ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第十六話

 海。そうだ、海だ。断じて園田海未ではない。園田海未とは誰だって?馬鹿野郎、μ’sのブルー担当だ。

 ん?何を言っているかって?海だ。私は海に来ている。

 何故こんなことになったのか?それは学園長だ。

 あのハイテンション学園長は何をとち狂ったのかシャイニーと雄叫びを上げながら私にパシリを頼ん、いや強制した。

 どうにも書類と添え状を届けて欲しいとのことだったのだが、どうやら休学している生徒の元に復学届を持って行かせようというのだ。不安過ぎる。

 休学とか訳あり感がプンプンするので是非とも避けたいのだが、行かなければペナルティー、行けば特典があるとのことだった。因みにペナルティーも特典も何かは秘密とのことだ。胡散臭い事この上ない。しかもあの学園長、私を送り出す時にデンジャーとか抜かしていたから余計に不安だ。

 

「ここか」

 

 小さな船着場に程近いダイビングショップ。そこの娘が件の人物とのことだ。学年は三年生。先輩だ。きっとダイビングをやっているくらいだからギャルに違いない。きっと色黒でパツキンのチャンネーでパーティーピーポーに違いない。偏見だろうが、そうに違いないったら違いないのだ。

 

「ごめんくださーい」

 

 私は気合いを入れてガラガラと引き戸を開く。

 店内は平日だけあり閑古鳥。客はいなかった。その代わりにすらりとした色白のポニーテールの美人なお姉さんが店番をしたいた。

 

「すみません。浦の星女学院の黒松と申しますが、学園長からのお使いで参りました。松浦果南さんは居られますか?」

 

「お使い?ご苦労さま。どうせ鞠莉のことだから人を振り回してるんでしょ?」

 

「ええ。その通りです」

 

 どうやらポニーさんは学園長と知り合いらしい。話が早くて助かる。

 

「鞠莉なんか伝言とか言ってなかった?」

 

「伝言はありませんが、添え状なら頂きましたよ」

 

「見せて」

 

「え、でも松浦さん宛てですよ?」

 

 ポニーさんは「ん?」と首を傾げると、思い至ったように手を叩いた。

 

「ああ、まだ自己紹介がまだだったね。私が松浦果南だよ」

 

「え?パツキンのチャンネーでデンジャラスなパーティーピーポーでは?」

 

「どんなイメージよそれ。沼津にそんな子いないよ」

 

 ポニーテールさんこと松浦果南さんは呆れ顔で私から添え状と書類を受け取ると、添え状に目を通す。

 

「千歌達頑張ってるのね」

 

「千歌先輩ともお知り合いなんですね」

 

「幼馴染みなの。ご近所さんだしね」

 

 ほらあそこ、と外に出て指さすと数十メートル先に老舗旅館があった。

 

「あれ千歌ん家ね」

 

「近っ」

 

 千歌先輩だけにね。因みにこないだの屋上での演奏会以来先輩方を下の名前で呼ぶこととなった。どうにも苗字は他人行儀で嫌なのだと。

 

「世間って狭いですね」

 

「この辺は特にね」

 

 片田舎であるここはほぼ隣人=知り合いらしい。

 深い人間関係が構築される反面、新しい住人はなかなか定着しないのだという。ある程度完成されてしまった地域感は新たな変化に乏しい事が理由の一つだ。

 

「それにしても鞠莉の奴、余計なことを」

 

「どうかしました?」

 

「あー、いやこっちの話。それよりハーモニカ吹けるって書いてあったけど、折角だし聴かせてよ」

 

「鞠莉さんの奴、余計なことを」

 

 まあ特別隠している訳でも無いし別にいいのだが。というか、私のことまで書いてあるとはあの添え状には何が書かれているのだろう。

 

「了解です」

 

 いつも通り曲のチョイスはこちらでやる。今日の曲はA Perfect Sky。BONNIE PINKの曲だ。CMで起用されていたイメージが強い。エビちゃんが出ていたあれだ。

 松浦先輩はスラリと引き締まったプロポーションは正にモデルと言っても過言では無い。それに加えあの大人っぽさは同性でも見惚れてしまう。そのためこの曲をチョイスした訳だ。

 こないだ屋上で皆で歌い踊った時も楽しかったが、こうやってのんびりと誰か一人の為に演奏するのも悪くない。

 松浦先輩は目を閉じて私の奏でる音に耳を傾けてくれる。それもまたいやに様になるので美人はずるい。

 

「ありがとう。生演奏なんて久し振りに聴いたよ」

 

「やっぱ生に限りますよ」

 

「そんな親父くさい言い方だとビールみたいだよ」

 

 演奏後、松浦先輩は素直な感想をくれた。よかった。やはり音楽が嫌いな人はそうはいない。

 

「松浦先輩は音楽は好きですか?」

 

「果南でいいよ。もちろん好きだよ。楽器は出来ないけどね」

 

「なら復学したらスクールアイドルやってみたらどうですか?千歌先輩とも幼馴染みといいますし、きっと凄く素敵だと思います」

 

 果南先輩は私の言葉に顔を曇らせた。ただ嫌いだとか、そんな顔じゃない。一つの感情では表すことが出来ない、曰く言いがたい表情だ。

 

「やらないよ。私三年生だよ?そんな余裕ないの」

 

 だが、そんな表情をしたのも束の間、すぐに苦笑いしてそう切り返した。

 

「そう、ですか」

 

「星だっけ?鞠莉からホントに何にも言われてないの?」

 

「はい。特には」

 

 ふーん、と果南先輩は顎に手を当てて考え込む。

 そんな様も絵になると思いながら私は果南先輩に別れを告げた。

 


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