ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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久し振りに虚空に向かって雑記でも垂れ流そうかな


第百五十八話

 ここに至るまで必然なんてものは何もなかった。個人的に好きな表現ではないが、所謂“運命”なんてちんけな確信は無かったし、涙だって流した。でも、だからこそ今の自分達がいる。

 今日はラブライブ決勝の前日。私はAqoursと共に沼津を発ち、決勝の地である東京に、そして、スクールアイドルの聖地と化した秋葉原の一画、神田明神にお参りに来ていた。

 澄んだ空の下、そびえる階段は以前ほどの高さを感じない。駆け抜ければあっという間に境内に辿り着いた。

 私達は朱塗りされた御神殿の前に横一列に並び、ご挨拶と共に各々願いを口にする。

 

「会場の全員に想いが届きます様に」

 

「全力が出しきれます様に」

 

「緊張しませんように」

 

「ずらっていいませんように」

 

「すべてのリトルデーモンに喜びを」

 

「浦の星のみんなの想いを」

 

「届けられる歌がうたえますように」

 

「明日のステージが最高のものになりますように」

 

「ラブライブで、優勝できますように」

 

 その願いはラブライブ決勝に向けてのものであるもののみんなバラバラだ。これから一致団結して優勝、という雰囲気とは違って見える。けれど、優勝したいと心の底では思っていると、そう思うのは私がAqoursに優勝して欲しいと願っているからそう錯覚しているのだろうか?

 

「最高の輝きを、みんなが感じられます様に」

 

「星ちゃん・・・」

 

 だからその願いを叶えたい。その想いに突き動かされ私は口を開いたのだ。

 それがあれば本気を出せる。勇気を奮い立たせて一歩を踏み出せる。そんな力を引き出す輝きをAqoursが、私が、そして応援しているみんなが感じられる瞬間を作る。

 表現は遠回りだけれど、それがAqoursが優勝することに繋がると思うし、私自身の目的も果たす願いも含まれる言い方だと思う。

 

「口が十揃えば“叶”ってね」

 

 単なる言葉遊びだけれど、験を担ぐなんてのはそんなものだろう。

 お参りも終えここでの目的の半分は済んだ。もう半分はSaint Snowの二人とも待ち合わせているのだが、まだ来ていないようなので私達はお参りもそこそこに境内を少し見学することにした。

 やるべきことは全てやった。ならばここからすることは心の整理だけだ。きっとそれはスクールアイドルの多くの人も同じなのだろう。境内に奉納された絵馬を見るとそこには沢山の夢が集っていた。中にはラブライブ決勝に出場するチームの名前もある。

 

「これって」

 

「ーーーーー」

 

 言葉にならないアンニュイな気分がみんなから伝わってくる。

 ラブライブに掛ける想い、費やした時間、手にした誇り。その全てに共感出来るからだ。

 傲る訳ではないけれど自分達が勝つことで誰かの夢を終わらせる。順位の付く競技である以上、それは避けられないのだ。

 私もまたそんな内心を想像することは出来ても、みんなに伝えるべき言葉は見つからなかった。

 私はスクールアイドルではないのだ。みんなとは立ち位置が決定的に違う。

 

「こちらに居ましたか」

 

「聖良さん、理亞ちゃん」

 

 ちょっと沈みそうになる空気を破ってくれたのは到着したSaint Snowの二人だ。二人とも目敏く、私達の様子を見てこう口を開いた。

 

「改めて函館ではありがとうございました」

 

 それは貰ったものを返すように、何を貰ったのか思い出させるように聖良さんは柔らかく言った。

 そして理亞ちゃんもまた、彼女なりに言葉を掛けた。ちょっとぶっきらぼうだけど、それこそ彼女らしい。一度見失いかけたスクールアイドル 鹿角 理亞としての姿がそこにはあった。

 

「ルビィ。忘れた訳じゃないでしょうね?」

 

「え?」

 

「がんばるって決めたら」

 

「絶対負けないんだ」

 

「いっしょにがんばってきた」

 

「絶対負けないんだ」

 

「覚えてるじゃない」

 

 そう言って理亞ちゃんはそっぽを向いてしまったけれど、その言葉は私達に気付きをくれる。

 そう、負けないんだ。

 負けないとは続けること。続けるとは勝敗の先にある道のことだ。

 μ’sがスクールアイドルはどこまでも続いていくとその輪を広げたように、Aqoursが夢は終わらないとSaint Snowに示したように。

 勝つことは奪うだけではない。新しい夢の切っ掛けにも成り得るのだ。

 

「遊びじゃない、なんて言葉はもう似合わない」

 

「理亞ちゃん」

 

 “SELF CONTROL!!”で周囲に知らしめるように放っていた言葉、翻せば認めて欲しいと渇望するように歌った言葉はAqoursには不要だと理亞ちゃんは言った。それは理亞ちゃんにとって最大の賛辞だろう。

 

「勝ちたいですか?ラブライブ」

 

 そしてSaint Snowの鹿角 聖良としてAqoursのリーダーである高海千歌に問い掛ける。それはいつかの問答と完全に立場が逆になっていた。

 

「・・・・・・」

 

 自分達が惹かれた耀き。トップスクールアイドルの持つ魅力の正体。それを得るために勝つしか道はないとしたSaint Snow。

 耀きを見つけることで必然的に勝利を得るとしたAqours。けれど、どちらもそのアプローチだけでは限界があると身を持って体感した今、改めて向き合うことが必要だと聖良さんは言っているのだろう。そして千歌先輩はその答えをハッキリと口に出来ない。

 ラブライブで優勝する。そう口にしたし、その為にも努力した。それはAqours全員が自信を持っていえるだろう。

 けれど即答できない。

 こうして多くのスクールアイドルの想いを前に揺らいでしまったからだ。それはラブライブに掛ける想いの大きさを知っているからこそだ。

 

「誰のためのラブライブですか?」

 

 もしかしたら、そんな揺らぎを感じたからこそ聖良さんは問い掛けたのかもしれない。

 

「さて、私達はこれで」

 

「良い席を確保してるんだから。半端なパフォーマンスしてたら承知しないからね」

 

 Saint Snowの二人は答えを聞くこともせず、ただただ私達の胸に問いだけを残して立ち去った。

 

「千歌先輩」

 

「大丈夫。何も考えてなかった訳じゃない。ただ、整理したいかな」

 

「なら、明日は各自自由行動して、秋葉ドーム付近で待合せでどうかな?」

 

 曜先輩の提案に、みんなは目を見合わせて頷いた。各々やはり向き合う時間が必要と共通認識したようだ。

 


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