにも困ったことにモンスターペアレント、通称モンペはこの沼津にも存在しているらしい。

 話を聞いていると沸々と怒りが沸き上がってくる。

 文句を言っているバカ親は何様なのだろうか。そもそもテメエの為に子供が何かをしている訳ではない。誰のための部活なのか、何のための部活なのか、それを見失ってる耄碌したバカの言うことなど聞く必要などないではないか。

 

「星・・・・・・」

 

 ふざけるな、と頭が完全沸騰しそうになるのを私は抑えるので精一杯だった。

 私達の自由を、意思を、夢を親の都合でねじ曲げられるのは我慢ならない。それは当事者となったからこそ人一倍強くそう思う。

 

「バカなことでも声を大きくして言うとそれっぽく聞こえるし、賛同する人が出るから不思議だよね」

 

 私の内心を察してか穹が皮肉げに言ったことを誰も否定しなかった。

 実際に社会的な問題でもあるのだ。

 モンペのような自分の価値観の押し付け、声がでかいだけのバカによる扇動、それに追従する蒙昧な輩。そんな連中が幅を効かせることでブラック企業などが跋扈する社会が出来上がったのではないかと嘘か真かはさておき言われる程なのだ。正直冗談じゃないと思う。

 

「それでね、どうしたらいいかって相談してたんだ」

 

「全面戦争」

 

「そんなわけないでしょ」

 

「その人たちが気にしてるのは浦の星の生徒が部活でも真面目にちゃんとやってけるかってところなんだと思う」

 

「だから、実績のある部活もあるよって証明できればいいんだよ」

 

 外からの視点で真面目か否かの判断は実績以外には材料が無い。そして浦の星女学院にはそんな実績を残している部活は一つしかないのだ。

 

「部活」

 

「証明するって言っても」

 

「そんな部活・・・・・・」

 

「あるでしょ」

 

「全国大会で優勝した部活が一つだけ」

 

「私達スクールアイドル部が新しい学校の他の部活にも負けないくらい真面目に本気で活動していて人を感動させてるんだって分かってもらえればいいんじゃない?」

 

「それ、それいい」

 

「でしょ」

 

「ライブでもやるつもり?」

 

「それもいいけど、実は来週、丁度いいイベントがあるんだ」

 

 なんでも新入生向けに部活説明会があるとのことで、そこには新入生や保護者が出席することとなっているらしい。

 そこに少しだけ時間を貰い、浦の星女学院の代表としてAqoursがパフォーマンスをすれば或いは、反対意見を覆すことが出来るのではないかということだった。

 

「千歌先輩!」

 

 結局また矢面に立たせることになるのに後ろめたさはあるけれど、絶好の機会であることには違いない。

 小うるさい大人を黙らせてやりたい。その一心で私は声を挙げてしまった。

 

「うん。やろう!」

 

 こうしてAqoursは再び学校のために活動することになり、私はどこか別の方向を向きながらAqoursのバックアップをすることとなった。

 


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